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「やっぱりホステスって儲かるんですね」きゅっきゅと靴の音を立てエレベーターまで歩きながら

理沙さんに訊く。

「そこら辺のサラリーマンの倍は軽くもらっているでしょうね」

理沙さんはなんでもないことのように言うが、この世知辛いご時世でそこらへんのサラリーマンの倍というと、世の中美人に生まれたらそういう仕事ができるということが不公平だと思った。

もしも、俺が女で、美人だったらそういう仕事をするのだろうか。酒臭くて脂ぎっしゅのおじさんの横に座るなんて、できない、無理と俺は思った。そうやって考えると、ユリンの給料の額は妥当なのかもしれなかった。

エレベーターに乗り理沙さんが七階を押す。エレベーターは上昇し、そしてあっという間に七階に着いた。


――ピンポーン


 理沙さんがインターホンを鳴らすと、玄関ドアは開くと美しい顔をした女性が出てきた。この人がユリンか。化粧が濃いと思っていたが、実際はそうでもなく、顔は派手だが、どことなく頼りなさそうな守ってあげたくなる雰囲気があると思った、しかし、そうかといっても見るからに高嶺の花で思うようには近づけないオーラが漂っている。 


 チープではなく、高級そうというか。爪には綺麗にネイルが施され、その長い髪の毛は艶々でいかにも手入れをしているという感じで、この手のタイプには、そうとう自分に自信がある男でないと近づくことができないと感じた。


これが人気ホステスなのか、俺は感心した。


「どうも山田理沙です」理沙さんが名刺を差し出すと丁寧にもユリンは両手で名刺を受取り「どうぞ」と中に入るようにいった。

 ちょっと待て、おーい。おーい。この場合、一体、俺はどうしたらいいんだ?

 名刺なんて高校生で持っているはずねえし。いや持っているやつもいるだろうが、俺は企業家でもなんでもないしよ。名前も告げていないのにまるで金魚のフンの様に後ろについて中に入っていいのだろうか。

 理沙さんが自己紹介してくれるわけでもないので、俺はさっさと中に入って行く理沙さんの後ろ姿を見つめながら、その場所から動かないでただ突っ立っていた。

「そこで、何やっているのよ。早く入りなさい」理沙さんは小声で俺にいう。

「どうしたらいいかわからなくて」素直に俺がそういうと、


「ごめんなさいね。新人で何も分からなくて」理沙さんはユリンにそう説明すると、早く早くと中に入るように俺に手招きをした。大体、制服を脱いでユースケの私服を着せられている俺が社会人に見えるっていうのも無理あるんじゃねと思ったが、そんなことはもちろん口に出せない。


「どうぞ」ユリンは俺の顔を見て言った。


やっぱり美人だ。クッキリとした二重瞼で吸い寄せられるような可愛い唇。目が合ってドキッとする俺。「お邪魔します」そういいながら俺は、耳まで赤くなっていく自分の変化に気が付いた。


とてもいい匂いが部屋中に広がっている。薔薇の様な花のいい匂い。これがホステスナンバーワンの部屋か。色々な妄想が俺の中で勝手に膨らんでいく。

 白木の廊下を通り奥のリビングへと入って行く。

 途中にはに二つの部屋があるみたいだが、扉は閉まっている。こんなに広い所で一人で暮らすなんて、なんて優雅なんだ。贅沢すぎるだろう。閉じられている扉を見ながら、ホステスなんてやっている位なんだからきっとこの中には、衣裳部屋とかがあって、その中の一角に紐パンとかさそういう甘い下着とか色々あるんだろうなと、俺の妄想は果てしない。


 リビングに入ると、白色の三人掛けソファーが置いてあり、そこに座るように言われた理沙さんは「どうも」といいながら腰を落とした。


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