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「嫌じゃないけど、なんで急にかなぁって思ってさ」

「急にでもないよ? あのさ、車で迎えにくる女の人彼女とかじゃないんでしょう?」

「彼女じゃないよ」この前も言ったけど、と思ったがそれは言わないでおいた。

「指田くんが女の人の車に乗ったのを初めて見た時に、出遅れたーと思って後悔しちゃって」

後悔って。出遅れたって? そこをしっかりと訊きたかったが、それを返されたところで、なんて返事をしていいのかも分からないし、お笑いに持って行けるような技術も持っていない。

 というか、俺には女心と言う物が分からない。こうやって早川さんが、それも学年一の美少女が、こうして俺の隣に今存在しているのかすらも、理解することができないでいる。

 

「メアド教えてくれない?」と言いながら早川さんはカバンから携帯を取り出し、それと一緒に、ハンカチが一枚ひらひらと地面に落ちて行った。

 落ちたハンカチを二人が同時に取ろうとして、頭がゴツンとぶつかった。何故か俺はドキドキとしてしまってすぐに身体を起こして、そのハンカチは早川さんが拾った。

「ぶつかったね」という早川さんの顔をみると、にこにことしていた。そして、屈んだ体制のままの早川さんの胸元から、谷間がちらりと覗いていた。

 

家に帰ると、玖珂らむ子ちゃんのことよりも、早川さんの顔ばかりが頭に浮かんできたのは、一体どうしてだろう。

 



=完=

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