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ランドルフ=ヨルムンガルド side;

オルボーア国・王都。


【我等の幸せを奪った魔女を殺せ!!】

【我等の幸せを奪った魔女に報いを!!】

【魔女を抱き込んだ王族達を皆殺しにしろ!!】


民衆達は今日も繰り広げている。

暴徒の合唱を怨嗟一杯に奏でながら城に向かって行進して。

憎悪を滾らせ、城へと雪崩の様に押し寄せんばかりに城門へと集まって。

憤怒のパレードを今日も繰り広げている。


城の近衛兵達は勿論抵抗した。

だが彼等を纏め上げる頭………かつて【ナイト】に並んで「オルボーアの矛」と呼ばれていた軍爵の一族【ヨルムンガルド】が近衛兵達よりも先に逃げてしまったのだった。

幾ら代々王族の御側人であったとしても、最早オルボーアが落城するのは目に見えていたのだから思わず逃げ出したのも無理は無いだろう。そして頭を失った近衛兵達は結果として暴徒と化した人々を追い払う事が出来ず………民衆側に移るか,逃げ出してしまった。





城下町路地裏。

ゴミの溜まり場となっている場所に、【ヨルムンガルド】の末弟・ランドルフ=ヨルムンガルドはいた。

ボロボロになった鎧を身に付け,全身に薄汚れながら、数年前まで元気いっぱいな子犬の様な雰囲気も今では浮浪者よりも汚らしい野良犬の様な有様であった。

…正確にはランドルフは隠れていた。ゴミ溜めの中に身を潜めて。

必死に暴徒と化した民衆から命辛々逃げてきたのだ。

軍人の癖に逃げるなんて何たる無様だと嗤う者はいるだろうが、それなら濁流押し寄せる津波に身体一つで食い止める事が出来るだろうか。


「な、何で……何でだ…。」

ガタガタと震え、ギョロギョロと忙しなく血走った目を忙しなく動かして呟く。


「どうしてこんな事に……こんな目に俺が…」

ランドルフの様子は、最早健常者には到底戻れなかった。


■■■


何でだ? 何でこんな事になったんだ?

俺はただ俺の事を認めて貰いたくて………。


末弟の俺はいつも出来の良い兄達に比べられてきた。

最初は兄達に追いつこうと必死に頑張ったけれど,結果は兄達の一歩にも近付けず、いつも俺は家族からいないもの扱いをされてきた。

そんな生活が惨めになって、俺はオルボーア学園に入学をした。全寮制でしばらくは顔を合わせずに済む。

【ヨルムンガルド】は兄達が継ぐのだから、腕を磨いて隣国に就こうと決めていた。

学園に入ってから俺は必死になって明るく振る舞った。

今まで家族から虐げられてきた事に必死に目を反らす為に。

“いないもの扱いをされる位なら、道化の様に明るく振る舞って見てもらえ。”

それが俺の処世術だった。

そして俺は"あいつ"と出会ったんだ。

サイナ=ウィル=ヴィレッジ=ナイト。

【ヨルムンガルド】とは対極の、オルボーア国の騎士の一族だった【ナイト】の一族。


【領主の娘なんぞと結婚する為に地位を捨てるとは愚かな奴だ。】

父と兄達との会話に耳にしていた。

【産まれた子は女だそうですよ。いっその事、"あれ(ランドルフ)"と結婚させればウィル=ヴィレッジ領は我等のものに………】

そうだ。

俺があいつと結婚すれば、家族は俺の事を見てくれる。

そう考えて俺はあいつの気を惹こうとした。

最初あいつは顔を俯かせてばかりで暗い雰囲気を纏っていた。

殆ど口開かねぇし、綺麗な容姿なのに勿体ねぇぞ。


………………………………………………………………ったく!!!

いい加減、反応しろよ!!

俺を見ろよ!! 俺はいないものじゃねぇぞ!!

