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なんだよ。その決めつけられたような感じは。なんか引っかかるんだが。
「本当に好きになった人、愛する人の名前を出してそんな事をわざわざ書くかしら」
「まぁ確かに」っつーか、足を組み替えるとそのスカートの中身が。パンティーが見えそうッスよ。
「ねえどこ見てるの。ちゃんと私の話を訊いてくれてるの」
――ギクッ
その発言はもしや俺の視線の先に気が付いての事なのか。慌てて視線を窓の方に逸らす。
「訊いていますって」
「ならいいんだけど。文士君もこの先本当に守りたいなって思えるような人が出来たら分かると思うけど、そういう人が出来たら、わざわざそんなこと書かないと思うのよね」
「そんなことっていうのは」
「だから、ユリンって名前を出したりしたら真っ先にうたがわれるのはユリンって子じゃない?」
「そういわれたら、確かに」
「でしょう。本当に愛しているって言うなら。ましてや愛する女の為に死ぬっていうんなら、そんな名前を出すような事をしないでしょう」
「まあそうですね」
俺だって玖珂らむ子ちゃんがもしも、もしも結婚して他の男に盗られたとしてショックを受けて死ぬってなったら、らむ子ちゃんのせいで死にますとは書かないだろう。
そんな事したところで、らむ子ちゃんに迷惑がかかるだけだもんな。まず名前は出さないだろう。
「そう思うでしょ。恨みがあって死ぬっていうのならわかるけど、そうじゃなくて、例えホステスといえども好きになった女でしょう? 絶対そんな事できないわよねえ」
「でもその山地っていう男は初めて人を好きになったんでしょう」
「それだったら尚更の事よ。好きな女に迷惑かけるような事はしないはずよ」
「山地って男が変なやつ、というか変わった人だったりとか」
「いやまあね、独身だしそう思うかもしれないけど。社内で評判は頗る良くてね、少し頑固な所はあったらしいけど、変な人とかではなかったらしいのよね。ストーカーとかそういう事が出来るタイプではないわ」
「でも結婚していないのは何故なんでしょうかね。そんなに評判もよくて仕事も出来るような人が」
「そうね、結婚願望よりも仕事が大好き人間だったらしいわよ」
「まぁそういう人もいるでしょうけど」
「うん。それでその山地さんの死亡したときなんだけど」
ちょっと待ってくれ。そのパンパンに荷物が入った鞄の中から一体どんなものが出てくるっていうんだよ……。




