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ナターシャ=ラプソディ side;(残酷描写あり)

サブタイトル通り 残酷描写がありますので、苦手な方はご注意を。

助けてサイナ。

お願い早く助けに来て。ウィル=ヴィレッジ領への亡命をさせて。

毎日毎日あの男に酷い扱いをされているの。

お父さん達は私の事なんて全くの知らんぷりで、言いつければあの男に言ってきて更に酷い事をされるばかりでこの手紙も内緒で書いているの。お願い助けて。

最近オルボーア国も危なくなってきてるし、全部あの女…アヤカの仕業よ!!

あの女はこの国に災厄をもたらす魔女だったの!!

学校ではあの女に扱き使われて退学してきたのに………。

このままじゃ私まで殺されちゃう。お願い早く私を亡命させて。早く亡命を手引きして頂戴よ。

早く来てよ。もうこれで何十通目だと思ってるのよ!!















月が無い夜。

星明かりさえも木々に隠された深い森…、

オルボーア国とウィル=ヴィレッジ領の境目の森。


ナターシャは闇に紛れる黒いローブを纏い、西へと足を進めていった。

西へ西へと…ウィル=ヴィレッジ領へと。

灯りを付けず荷も持たず、必死に足を急がせてオルボーア国を出ようとしていた。

謂わば密出国である。


「サイナ……あれだけ手紙を送ったのに…何で来てくれないのよ…。」

ぜぇぜぇと荒い息で呟く言葉は、かつて在学していたオルボーア学園では親友と言う関係にまであった少女・サイナへのなじり。

自分はアヤカに切り替えた事た癖に,サイナへ再び乗り換えようとしている。

何とも身勝手な言い分であるにも関わらず、

「まぁいいわ……。親友である私を迎えてくれる筈…」

ナターシャは歩む足を励ます様に御都合を頭に浮かべて進んでいく。


こんなになった可哀相な私をサイナは手厚く歓迎してくれる筈。

良い仕事にも就かせてくれてお給金だって良くしてくれる筈。

少なくとも“あんな暮らし”よりは遥かにマシな筈…!!


「何もかも“あの女”の所為だわ…。だから私は悪くなんか……!!」


■■■


「お前はどうしようもない程につまらないな。」

そう親や周りに何度言われてきたか。多すぎてもう何回目なのか覚えていない。


私はオルボーア国の全ての商業を纏め上げる商会【ラプソディ】商会の一人娘として産まれた。その時から、周りから落胆されていたかもしれない。


自分でも自覚していた。

眼鏡が特徴である事以外,何の特徴も無い人並みの容姿。

どれだけ頑張って勉強しても成績は平均より少し下の頭。

社交度は底辺中の底辺、クズでのろまで酷く内向的な性格。

こんな自分が何より一番大嫌いだった。


オルボーア学園に入学しても、私はクラスに馴染めずにいた。

全部こんな私が悪いんだ…。こんな私が悪いから………。そう思っていた時。


サイナが私に手を差し伸べてくれた。私はその手に直ぐさま飛び付いて、一週間もしない内に親友になった、


サイナ=ウィル=ヴィレッジ=ナイト。

かつて「オルボーアの剣」として大活躍を見せていた騎士・【ナイト】の一族。

ウィル=ヴィレッジ領主の娘と恋愛結婚の末に産まれた一人娘。

容姿端麗、成績優秀、何事も挑戦して良い結果を出す才色兼備。

こんな自分とは真逆の存在。


………そんな彼女が、何故私なんかと親友でいるのか。

私より親友に相応しい人間なんて幾らでもいるじゃない。それなのに何で私なのか?

…ひょっとしたら私は、サイナの引き立て役として利用されているのではないか。


サイナと親友として過ごしていく中でそんな考えが時々浮かんでいた。


【ん? どうしたの、ナータ。】


………まさかね、そんな訳無いわ。

だってサイナは私がヨハン先生を好きになった時も応援してくれた。

一緒にヨハン先生に分からない所を尋ねたり、ヨハン先生が好きなお菓子を差し入れしたりしてくれて、とても助かっている。


サイナがいれば、私はつまらない女じゃなくなる。

だから私はサイナの親友で居続ける……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………けれど。

「唯一無二の親友になったんだもの!! “なっちゃん”って呼ぶからアヤカの事は“あーちゃん”って呼んでね」


オルボーア国の王女となったアヤカ様。

そんな彼女に『親友』宣言をされてしまってはとてもノーと言えなかった。

唯一無二の親友がアヤカ様なのだからこれは仕方無い事なの。

ごめんね。でもサイナなら分かってくれるわよね。

王女のアヤカ様の機嫌を損ねられたら堪らないのよ。

それに別にいいよね?

今まで散々、私を引き立て役に利用してきたのだから。許されるよね?


…そうしてサイナが飛び級でオルボーア学園を卒業した。

それと同時に私はアヤカ様…“あーちゃん”の親友となった。

これで私は幸せになれる………筈だったのに。



どうしてこうなったの? 