お前だっていないものじゃねぇぞ!! だから………!!


そうして毎日毎日何度も何度も話しかけた結果。



【おはようランドルフ。今日はちゃんと宿題やった?】


【まだやってなかったの? 仕方無いなぁ、見せてあげるよ。】


【ふっふっふ。このボクにかかればこんな問題楽勝だよ。】


【って毎日は駄目だって!! 宿題は勉強の為にやるものだから!!】



あいつは普通に笑う様になって、ナターシャを女友達にしてた。

何だよ。笑えば結構可愛いじゃんか。

……そうして。おれはいつしかあいつ…サイナと一緒にいるのが……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………違った。

「初めまして、アヤカ=シムラといいますっ!! よろしくねっ!!」

そう自己紹介した少女…アヤカを一目見て、俺の心は彼女の虜となったんだ。


アヤカ。

神々しい光と共に現れた美しき少女。その美貌に王族達はたちまち彼女に夢中となって国王と王妃は養子として引き取り、それに反対する者は誰一人としていなかった。

そして何と『魔法』を使えるという驚くべき事実!!

これは何としてもオルボーア国に留めておくべきだと貴族達は言ったが、

"オルボーア学園に通わせて欲しい"というアヤカのお願いによって俺達…、

俺とサイナにナターシャにヨハン先生はアヤカの身辺警護及び話し相手をする事なった。


そうして俺は話をしていく内にようやく真実を知ったんだ。

アヤカだけが本当に俺の事を分かってくれたのだと!!


アヤカが俺に笑いかけている!! アヤカが俺に話をしてくれている!!

嗚呼、嗚呼!! 何て素晴らしいんだ!!


口を合わせる度に、目を合わせる度に。

魔法にかかった・・・・・・・・・・・様な心地だった。


俺は彼女の為なら何だってしてやる。

ネックレスが欲しい?          喜んで!!

もっと可笑しな顔をして笑わせて欲しい? 喜んで!!


そしてアヤカが王女となり、俺はアヤカの為に何でもしてきた事から家族から認めてくれる様になった。それがどれだけ嬉しかった事か!!


嗚呼アヤカ、どうかいつまでも俺を見てくれ。その為だったら何だってしてやる。

お前を虐げてお前の幸せを貪ってきた「姉」なんて、俺が制裁を与えてやる。


【……ありがとうランドルフ君…いえ,ランドルフ…。貴方って本当に優しいのね………】




………あれ?

そういえばサイナの奴、最近見ていないけどどうしたんだ?

………………………………まっ、いいか。














そう。そうやって俺はアヤカの欲しいものを全部与えてきた。願いだって叶えてやった。…時にはアヤカの機嫌を損なう奴等や邪魔だという女達も制裁を加えてきた。

それなのに。


【もう飽きたからばいばいvV】


………は?

あの歪んだ笑みを俺は一生忘れる事は出来無い。

そこから先は、絵に描いた様な破滅だった。


■■■


「何で………どうして…アヤカ………何で俺を捨てたんだ…?」


いつのまにか国の情勢は悪化して民衆の暴動は頻繁に起きていく。更にはアヤカの『魔法』が段々と使えなくなり、アヤカの『魔法』の根源が“オルボーア国の民の幸福”だと知った時には。

そしてやっと認めて貰えたと思っていた矢先に、家族から見捨てられた。

自分だけを捨てて逃げてしまった。


「どうして…こんな事に…何で、俺………サイナ…。」


ランドルフはゴミ溜めにガチガチと震え続ける。

寒いだけではない。恐怖だけでもない。

ランドルフは壊れた様に震え続け,虚ろな表情でぶつぶつと呟き続けていた。


「サイナ……サイナ……。俺………、俺は……………………。」

震える声でサイナを呟くのは後悔か懺悔か懇願か。


いつまでも、いつまでも。

壊れたランドルフはそう呟き続けていました。


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