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罪悪感を感じてか、男の本能からくるものなのか、あらゆる臓器が身体から今にも飛び出しそうだ。
いやいや臓器とまでは、言い過ぎか。
落ち着け文士。いいか。これは事実を確認するための致し方ない認められるべき行為であって、俺の欲望に駆られた末でのことなんかではないのだ。
とりあえず、さっき見えた左側の席の子のハダカを堪能……。ではなくて、事実確認をしようではないか。
なんともいえない、この胸の高鳴り。
いつだって俺は好奇心旺盛でいたい。いや、決して好奇心で女子の裸を見るわけではない。
白いシャツから透けているブラ線から想像しての行動ではないのだ。
この妥当べき行為。
それでは、失礼します。
――ドクン ドクン
左手を女子のところに、ゆっくりと持っていく。
その次の瞬間、女子がこちらを振り向いた。
「ねえ」
もしかして、バレた――?!
実態のない恐怖が瞬時に俺を襲ってくる。もしかしたらこれで俺のこれからの人生は終わってしまうかもしれないのだ。
「変態指田。変態指田」そんな声が頭を何回転も猛スピードで駆け巡る。
頼む。俺を見ないでくれ。
罪の大きさから、女子の目をまっすぐに見ることができない。
「ねぇ」
女子生徒がついに、俺の悪事を今暴露するに違いない。オワタ。オワタ。俺の人生オワタ。
「はい」力なく消え入るように、返事をする。
「これ」
「あぁ」今から転入を受け入れてくれる高校はあるだろか? もしかしたら退学にだってなるかもしれない。
「消し」
「……」卑猥な俺の存在を消せと。
――キーンコーンカーンコーン
絶妙なタイミングでチャイムが鳴る。今から俺は公開処刑にされるんだ。
オワタ。オワタ。
「これ落ちたよ。訊いてるの? 消しゴム落としたよ」
消しゴム?!
「え?!」
「大丈夫? 今日なんか変だよ」女子生徒はそういうと、席を立ってどこかに行った。
消しゴムが落ちたのかよ。てっきり俺はたまりにたまっている性欲がバレて(←やっぱり、性欲だったんかい)公開処刑かと思っていたのだが。
それらは全て、俺の誤解だったということが分かり
今にも呼吸が止まりそうだった俺の呼吸は、目の前の暗闇から一気にバラ色になったと同時に、素晴らしく落ち着き払っていた。
しかし。
先ほどの死にそうな程の恐怖心のトラウマからか、後から何か言ってくるのではなかろうかと、気が気じゃなかったのだが、その女子が、俺に何か言ってくることはなかった。
やましいことは一ミリたりともするまい。そう肝に銘命じた。
学校からの帰り道。ドタンという音がしたので振り返るとおじいさんが道端に倒れていた。「大丈夫ですか」すぐに駆け寄り、おじいさんの身体を起こした。
傷だ。お腹には手術で閉じた様な跡が残っているのが左手を通して透けて見えた。
「すまないねえ。この年になるとね、色々な所が故障して来てねハハ。情けないよ」そういうおじいさんに先が4つの足がついている杖を渡した。
「ありがとうね。5年前に盲腸をやってからどうも病気が続いていてね。足腰も随分と弱ってね」
「盲腸って手術で切りましたか」
「薬で散らせなくてね。切ったけれど、5年経った今でも痛むんだよ。傷跡も大きいしね。でもこうして生かしていただいているんだから感謝をしなくてはね」
「そうですか」その後に続く言葉は思いつかなかった。
「若い時っていうのは自分が健康であることが当たり前だと思って。健康ということが、どんなにありがたい事か気が付かなかったよ。それじゃあ」そういうと、おじいさんは杖をしっかりと握りしめ、片足を引きずるようにしながら、向こうに歩いて行った。
おじいさんの話と俺の見た傷跡が一致していた?! この左手は本物だ、ということなのか?
左手で自分の制服を履いているズボンを見てみる。しかし、そこにあるのはただの左手と、制服だった。