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理沙さんは駐車料金を払い終え、運転席に座り、ギアをドアイブに入れ、ハンドブレーキを下げると、左右から車がきていないことを確認してアクセルを踏んだ。
「あんな美女と二人で一緒にいて何も手を出さない自信なんてある」
「それは、俺とユリンがってことですか」
「そうよ。一つの布団というか、家に二人だけの状態でのことよ」
俺にそんなことを訊かれても困る。そんなことを訊かれたって、まずそういう場面に出くわしたことがないのだから。
もし、ここで、正直にそういう事がないからわからないと答えるべきか、躊躇われた。それは俺のプライドの為であった。コイツまだお子様かいと失笑を買いたくはない。
しかし、それだからといって適当に答えるわけにもいかない。
「そんな事を聞かれても」無難に俺はそういった。
「なんか引っかかるのよね。なんで51歳のジジイなんかと寝て、イケメンとは何もないのよ。おかしいと思わない?」
「俺に聞かれても」そんな事分かるわけないだろ。まず、そのジジイと寝るということすら俺には到底理解できないのだから。ジジイはよくてイケメンが無理というその境目が俺に判るはずもない。
「これから、イケメン戸勝強に会いにいくわよ」理沙さんはそういって右にハンドルを切った。
「理沙さんならどうするんっスか。ジジイさんと寝たらイケメンとも寝るんッスか」
「そうねえ、ジジイとは寝ないわね。でも、好みのイケメンだったら……でも、勘違いしないでよ。私そんなに軽い女じゃないのよ」理沙さんはそのごホーホッホッホーと一人で何かやっている。
俺は、あまり関わらないようにしようと思って、その変な笑い方に無視をすることにした。
「着いたわよ」
理沙さんがハザードランプを焚いて、車を停めると、やっとかと思った。
「降りていいっスか。理沙さんの運転荒いから俺酔っちゃいましたよ」
「喋らないと思ってたけど、車酔いしてたの?! それなら早くいいなさいよ」
俺は、車内から飛び降りるようにして外にでると、大きく深呼吸をした。いつもは車酔いなんてしないはずだった。車の運転というのは性格が出るってあれ本当だよな、俺はこの車酔いは間違いなく理沙さんの運転技術にあると再び頷く。
「安全運転だったでしょう」理沙さんは絶対にそんなはずはないと言う態度を見せた。
まぁこんな事で素直にごめんといって謝るような理沙さんではない。自分が納得しない限り謝らないタイプなのである。
ユリンの家とは違い、イケメンの家は古いアパートで、エレベーターなども勿論ついていない。今にも床が抜けおちそうな階段を上っていく。何故か理沙さんは自分が先には行かず、俺を先に行かせたがった。
俺にはその理由がよくわからない。だけど、なんとなくその理由は二つのうちどちらかのような気がした。




