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未来史シリーズ/レーゲンボーゲン星系のはなし

後悔日誌~きままな宇宙海賊のアットホームな日々

星間共通歴833年12月12日

記述者:ドギー・ドッグハウス


 ノースウエスト・ハイエリアに入って十日。

 朝五時の定時チェック。特に問題なし。


 朝食:パン(ロールパン)

    /バター・ジャム(ブルーベリー/林檎)・蜂蜜・黒蜜のいずれか添え。

    野菜スープ(コンソメ味/キャベツ・人参・セロリ・コーン・クルトン)

    目玉焼き(ターンオーバー2名・蒸し焼き5名・半熟4名)

    厚焼きのベーコン

    果物(オレンジ・林檎・バナナ)

    コーヒーもしくは紅茶(ミルク・砂糖・その他好みで香料)


 例のごとくドクターは果物のみ。

 フランとボマーは目玉焼きに何をかけるか、で延々二十分は論争していた模様。

 フランは半熟に塩こしょう、ボマーはターンオーバーにケチャップだ、と主張。

 しかしそもそも半熟に掛けるものとターンオーバーに合うものを比べても仕方無いと思う。

 面白いので放っておいたら二十分も経っていた。

 その横ではヘルさんが蒸し焼きに黒蜜を掛けていた。

 彼はそれを普段はロールパンではなく食パンにつけて食べるのが好きなのだが。

 ナヴィがそれを不思議そうに見ていた。だが真似はしない。正しい選択だ。

 ちなみにワタシは半熟にしょうゆが好きだ。

 無論、論争に決着はついていない。


 午前中、今後の進行方向について船長室にて考える。

 ノースウエスト・ハイエリアと言えば、他のエリアに比べ、居住可能星系が少ないことで知られている。資料も少ない。後でそのあたりをプロフェッサーと検討が必要。


 十一時の定時チェック。特に問題はなし。


 昼食:シーフード・ピラフ(カレー風味・イカ・タコ・ホタテ)

    コーンクリーム・スープ(散らしパセリ)

    ヨーグルト(好みのジャム/甘味)

    果物(朝と同じ)

    コーヒーもしくは紅茶(ミルク/甘味)


 午後、ふと一つの提案を思い付く。この航海日誌を毎日交代制にすることだ。

 ヘルさんと某星系から出発した時点から続けている日誌だが、さすがに飽きてきた。

 必要かどうかはともかく、後で読み返すと面白いだろうと思って書いていただけなので、考えてみれば、誰が書いても構わないのではなかろうか。

 そう思い、お茶の時間に、全員に集合をかけた。


 ティータイム:

    コーヒーもしくは紅茶

    ミントゼリーもしくはトロピカルゼリー


 提案を切り出したら、皆一様に顔をしかめていた。

 「わざわざ冊子につけるのか」、とプロフェッサーは目を丸くし、「アナクロじゃの」と付け足した。

 結局、「面白そう」と言ったのはナヴィくらいなものである。

 意外なことにヘルさんは何も言わなかった。

 質問は、と問いかけると、アリさんが手を挙げて、書き方の決まりを聞いてきた。

 特に決めてはいなかったので、各自自由に、その日あったことを書けば良い、とワタシは言った。

 ただ、自分以前の者が記述した後に、何か言いたいことがあったら、赤ペンも付けておくので、好きに突っ込んでいい、と告げておいた。

 そうしたら、急に目が生き生きとしてきた者が居た。

 やはり古株から、ということで、


 船長(自分である)→隊長→ドクター→ナヴィ→王子→みっちゃん→プロフェッサー→おかみさん→フラン→ボマー→アリさん


 という順に落ち着いた。特に文句は出ず。


 五時の定時チェック。特に問題はなし。

 夕食:ビーフシチュウ

    主食として好みによりライスかパン

    サラダ(たっぷりの葉野菜+千切りの人参+クルトン+おろしチーズ)

    なすの肉詰め

    緑茶もしくは紅茶

    果物


 シチュウの時の主食が二種類出されるのは、どうしてもこの類のとろみ系の煮込みを米飯に掛けて食べたい、と主張する者のためであったが、やってみるとそう悪くない、ということから、現在では半々となっている。


 十一時の定時チェック、特に問題はなし。

 そろそろ背後のヘルさんの視線が怖いので、このあたりにしておく



星間共通歴833年12月13日

記述者:H.アルンヘルム(隊長と呼べっ!!)


