7.大赤斑のありそうな男
控え室に戻って残りの二試合を観戦したところで、一回戦は終了となった。
《一回戦で勝ち残られた皆様、お疲れ様でした。続けて二回戦を行います》
疲労は再現されないので当然といえば当然だが、休憩時間はないようだった。とはいえ俺は第7試合なので、あまりすぐには回ってこないだろう。
《では、第1試合を行います。出場する〈夜ノ宴〉様、〈セイレーン〉様を……》
二回戦も順調に進み、第4試合、ナイトの試合がやってくる。相手は〈剣将〉という男だった。
「うわーなんか強そうな名前」
ナイトが転送されてから、俺は一人呟いた。ここまで勝ち残ってきているのだから実際に強いのだろう。ナイトが負けてしまわないか心配である。
《残り5秒。4、3、2、1―――スタートです》
合図と同時に剣将が動いた。凄まじいスピードでナイトに接近する。ナイトは一回戦と同様、その場で構えたまま応戦するつもりのようだ。
機先を制したのはナイトだった。一歩だけ前に出て間合いの感覚を狂わせ、先制攻撃を仕掛けた。だが剣将は驚くべき反応速度で後退し、ナイトの水平斬りを回避。硬質そうな剣を両手で振りかぶり、剛腕をもってして振り下ろす。ナイトは一瞬だけそれをまともに剣で受け、すぐに斜めにして下方に流した。
体勢を崩した剣将の胴を薙ぐ。見事に直撃。剣将は流れていた剣を跳ね上げて反撃する。ナイトは回避しようとしたが、かわし切れず若干のダメージが入ったようである。
少し遠くなった間合いを剣将が瞬時に詰める。ナイトの腹を狙って刺突を放った。ナイトはかわしつつ反撃する。しかし体勢が崩れていたので敵の肩口を掠めるに留まった。剣将が右薙ぎを放つ。直撃。
ナイトは足を止めての打ち合いに臨む。縦斬りでダメージを与えてから、反撃してきた剣将の剣を阻む。敵の剣を弾き、脳天めがけて刺突を放つ。剣将はさすがの反応速度で首を捻り回避した。さらに回転しながらナイトの首元を薙ぐ。ナイトは身を屈めて回避。
剣将はそのまま剣を打ち下ろし、ナイトを攻撃する。さしものナイトもこれは避けられず直撃した。
だがそれは布石だったようで、剣将がほんの少し油断した瞬間にバネのように身を伸ばして首を突いた。さらに続けて逆袈裟。剣将も慌てて反撃しようとするが間に合わず、捨て身とも言えるナイトの猛攻にHPを散らした。
苦々しい顔を見せながら水色のポリゴン体となって消滅する剣将。ナイトはそれを見て、またもや見当違いの方向にガッツポーズを送った。
《勝敗が決定いたしました。勝者、〈ナイト〉様。〈剣将〉様は敗北となります》
「……ふう」
俺は密かに詰めていた息を吐き出した。パワー型の2人が互いのHPを削り合う、スピーディでスリリングな一戦だった。ナイトが負けてもおかしくない戦いだった。実際、ナイトのHP残量もそう多くはなかっただろう。
「よっ、ただいま」
バトルフィールドから再転送されてきたナイトが俺に声をかけた。
「お疲れさん。ちょっとひやひやしたぜ」
「あー、今の奴は強かったな。俺も怖かったよ」
「HPどれくらい残ってたんだ?」
「うーん、3割ぐらいかな」
思ったよりは余裕があったが、それでもこのゲームでは油断できない残量である。このゲームは、剣同士の戦いに疾走感を求めるためなのか何なのか、一撃の攻撃力が大きい設定になっている。5、6発まともに斬撃を入れればHPが消滅してしまう。
そんなことを考えている内に第5試合は勝敗が決したようである。勝ったのは〈ゼウス〉という、全智全能っぽい名前を持った男。さらに第6試合が行われ、〈フェニックス〉とやらが勝ち上がる。
次は第7試合、俺の出番である。相手はジュピターという大赤斑がありそうな男。一回戦を見る限り、なかなかの強敵になりそうだった。
バトルフィールドで対峙したジュピターは、藍色を基調とした服をまとった痩躯の男だった。名前に反して腕輪をつけていたのでちょっと笑ってしまった。
《残り5秒》
緩んだ気持ちを引き締め直す。
《4、3、2、1―――スタートです》