1章 とりあえずゴブリンになってみる
『俺を楽しませてみろ』
そんな声が俺の頭の中で響く...とうとう俺の眠っていた力が目覚めたかと思ったが気のせいだと自分を納得させる、そんな妄想をしてしまうのもこの退屈な英語の授業のせいだ。ほら、その証拠に眠くなってきた、目の前がぼやけて、意識が遠くなっていく。
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ふと気が付くと、俺の目の前にあったのは自分の常識とはかけ離れた巨大な木とその木の根元で生活?している緑の肌のそれはまるでファンタジー物のアニメやラノベに出てくるゴブリンのイメージそのものだ。
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今、俺の目の前で起こっている光景を誰かに説明しても誰も信じてはくれないだろう、だって雲にすら届く巨大な木の下でゴブリンに囲まれてると言ったら誰が信じてくれるだろうか。
なんてことを考えていると目の前にいる群れの中でも飛び抜けて強そうなゴブリンが話しかけてくる。
「お前は何者だ...敵か?」
なんてことを聞いて来たが、この状況で自分は敵だ。と言う奴は命知らずの大馬鹿者だろう。
「俺は何も知らないんだよ、本当だ」
俺は、信じてくれないだろうと思いつつも敵じゃないと身振り手振りでアピールする。
「...」
暫くゴブリンの群れは何かを考えるように俯いていたが、突然、俺を囲んでいたゴブリンの群れが一斉に近づいてくる。
少なくとも五十匹はいるだろう、ゴブリン達が持っている武器はボロボロではあるが俺1人くらいなら簡単に殺せるだろう。
完全に詰んだ...家族や友人に心の中で謝り、来世では絶対彼女を作ってやると心に決め、俺は目を閉じた...
ところが、いつまでたっても身体に痛みがない、おそるおそる目を開けてみると、ゴブリンの群れは攻撃する気配もなくこちらに手を差し伸べている。
「これは?握手か?」
これは仲間だと思ってくれたという事なのだろうか、
「そうだ、最初は同族にしては魔力が高いので魔王軍が変身した姿かと思ったが、俺たち程度に囲まれて死を覚悟する情けない姿は魔王軍のものではなかったからな」
そんなことをゴブリンの一匹が笑いながら言いやがる。
情けないなんて言われ不可解極まりないがそれよりもっと気になることがある、
「同族、だと...」
「そうだろ?ほら、見てみろ」
と言われ俺は側にある水溜りを覗いてみる、すると、そこに映っていたのは先程まで自分を囲っていたゴブリンとそっくりな自分の姿だった。
どうやら俺はいつの間にかゴブリンになってしまっていたらしい。