 朝起きた。

 朝食後、特に何も無かった。

 暇だったので、廊下の絵を見てたアリに攻撃を仕掛けた。

 紙一重でかわされる。

 いつもの通り「ありがとうございました」と返される。

 別にオレは奴の師匠になった記憶は無いが向こうが言うならオレ様なので別に構わない。良いことだ。


 昼食後、ラウンジで寝てたらナヴィがまとわりついてきたので一緒に寝た。

 遠くで「度胸あるぜこいつ…」と声が耳に入る。

 だけど猫は懐いてきたら構うものじゃないか。

 暖かいし眠いんだったら抱いて寝るのが普通だろう。何言ってるんだ全く。


 夕飯の後、ドギーが風呂に入ってたので突入する。いろいろする。

 「やっぱりあんた化物だよ」と言われるが何のことかさっぱり判らない。


 今日も一日暇だった。疲れたので寝る。以上。



星間共通歴833年12月14日

記述者:マリエン・バード


 本日はわたしは暇でした。

 ドクターのわたしが暇であるということは良いことです。

 ところで今日はお茶の時間が二回ありました。

 というのも、皆さん今日は、お出かけだったからです。

 わたしは良く知らないのですが、何でも近くのステーションで、隊長やボマーくんやフランさんが良く聞いているような音楽のバンド?のプロモーションがあったそうです。

 もっとも、フランさんは「ライヴだったらともかく、何でプロモーションにまで行きたい訳?」とおかんむりのようでしたが、隊長が行くと言ったら行くのです。

 ボマーくんは「仕方ねえなあ」とか言いつつでしたが、後で、「客の女の子が可愛かったぜ」とか言っていたので、きっと結果的には良かったのではないでしょうか。

 ちなみにその「プロモーション」の様子を二度目のお茶の時間のときにうかがいました。


 一度目のお茶はお三時です。わたしと船長とナヴィちゃんでいただきました。

 今日のお菓子はどうもクリスマス用のケーキの試作らしく、ぎっしりとドライフルーツの詰まったパウンドケーキでした。

 わたしはこうゆうものに関してコメントすることはできませんが、ナヴィちゃんはたいそう気に入ったようで、三切れも食べていました。

 それでお昼も食べられるのだろうか、とすこし心配になりましたが、消費カロリーが多いようです。ちゃんとお昼にはお昼ごはんを食べていました。

 しかし子供のうちから甘いものをこんなに常食していると、肥満のもとです。それとも肥満しない種族もいるのでしょうか。いるのかもしれませんね。いつか探してみましょう。あ、そういえばわたしの夫はそういう体質だったかもしれません。よく彼に聞いておけばよかった。


 二度目のお茶は夜の十時でした。夕食の後です。お菓子はなしです。ただ、帰ってきた彼らはそのお茶にたんとブランデーを注いでいました。

 隊長はどうもそのバンド? の太鼓が好きらしいです。でも「そんなに良い太鼓なのですか?」とわたしがたずねたところ、「違うのよドクター、隊長はあのドラマーがタイプなのよ」と言ってました。

 でも確か隊長は船長とつがいなのではなかったでしょうか。


 その船長は、にこにことその様子を聞いていました。そういえば、「そうですか、似てました?」とも言っていましたね。どういう意味なんでしょう。

 隊長は何も言わず、口の両端を横に大きく広げ、ししし、と音を立てて笑っていました。

 「太鼓は叩かなかったもんなあ」とボマーくんは言ってました。

 何でも明日あさってと、本格的にライヴがあるということで、今日はその前に、新曲のプロモーションに来たんだ、ということです。だからバンド演奏ではなく、ギターやたんばりん? とか使って、軽く歌ってくれたそうです。


