第七話── チビ魔VSナルシ──
クロネル『......チビ魔って言うなし』
ファルク『......ナルシだと?この剣の輝きを帯びた美しい俺様がナルシな訳無いじゃないか♪』
クロネル『......きもっ』
絶え間なく放たれる魔法弾も斬撃によって儚く散っていく。余裕な面を見せるナルシが煽り言葉をかける。
『そんな鉛玉じゃ通用しねぇぜ』
弾と弾の間を縫っていくかのように斬撃が飛ばされるもチビ魔の眼前で静止する。
『そちらこそ魔道士の防御結界を破れないなんてどんだけ腐った人種なんですかぁ?』
後半はただの悪口だったがチビ魔とは違い、ナルシはナルシらしく苛立ちを覚えた。
元々広かったこの空間も今では月のごとくクレーターがあちこちに出来ていた。弾を切っても二つに分かれて四方にちっていくので地面も壁も穴だらけで所々で薄く煙が立っていた。
『これなら......どうかな!』
飛ばされたのは新たな策ではなくただの斬撃のように見えた。が、すぐに異変を感じた。微量だが遅い......。
────ピキッ!
まだ防御結界に届いていないはずなのに数ミリル程度のヒビが入った。
『......クッ!』
できるだけ真横に逃げ魔法陣を構築。幾重にも浮かぶ魔法陣の正面には衰えていく斬撃が目に見えて......魔法陣を破壊した。
先ほどの防御結界と違い半ば変則的にひび割れが起きあちこちに飛散する。
『なっ!』
薄暗い洞窟の中で互いに交差する視線にニヤリと笑うナルシの姿があった。
『分かんないだろチビッ子さん!』
新たに斬撃を飛ばしてきたので魔法を全身にかけ瞬間移動。
『分からないっすけどとりあえず範囲にいなかったらいいんっすね?』
背後に回り零距離放射。頭上に魔法陣を新たに作り流星群を降らす。と同時に魔法陣が儚く散った。
『......!?』
『そうさ。範囲にいなけりゃな!』
逆手に取られ回転切りをくらい風圧を感じさせながら体が吹っ飛んだ。
『魔道士の癖に原理がわからないとはどういうことかなぁ?』
煽り口調で迫るナルシを前に舌を噛む。残念ながら原理がわからない。仕組みを沢山知って初めて魔道士の資格を得るのだ。たかが剣術に魔法を組み込んだだけの木偶の坊にバカにされる理由はない。が、魔法陣を壊す魔法はかなりの高度なはずだし剣術に組み込もうともなれば人体に影響し最悪破裂しかねない。
『解析中なんで黙ってください』
当然何も策が出てきてないわけだがとりあえず答えておく。頭の中で思考加速魔法をかけ先ほどの出来事から策を推測する。同時に全方位からの魔法弾を適当に打ち込んでいくがナルシは立ち止まって冷静に対処する。
『単調だなぁ。魔法が』
『一番簡単にできる魔法っすよ。魔力をほぼ消費しないんす』
両者ともに動かず、剣と魔法だけが重なっていく。解析という名の考え事をしながらチビ魔は顔をこわばらせる。
思考がある決定打へとたどり着いた。そもそも魔法陣を壊す魔法は存在しない。が、魔法陣を壊す武器ならある。遠距離攻撃ができないはずの近接武器がどうして魔法陣を壊せるのか。それは────
『幻......』
小さく呟いたその途端、ナルシの顔が反応した。剣戟が止み魔法弾がナルシにぶつかり硬いものを壊すような感触が残った。と同時に、燃え尽きる炎のように形が無いものが漂い、やがて消え失せた。
『出てこいっす』
『まさかこんなに早くバレるなんて思ってなかったけど......やるわね?おちびちゃん』
『うわきも......ほんとは女性だったんですか......きもっ』
『そんな二回言わなくてもいいでしょ!............とにかく足止めしなさいって言われてるからここから先には行かせないわ』
『そうですか、じゃあ本気で行きますね』
『ええ、どうぞ?』
(はい、おしまい。丁度静夜っちもいないし、狭い空間だからいつもより二割は早く終わるかな)
『どうしたの?かかってきなさいよ』
文字的に少ないけど申し訳ないっす。
『ふぅ......魔力は僕にとって小動物であり僕はそれを喰らい尽くす数多の亡霊を従え、無に還す』
『はぁ?』
首を僅かにかしげたナルシ(女性)だったが変わりなく詠唱を続ける。
『無に還すと新たに魔力が集い、それは僕にとって恭順たる獲物である。』
魔法陣がいくつも全身から出現し、仄かに光る。詠唱はまだ続く。
『頭を垂れよ、弱き虫けら。示すがいい、此方の惨めなさまを......』
ありがたく受け取ってくださいねナルシさん。これが「私」の魔法。そして貴方は三人目の獲物です。
『クロノスオブザチェンジ(変わる時)』
その後の記憶はないが、ある人による証言によると相当危なかったらしい......。
※※※※
『な、何よこいつ......』
多くの驚愕が体を支配しながらも、懸命に抗い続けた。例えるなら、悪魔、狂乱その二つだ。甲高い笑い声が耳を震わせ、目の焦点が合わなくなっていった。指で少しなぞっただけで、あたかも生きているかのように魔法自体が意思を持って飛んでいく。周辺は全て闇に染まり、その容器に体が蝕まわれていくように、体内の魔力が濁っていった。
『や......やめて......』
成すすべなくただ立ち尽くしていた私に向かって急に悪魔は行動を止めた。
『はぁ、精神阻害魔法と闇魔法と毒魔法と吸収魔法を同時に使うとつかれるなぁ』
主に精神魔法によって私は震えていたのか......。
『内緒ね?この話。』
いつの間にかちびっ子に戻っていた時、私は意識を失った。