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「はい、もしもし」

「文士君。今日はどうもね」この声は明らかに理沙さんの声だった。が、しかし

「失礼ですがどなたですか」と言ってみることにした。

「私よ~。やだ、こんなに色っぽい声を忘れるなんて失礼しちゃうわ」こういう事をいうところが、理沙さんに間違いなかった。

「なんでこの番号を知っているんですか」

「ユースケに訊いたけど、なにか不都合でもあるかしら」

「いえ、別に不都合なんてないですけどユースケ何も言ってくれなかったので驚いたというか嫌な予感じゃなくて大丈夫っす」

「嫌な予感ってそれってどういう意味なの、私の事じゃないわよね?」

「当たり前じゃないっすか。理沙さんの事ではないです」いや、本当はその悪い予感が的中したというわけなのだが。


「そうよねー。そんなことよりこの番号登録しておきなさいよね」

 なんかこの感じ、尻に敷かれた亭主的なこの妙な感じ。カカア殿下間違いないタイプだよなと思うが、そんなことは絶対に口には出さない。いや、出せない。


「ところで、何か用事でもあったんじゃ」

「特にはないわよ。ただ番号は登録してもらおうと思ったのよ。ところで、戸勝強の家の感想は」

「感想って言われてもさっきも言いましたけど、女の人が掃除をしているみたいに部屋が綺麗だったってことうらいしか」

「そうなのよね。女の人が片付けたみたいに綺麗だったわよね。でもその戸勝強なんだけど、調べてもこれっていう特定の女性が浮かんでこないのよね、まあ潔癖症気味の男ってやつかもしれないけど」

「特定の女性がいないって事は、つまり一夜限りって言う人が多いってことっすかー」そう言いながら、俺はドキドキとしていた。一夜限りって一体どういう感じなわけだよ? なんか、少しやや、少し、いや大いに? それは男のロマンだったりとかしてもいい? 

「でもそれにしても、一夜限りの人が出てこないのよね」

「そんなはずはずないっすよ。だってブラ」そこまで言って俺は口を閉じた。

「だってぶらって、その続きはー?」

「いやなんでもないっすよ」

「なによ、そこまで話したんだから最後まで言いなさいよ。男に二言はないっていうじゃないの」

「いや、それはこういう時に使う言葉じゃないですって」

「どうでもいいけど、それで、だってぶらって何、そこまで言ったんだからいいなさい」

「実はブラジャーがあるのを見てしまって」俺は理沙さんには勝てないと観念していった。

「それ本当。どこにあったのよ」

「部屋のベッドの下の方です」

「そんなもの見たならすぐに言いなさいよ」ん? 何故俺が怒られるんだ。なんか腑に落ちない。

「……」

「下着があるってことは、やっぱり連れ込んでいるってことよね」

それはそうだろう。

 俺のこの部屋を見渡したところで女物の下着なんて一枚も出てきやしなのだから。例え、そんな事があったとしてもそれは、オカンのデカデカかぼちゃパンツって感じだろうし。何故だ? 考えれば考える程に虚しくなってくるのだが。まあ、後は未来の俺に期待するしかない。

 未来の俺、信じてるぜ。


「他には何か見なかったの」

「特に気になったものはなかったですけど。そういえば」

「まだ何かあるの。あるなら早く言って」

「そうたいしたことでもないんですけど、肌がツルツルでした」

「なに、どういうこと」

「玄関で転げそうになった弾みでズボンを透視してしまったんすけど、その脚が綺麗というか、毛がないんすよ。すね毛が」

「男性でもすね毛剃る人がいるって訊いたことはあるけれど、あの人が、へ~。でもやりそうかも」

「自分の周りでもそういうひとがいましたけど、本当に少数派っすよ」

「もしかしたら男性の大切な所の方も毛を剃っているんじゃないかしら、なんてね」理沙さんはぎゃははと笑っている。なんだか、ふざけてるのか、仕事熱心なのかよく分からないと思った。

「大切な所って」

「冗談よ。でもさ、ちょっと興味あるから今度透視してみてくれない」

「興味本位ってだけで視るんすか。そういうのはちょっと」ずるいと言うか。だってユリンの時には指示をしてからということだったのに、理沙さんが興味になる対象は、いつも自由ということなのか?

 それは不平等だ。と俺は思う。


「なにっ優等生発言なんてしているのー。そんな事言って文士君だって女の子の裸見放題なんでしょう? 私がいない時なんかにはさ」


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