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玄関には丁寧にスリッパが揃えてある。
「哲美? 入るわよ」
ユリン母はそういうなり靴を脱いで中へと入って行った。理沙さんも俺も、これ以上先には勝手に入ってはいけないと思い、玄関外で待った。
――哲美いいいいいいいいいいいいいい。
かなり大きな悲鳴だった。理沙さんはすぐにドアを開けるなり、部屋の中へと入って行った。
すぐに俺もその後をすぐ追いかけて中に入った。
リビングに入って直ぐのところで、ユリン母が腰を抜かして座り込んでいる。その先を見ると。
そこには、ユリンが首から血を流して倒れていた。
すぐに理沙さんが脈があるかを確認して「駄目だ、死んでる」と言った。
……。
本物の死体を目にして俺は言葉を失ってしまった。目の前にいる、いや、目の前にある、死体はこの前まできちんと息をしていた人なわけで。
会う前は全く見知らぬ人だったとは言え、今はすでに知っている仲なわけで。
その場の空気が一瞬まるで時間を忘れてしまったかのようにピタッと止まった。しかし次の瞬間に理沙さんが「山田です。死亡者が一名出ました、応援よろしくお願いします」と冷静に電話をして止まっていた時間がまたザワザワと今度は忙しそうにして動き始めた。




