8.バトル中の音声はモニター越しの控え室には伝わらない
「キエエェェェェエェエェェエエェェエェェェエェェエェ!!」
開始の合図があった途端、ジュピターがキチガイみたいな声を上げながら迫ってくる。その勢いに押されて俺は前に出ることができなかった。
「キエェ!!」
ジュピターがキチガイみたいな声を上げて攻撃してきた。俺は驚きながらも自分の剣で受けた。
「キエエェイ!! キエエ!! エエェェイ!!」
ジュピターの猛攻。攻撃の度にキチガイじみた声を上げているのが何か怖い。ぶっちゃけ俺はドン引きで、反撃もできない。
バトル中の音声はモニター越しの控え室には伝わらない。だから一回戦のときにはジュピターがこんなキチガイであるとは気が付かなかったのだが、コイツマジでヤバい。何がヤバいって、戦闘中に気合を入れるために声を上げる人はいる――剣道なんかでもよく見るシーンだ――が、こんなキチガイみたいな声をキチガイじみた顔で繰り返しやがる。しかもそのくせ、剣戟は的確で速い。
「キェエエエイ!! キアアァア!!」
「この……くそっ!」
俺は何とかキチガ……ジュピターの剣を弾き反撃に転じる。攻撃に力を注いでいるジュピターはそれをまともに喰らったが怯まない。ひたすらに剣を打ち込んでくる。
「何だコイツうぜぇ!!」
恐らく控え室では、俺の劣勢を見てナイトがハラハラしていることだろう。俺の相手がキチガイであるとも知らずに!
何か腹が立ってきたので力任せに敵の剣を弾き飛ばし、思い切り垂直斬りを叩き込んだ。さらに「キエエエェ!!」敵の攻撃を一発受ける代わりにこちらも右斬り上げをぶち込み、続けて右薙ぎを放つが「エエィ!!」阻まれる。そして「キエイ!!」剣を弾かれ「キヤアアァァァ!!」渾身の一撃を貰ってしまう。一気にHPが減少。HPバーの動きに一瞬意識を持って行かれた俺に「キイエエエェェェ!!」ジュピターの追撃が入る。
「くそっ!!」
HP残量では俺が勝っているはず、このままただ斬りまくるだけでも勝てる、と踏んで俺は敵の剣をかわすことをやめ攻撃に全神経を注ぎ込んだ。
お互いの攻撃が全てヒットしていく。俺のHPバーは既に赤。あと一撃喰らうとさすがにヤバい。が、
「キエエエエエエエエエエエエ!!」
今までのお返しにとキチガイな叫びを上げて俺が叩き込んだ袈裟斬りが、ジュピ……キチガイを水色のポリゴン体に変えた。
「勝ったぜイエアアアアァァアァァァアァァァアアアァァァァアアア!!!!」
誰にも聞こえないのをいいことに、俺は全力の雄叫びを上げた。
あとで、運営側には聞かれていたかもしれないと気が付いた。
《勝敗が決定いたしました。勝者、〈レイ〉様。〈ジュピター〉様は敗北となります》
そのアナウンスと共に俺は控え室に帰還した。
「お疲れ。随分妙な戦いだったな」
ナイトがいち早く声をかけてくる。
「あー……うん、すごく変な戦いだった」
「最後なんか防御捨てて斬りまくってたじゃないか。お前らしくなかったな」
「あー、うん、敵がちょっとホラ、そういうタイプだったから」
「ふーん」
適当に誤魔化してナイトを納得させたところで、第8試合、二回戦最後の戦いが始まった。〈ジェイソン〉対〈パーターピン〉のバトルは、ハイスピードな戦闘を制したパーターピンの勝利に終わった。
正直、コイツと戦うときはあの無機質なアナウンスだけで笑う自信がある。というか既に、笑いを我慢するのに相当な集中力を要している。俺は入れ替え系のネタに弱い。
《二回戦で勝ち残られた皆様、お疲れ様でした。続けて三回戦を行います》
大分人数も減り、残りは8人。俺は第4試合なので、最後の試合ということになる。
《では、第1試合を行います》
第1試合が終了し、夜ノ宴が勝ち残る。この男はかなりの猛者のようだ。第2試合でナイトが勝ち上がれば、四回戦ではこの男と当たることになるが、大丈夫だろうか。
《それでは続いて第2試合を行います。出場する〈ヒューバーン〉様、〈ナイト〉様をバトルフィールドに転送します》
ナイトの三人目の相手は、赤い髪に赤い服に赤銅色の剣を持った男。眉間に皺を寄せて、強い視線でナイトを睨んでいる。
《残り5秒。4、3、2、1―――スタートです》
赤い男がダッシュすると同時に、今大会で初めてナイトも地面を蹴った。