 「う~ん、やっぱりあの歌は最高だぜ!」とボマーくんは帰ってからずっと顔が笑ってました。両手のこぶしを握りしめて、明日のライヴにも絶対行く、と張り切ってました。

 すると「でもあんた、当日券出るの?」とフランさんが言いました。

 するとボマーくんは「出てなかったら突っ込んでやる!」と言いました。

 そして隊長に同意を求めました。

 すると隊長は、「ああでも入り口で人間は殺すなよ」と言いました。「隊長にしては珍しいじゃない!」とフランさんは驚いてました。

 すると隊長は「殺すのはいいけど、そしたらライヴが中止になるじゃん」とのことでした。

 なるほど、と二人もうなづいてました。隊長でもそういう方法をとることがあるんですね。わたしも聞いていてびっくりしました。


 こんなかんじでいいでしょうか。明日はナヴィちゃんですね。がんばって。



星間共通歴833年12月15日

記述者:ナヴィル・ディム・ソンゲン


 えーと。「航海日誌」(つづりがややこしいよー)ってなに書けばいいのかわからなかったので、朝、船長に相談にいきました。

 そしたら「何でもいいよ、今日あったことなら」とゆうことだったので、ナヴィが今日見たり聞いたりしたこと、何か書きます。


 きのうおそく帰ってきた隊長とボマーとフランはきょうもお出かけしました。

 ナヴィはひまだったので、プロフェッサーのところへ遊びに行きました。

 プロフェッサーのとこにいるのは好きです。

 ひまだ、と言ったら、「試作品じゃ」と言って、ふにゃふにゃしたロボットをくれました。

 「これなあに?」と聞くと、「まあてきとうに使ってみてみ」と言われました。

 よくわからないけど、ふにゃふにゃとぽわぽわのまじったような手ざわりがきもちいいので、抱っこして艦橋に行きました。

 王子とみっちゃんにさっそく見せたら、みっちゃんはいつものむずかしそうな顔をして、しばらくいじってました。

 王子は「きもちいいねー、僕もプロフェッサーに聞いてみよ」と言ってました。


 遅くになって、ぽわぽわ(まだ名前をつけてません)とうたたねしてたら、三人が帰ってきました。

 ところが何か、三人だけじゃないようです。

 でももうねむいのでねます。ドクターに「子供はもっと良くねむりなさい」と怒られるのはいやだもん。


 おやすみなさい。



星間共通歴833年12月16日

記述者:ヨハン・フリードリヒ・クルゼン


 本日はぼくが日誌を担当させていただきます。

 今日で、この星域に停泊して四日目というところです。

 案外長いな、と感じていたのですが、どうやらそれは、隊長達の計画のためだった様です。

 三人は先日、ある音楽集団の演奏会に行っていたそうなのですが、昨夜戻ってきた彼らは何と、その音楽集団を連れて来てしまったのです。隊長らしいですね。

 でもどうやら、永遠に自分のものにしたい、ということではないようです。隊長はこう言いました。


「だっていくら好きだってあきるじゃん」


 そういうものですか、とぼくが答えると、「当然だ」とのこと。

 なので、一日だけ自分達のために演奏してくれればいい、ということらしいです。

 そこで隊長から、この船の中にそういう場所はないか、と聞かれましたので、ホログラム・ルームで以前は演奏会を何度か開いたことをお話しました。

 それはいい、と隊長はフランさんとボマーさん、それに船長やアリさんまで総動員して準備をしてしまいました。

 船長は「仕方ないですねえ」とにこにこしてましたが、アリさんは首をひねってました。

 しかし彼が一番働いていたと思います。アンプリファイアというのは、どうしてああも重いのでしょうね。

 そして夕方から夜にかけて、ホログラムルームは大騒ぎとなりました。

 ぼくはあまりあの類の音楽は好きではないので、艦橋に居ましたが、みっちゃんがうずうずしていたので、行ってらっしゃい、と送り出してあげました。

 ドクターは大音響はあまり好きではない様でしたので、ぼく達はのんびりと宇宙の様子を見ながらお茶をしてました。フレーバーティに彼女は詳しいです。

 だけどずっとそればかりでも何でしたので、定期ニュースをつけてみましたら、「人気バンド***、誘拐される!」と大騒ぎになってました。


 さてどうするつもりでしょうね。


 明日はみっちゃんです。



星間共通歴833年12月17日

記述者:ミハイル・クルゲローゼル


 何たることだろう…

 また私はやってしまったに違いない。

 朝起きたら、頭が割れる様に痛く、昨夜の記憶がさっぱりなかった。

 いや、途中まではあるのだ。

 ただ、あの音の中に入ってしまった後の記憶がどうにもあいまいなのだ…


 というのも、私には実は、「同じ阿呆なら踊らなきゃ損々」病(ドクター命名)があるらしく、ああいった大音響の少人数編成の楽団の音楽に接してしまうと、理性が切れてしまうらしい。

