第二話「通話という名のセクハラ」
皆様ごきげんよう。
佐藤啓二28歳童貞、独身貴族でございます。
魔法使いを名乗るにはいささか早いと存じておりますが、この未熟なる我が身にたった今、不思議な能力が宿っていることが判明致しました。
諸先輩方を差し置き、この若輩めが一足先に魔法を手にしましたこと、大変心苦しく思っております。
ですが、チカラを手にしたこの圧倒的な喜びの前には、そのような若干の後ろめたさも吹き飛ぶというもの。
今、万感の想いを込めて……俺はチカラの象徴たるスマホを両手で持ち、天へと掲げた。
その姿は空より舞い降りし可憐な天使を迎えるかのごとく……あっ、スマホ黒いから堕天使かな。
「ひゃん」
可愛らしい悲鳴は手元から。
くくっ、いい声で鳴きおる。
「マ、マスター。急にそんな……もう少し優しくお願いします。と、そそれよりも先程のお話の続きはよろしいのですか?」
「いい、もういいんだよ」
聖者のような微笑みで俺は答えた。
曰く、俺の願いと能力とやらで彼女は生まれた……らしい。
ならばそういうことにしておこう。
きっとそうに違いない。
普通ならここで詳細を聞き、今後の身の振りを考えたり、なし崩しに事件に巻き込まれたりするのだろう。
物語の主人公はいつだってそういう役割だ。
けれど俺はそんなの嫌だ。
求めているものはただひとつ、長期休暇だけなのだ。
休暇というのは、なんていうかその……誰にも邪魔されない温かくて優しい、日溜まりのような時間であるべきなのです。
故に、このスマホを闇に葬る。
決意を胸に、ベランダの窓を開けて深呼吸。
右手にスマホを持ち、大きく振りかぶって窓の外へ投げーー
ーーーーピリリリリ!
けたたましい着信音。
聞いただけで俺の心を憂鬱にする仕事専用のメロディ。
時刻は午前9時18分。
始業ミーティングが終わったであろうこのタイミングで電話してくるなら、あの無能上司しかいない。
画面を確認するまでもなく、俺は身体に染み付いた動作で無意識に通話ボタンをタッチし耳に当てた。
「「おはよう佐藤君、お休みのところ申し訳ないのだけど、ちょっと聞きたいことがあって」」
耳元で、あの綺麗な声が囁いた。
気の抜けた、何も考えてなさそうな上司の声に被せ、上書きするかのように奴の一言一句をなぞる。
イライラしていた心が軽くなった。
声音一つでこうも変わるというのか。
「いえいえ、お気になさらず。どの件のことですか?」
「んっ……くっ」
「「ああ、○○商事さんの故障対応の件なんだけど」」
「その件なら鈴木先輩が対応されましたので、先輩に尋ねればもっと詳しいお話が聞けるかと」
「あっ、耳くすぐった……あんっだ、だめっ……んん」
だがしかし、だな……俺が話すたび、なにやら艶めかしい喘ぎ声が聞こえてくる。
いやいや、いかんでしょうこれ!
どないしよ。