【なんていやらしい娘だこと。アヤカ様に取り入るとは…】

【アヤカ様のお目が汚れてしまうからさっさと死んでしまえ。】

【あんたみたいなブスがアヤカ様の隣にいていいと思ってるの?】

1ヶ月もしない内に。私は全校生徒や“あーちゃん”にイジメを受けていた。


【なっちゃんって本当につまんないよねー? それでアヤカの『親友』なの?】


やっと私は…あの女の本性に気付いた。

あの女は最初から私を引き立て役として利用する気で親友に置いたんだと。




私は、アヤカの嫌がらせに耐えかねて学園を自主退学した。

そうして傷付いた私は家に引き篭もって…親から無理矢理結婚をさせられた。


【お前の様な穀潰し、いなくなって清々する!!】


そう言われて結婚させら(おいださ)れた事を、私は一生忘れられない。


それからは―――…。

助けてサイナ。

お願い早く助けに来て。ウィル=ヴィレッジ領への亡命をさせて。


私達親友でしょ!!

それをあんただけ先に逃げるなんて!!

…確かにアヤカの側に付いた事は謝るわ………。

でもそれは…きっとアヤカの『魔法』で操られたからよ!! 

だから私は悪くなんかないわ!! 私はこんなに不幸に遭ってるのに!!

あんただけ独立して悠々自適にしてるなんてズルいわ!!

ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいっ!!!

何でいつもあんたばっかり………。


■■■


「あらあら。やはり此処でしたか。」

突然の声。

ナターシャは声のした前へと向くと、メイド服を来た女が立っていた。


「だ。誰よ貴女……!?」

「ああ、申し遅れましたわ。私,サイナ様に仕えるメイドで御座います。」

「っ!!」

サイナ。その名を耳にしてナターシャはたちまち飛び付いた。


「まさかかつての私と同じルートで密入国に入るとは…、事が終わったら早速このエリアを封鎖しなくてh「全く、遅いじゃないのサイナったら!! するのならさっさと亡命の手引きをしてよね!!」……………。」

小さな呟きを遮るナターシャの愚痴。

「まぁいいわ。其処は“親友”として赦してあげるわよ。」

「………………………………。」

メイドは人形の様にピクリとも表情も変えずに…それでも瞳の奥に揺らめく憎悪が少しばかり強くなったのも知らず、ナターシャの御都合な言葉は止まらない。


「またサイナに取り入って、今度こそ…!!」

「私が不幸になったのは全部“あの女(アヤカ)”の所為だわ。」

「今に見てなさいよ…必ず復讐してやるんだから………!!」


彼女は自覚しない。

今の自分がアヤカと何一つ違わない存在になってしまっている事を…。



「ねぇ、長く歩いた所為で足が疲れたの。ちょっと手を貸してくれないかしら?」

「…かしこまりましたわ。」

そうしてメイドはニッコリと笑みを浮かべながらゆっくりとナターシャへと近付き………。



ズパッ。 空気と"何か"を切り裂く音。

ボドッ。 水を含んだモノが落ちる音。

「……………………………えっ?」


それらが殆ど同時に聞こえたと同時に。


ドジャッ。 ナターシャは突然脚の力が抜けて、地面へ尻餅を付いた。

「え、あ………ふれぇ?」

口に溢れる間抜けな声と目を丸くする顔でメイドを見上げるナターシャ。


「あら? 何を馬鹿面になっておりますのでしょうか?」

メイドの足元には………。

「貴女が望むから軽くして(・・・・)さしあげましたのに」

ナターシャの脚が二本とも丸太の様に転がっていた。


「…ひ、いひいはぁああ脚がぁああ!!! 私の脚がぁあああああああああ!!!!」



「………誰が亡命の手引きをすると? 貴女が先にサイナ様の“親友”である事を捨てた癖に、都合が悪くなると再びサイナ様に取り入るとは全く御都合極まりないおつむですわね。まぁ“あの女(アヤカ)”に散々搾取されたのですから、脳味噌まで“あの女(アヤカ)”と同じになってしまったのですね。」

なんてお可哀相に。

嘆きの言葉を言うがメイドは喚き続けるナターシャへ心底軽蔑の声色で吐き捨てた。


「ああ、あと勘違いなさらないで下さいませ。これは私が勝手な行動ですから、サイナ様をお恨みになるのは筋違いですわ。」


「ひ、あ……ひあああぁあああひゃぁああああっっ!!!」

殺される。このままでは殺されてしまう!!

そうだ。サイナに謝れば命は助かる。


「おおおお願い、サイナに逢わせて!! 私は“あの女(アヤカ)”に『魔法』で操られてっぐふぇ!!」

言葉が途中で途切れたのは、メイドがナターシャの顔面を蹴り飛ばしたからである。


「それは出来ませんわ。サイナ様に寄る寄生虫は掃除しなければなりませんから。」

何せ私はサイナ様のメイドですのでvV

そう言いながらメイドは笑み(プライスレスの微笑み)を浮かべ……………。

「まぁそういう事ですので………逝ってらっしゃいませ。寄生虫が」








翌日。


『ナターシャも行方不明になってるみたいだね。』


「そうみたいですわね。」


『【ラプソディ】から“あれ(ナターシャ)も匿ったのだから私達も亡命させて欲しい”って手紙が来たよ。』


「全く…、一族揃って寄生虫な事極まり無いですわね。」


『当分は領土線防衛に務めなくちゃならないか…。』


「オルボーア国とウィル=ヴィレッジ領の境目の森はまだ封鎖が甘いようですので、すぐにでもかかりますわ。……全く、いなくなっても(・・・・・・・)迷惑な(きせいちゅう)ですわね。 サイナ様」


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