 だから普段は、なるべくそういう音楽から遠ざかっていたのだが…


 し、しかし、何せすぐ近くだったのだ。

 あの低い振動が足に伝わってきた瞬間、私の肩はつい動きだし、指先を動かしてしまっていたのかもしれない。

 そう、「しれない」だ。私は知らなかった。

 しかし王子から指摘を受けてしまったら、もう止まらない。王子は私に「行ってもいいよ」とあの優しい笑みを向けてくだすった。

 そこで走り出してしまった私は、やはりまだ修行が足りないと言えよう…


 ちなみにその少人数音楽隊は、本日彼らが連れ出されたステーションへと返された模様である。

 私は頭痛のために昼まで寝込んでいたので、伝え聞くばかりだが、軽い昼食をとっていた時の王子の顔が非常に生き生きとしてらしたので、きっと何かまた追撃をこれでもかとばかりにかわされたのだろう…

 艦橋で頭痛に苦しむ私にドクターは優しく薬をすすめてくれた。ああやはり、彼女はこの船の潤いだ。安らぎだ。


 ナヴィが例の「ぽわぽわ」の名前が決まらない、と王子と私にも考えてほしい、と言ってくる。

 王子は少し悩まれた末、「ぽわんぽんでどう?」とおっしゃった。

 ぽわんぽん。ぽわんぽん。ぽわんぽん。私は三秒悩んだ末、「良いお名前ですね」と言った。

 しかしその名前を後でボマーに言ったら、「何だそれーっ」と笑われた。失礼な奴だ。


 明日はプロフェッサーです。よろしくお願いします。



星間共通歴833年12月18日

記述者:マーリン・ハビシャム


 日誌の類なぞ、一体何年ぶりだろう。

 交代ということなので仕方がないのだが、クレイヴ機関で課長なぞやらされて以来なので、文が拙かったら申し訳無い。


 前日、何か大騒ぎがあった様で、隊長から朝、ホログラムルームにクリーナーの「クリちゃん」の要請があった。全く散らかしたもの位、自分で片付けないものか。

 「クリちゃん」は元々プレスパリー社の生活補助メカニクル「プリンシプル・フレキシブル」型を儂流に改造したもので(以下30行程メカニクルの説明)


 ナヴィがお茶の時間に、先日渡したメカニクルに名前を付けた、と言って来た。

 あれはロータスコニュニケーション・プレイグラーンド社の不定形メカニクル「プリプリ」型にナーシス&ハルジオン・カンパニーの輸入生物「メロリンド」の特性を付加したもので(以下20行程説明)


 「ぽわんぽん」と言いながらあちこちを走り回っておった。

 子供向け運動誘発メカニクルとしては有効な様だ。


 夜、食堂でみの字がため息をついておった。

 ドクターの言う所の「同じ阿呆なら(略)」病について悩んでおると言う。

 何を悩むとこがあるのか全く判らないが、彼は彼なりに思うところがあるのだろう。

 もっとも、「同じ(略)」病など、隊長の「壊す(略)」病に比べれば可愛いものだ。

 いい加減開き直ってしまえば良いものを。

 しかし悩むのは若者の特権だ。悩むが良い、若者よ!


