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6 条約

 なのに事態は思いがけないカタチに動いてしまった。


 いたいけな子供を巻き込んでしまったことに、関係者一同が深く罪悪感を背負い、反省し、二度とこのようなことが起きないようにしようとした結果……なのだろうか。


 彼氏さんご母堂とミクちゃんとの間で、奇妙な条約が締結されたのだった。


 ミクちゃんは彼氏さんと別れない。


 彼女さんも、別れない。


 そのかわりミクちゃんは九州には行かない。彼女さんは東京へは行かない。


 まっこと彼氏さんにとって都合のいい解決策。


 でも私には、渋い色の和服をビシッと着こなして病室にやってきた、やり手の専務なのだそうなあの女性が、息子可愛さのあまりそんなことを言い出したのではない気がした。


 ミクちゃんのこと気に入ったんでしょう。ね、ね、そうでしょう。隣にいる彼女さん母をはばかって、決して口にはできないけれども。


 息子の嫁としてはこっちも捨てがたいって、思ったでしょう。


 だから息子さんがどうしても別れられないでいるのも理解しちゃったんだよね。


 その上での折衷案。


 でもこれって、ミクちゃんサイドの人間からしたら「ふざけんな!」な解決案でもあって。


 ミヨちゃんはそりゃあもう怒った。「何様だ!!」


 それをなだめたのは、他ならぬミクちゃんだった。


「あたしがそれでいいって言ったんだから」


「それでいいの?ほんとに!?」


「いい。別れる別れない騒ぎには疲れた。自分でない誰かを巻き込んだりするのも、二度といや」


 それでも納得できないでいるミヨちゃんに、ミクちゃんはきっぱりと言い切った、のだそうだ。


「私は彼のことを好きだから、いまのこの状態は別れるよりいい。気にしないで」


 その後、ミヨちゃんは、「なんか……その顔を見てたら、なにも言えなくって……」とお母さんの前で泣いた。


 そのおかしなカタチのまま、はや二年。


 最初はびっくりしていた周囲も、それが何年にもなると、当たり前になる。


 口さがない我が家の女性たちは「あんたいつまで愛人やる気なの」なんてずけずけ言い放ったりもする。


 そのたびミクちゃんは静かに笑う。


 よほど好きなんだろうとしか思えなかった。


 でもこの平衡は長くは保てない。いつか終わる。時期も決まってる。いつまでも大学生でいられるわけじゃないから。


 大学を卒業したら跡取りである彼氏さんは九州に帰らなくちゃいけない。


 彼氏さんの卒業、その一年後のミクちゃんの卒業、それから先は。


 みんなが、息をひそめてその瞬間を見守っていたというのに。


 まさかその日を待たずにこんな終わりかたをするなんて。


 ほんとに、誰も思わなかったのだ。


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