 明日はマーサじゃ。愛しとるぞ。



星間共通歴833年12月19日

記述者:マーサ・ハビシャム


 ナヴィちゃんと同じで、私も船長の所へ何を書いたらいいのか聞きに行きました。

 私はうちのひとと違って学がないから、思うことをそのまま字にすることしかできません。

 それでもよいかとたずねたら、かまわないということなので、そのまま書かせてもらいます。


 クリスマスが近づいたので、みなさんにパーティ用の食事のことについて聞きに行きました。

 あんがいみんな、クリスマスのあるところの出身らしく、ケーキと大振りの肉料理さえきっちり用意してあれば問題はなさそうです。

 ただ隊長は、「ザッハトルテがいい」と力を込めてました。それも重い、ずっしりしたものがよいようです。

 船長は「ヘルさんがいいなら」といつもの調子です。

 ナヴィちゃんは「このあいだのドライフルーツのつまったのがいい」ということですし、フランは「できればブッシュドノエルがいいわ」ということでしたが。

 まあ全部作ればいいことですね。大したことではありませんです。

 しかしボマーがリクエストしたのがせ、八宝飯だったのには驚きました。

 ボマーとアリの二人だけが、クリスマスのあるところの出ではありません。

 まあボマーは「ニューイヤーも近いし、だったらそっちと一緒でいーよー」ということで、お菓子をリクエストしてくれたわけです。

 どうもその上に爆竹を取り付けるということですが、いったいあの子の出身はどこなんでしょう。顔はラテン系のくせに。

 それにしてもドクターはどうして果物しかだめなのでしょう。

 フルーツ・デコレーションを作る予定なのですが、せめてサンデーやパフェにできたら、といつも思います。

 うちのひとが「ああいうものじゃから」と言いますからまあいいですが。王子さんとみっちゃんは「皆の習慣に合わせる」ということです。

 ちなみに私たちの故郷では、やはりケーキはスポンジケーキにいちごと生クリームでデコレーション、その上にチョコレートで絵を描いたものです。

 若いころは、私がケーキを作ってあのひとのところへ運んだものです。

 クリスマスなぞ何じゃい、という顔で、前日まで仕事仕事でしたが、それでも当日はむっとした顔のまま「七面鳥もあるんじゃな」と言うんです。作り甲斐があるったらありません。

 すると私は私でケーキに「今年もありがとう愛しているわ」とびっしり書きつらねておくわけです。

 あとあとで息子たちにずいぶんあきれられましたが、いいじゃないですか。


 明日はフランですね。



星間共通歴833年12月20日

記述者:フランシス・ラスホーゲン


 …日誌ってアタシ、嫌いなのよねえ…

 それこそエレメンタリイの頃に、当時の教師が無理矢理書かせたりするからいけないんだわ。

 あーあ、アタシもナヴィちゃんの様に通信教育でも受けたかったわ。

 あ、今日あったことね。

 ああそうそう、今日はお買い物よ。

 せっかくクリスマスも近いんだから、やっぱりお買い物よ。

 で、近くのショッピングステーション「セミラミス」へ行きたい奴を募って行くことになったの。

 でも結構「行きたい!」って言いそうな奴が行かなくて、意外な奴が行こうと言うものね。

 アタシとナヴィとおかみさんと、それとみっしぇると船長が行くことになったのよ! ポムの奴は絶対行くと思ったのになあ。

 で、アタシ、ははーんと思って、船長の後つけてったわけ。

 こりゃ絶対、隊長宛のプレゼントを何か物色しに来たんだなあ、って。

 でもさすが船長よね。途中でアタシに気付いてさ。二度まかれたわ、二度もよ!! このアタシが!!

 それでいてちゃあかと約束の予定の集合場所にはあのにこにこ笑いで現れてさ、「フランに似合いそうな宝石がありましたよ」なんて言うのよ? 

 もちろん船長がそれを買ってくる訳がないじゃない。あのひとは隊長以外何も目に入ってないんだからさ。


 あ、で、見に行ったかって? 行ったわよ! 当然でしょ!


 持っていけって言わんがばかりの20カラットの「ハレイション」の胸飾りよ! 

 「ハレイション」! あの美しさは、確か放浪の詩人アラド・ファンティールが繰り返しその作品の中に登場させたわ。

 うーん、うずうず。

 と言うわけで、アタシ、皆を先に帰してから、その「ハレイション」を取りに行ったわ。

 え? 無論今、アタシの手元にあるのは当然じゃない。

 だけど、よ! 

 ったく船長ったら、アタシにそうゆうことさせて、「セミラミス」のガード・システムを開放させてさ、それを隊長に一気に攻め込ませてるのよ? 

 ま、無論隊長だから、そんなもの、一気にやっちまうんだけどさ。

 でもあとで聞いたら、それも「予行演習」だの「ゲーム」だの、だもんね。全くもう。

 でも今日隊長に遊ばせたってことは、それはクリスマスプレゼントって訳じゃあないのよね。

 …じゃあ本当のクリスマスプレゼントって何かしら? 気になるわ。


 明日はボムの奴ね。がんばってねー



星間共通歴833年12月21日

記述者:イーヴリン・オースティン


 …何で本名で記入しねーといけねーワケ? おれぁこの名が嫌いなんだぁぁぁぁぁ!


 「セミラミス」のゲームに昨日隊長とつきあったせいか、今日は十時までおれは寝てた。

 だから朝何があったかは判らねぇ。


 おっかさんのとこへ遅い朝メシ兼昼メシを食いに行くと、例の新年用の菓子の図を見せられた。

 あのひともすげえよな。だってそうだろ? 何っかもう、何処の料理だって作るしさ。


 おれの故郷は、もう祭りと言えば爆竹を鳴らすってのが普通でさ。

 もううるさいうるさい。

 朝から晩まで、耳をつんざくあのバチバチバチーっていう音が鳴り響くワケさ。

 だけどおっかさんは、んな、おれの風習ーっのかな、やり方なんて、知らんだろ。

 それでもおれの話を聞いただけで、だいたいどんなモノか予想つけて作ってしまうんだからなー。

 うん、やっぱりそれは、スゴイことだと思うしかねぇ。

 おれも大概の花火とかみりゃ、この火薬の配合はどうとか、発射速度は~どんな大気組成の時がキレイか~とかは判るワケよ。

 まー、それが専門ってヤツ? うん、それだけはオレ、自信あるってもんじゃない。

 けどなー、そうゆうイミで言うなら、おれ、船長の専門って、いまだに何なのかさっぱり判んねえんだけどさ。

 何か理系ってのは判るのよ。けど何でもござれって感じだし。けどそれ以外にも、何か、ミューに強そうじゃん。


 …って、そんなトコでイイ? 何書いていいのか、ホント、判んねぇのよ~



星間共通歴833年12月22日

記述者:ムスターファ・アリ・マラケシュ


 本日は、基本時六時半に起床。

 既におかみがいつもの如くに職務に取り組んでおられた。自分はその次にあたる。

 七時頃、食事の用意が整う。自分はその時間についでだ、と彼女と食事をとることとなる。

 この時間より後は、皆各自それぞれ十時位まで食事をすることが可能である。

 何故十時か、と言えば、その時間が過ぎると、彼女が今度は昼食の支度をしなければならないからである。

 「皆あんた程早起きならいいのにねえ」と言われるが、まあそれはその場合によるだろう。

 例えば操縦する二人は時々交代で共通時における「夜中」中その役についていることもあるし、「何か」あれば、それこそ皆夜も昼も無い。それは無論あの子供にしても同様であるし、そのあたりこの船には区別も無い。そして本人もそれはよく判っているだろう。

 しかし考えてみれば、それは凄いことでもあるだろう。

 ナヴィの様な歳の子供はまず学校に通って、子供同士の共同生活の一つも送るなり、親元にあるなり――― 少なくとも自分の星ではそうだったのだ。

 それが全てではないと思うが、自分はそれが正しいと信じていた部分も多いので、まだ慣れない部分もある。

 故に、後の時刻は基本的に「何ごとも無ければ」である。


 七時十五分頃、プロフェッサーがやってくる。おかみはいそいそと給仕をする。

 この後八時まで誰も来ないことからして、この時間のためにわざわざプロフェッサーは起きてくるのだから大したものである。彼こそ、「普通でも」朝も昼も無いというのに。


 八時頃、ナヴィと王子とミハイルがやってくる。

 この運転トリオは、普段もテンポが合っているらしく、喋っていても非常に穏やかである。

 ナヴィが一人でわいわいと前日あったこと、今日あるかもしれないことを色々語るのを、王子が笑ってあいづちをうち、時々何か言ってはミハイルに渋い顔をされている。

 かと言って、ミハイルもナヴィのことは嫌いではないらしく、言葉は少ないが、役に立つことは時々してやっているらしい。


 八時半頃、女性陣がやって来る。

 朝からけたたましいフランドとぼぉっとしているドクターは対称的だ。一応何かしら話し合っている様に見えるのだが、まるで話がかみあっていないのが不思議だ。

 ところでドクターは果物しか食さない。この理由を聞いてみたいと思ったりもしたのだが…

 そしてあとの二人は――― と言えば、隊長が遅ければ遅いし、そうでなければそうではない。

 確か私はその昔軍隊で、「健全な肉体に健全な精神が…」とか学んだ気がするが…


 まあ、世界は広いものだと。

 とりあえず納得することで筆を下させていただく。

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