4.俺は勝ち上がるんだからお前次第だろ
俺が剣を振るう。茶髪の敵が受け、火花が散る。敵は俺の頭に向けて上段蹴りを放った。俺は剣を引き戻しつつ回避、その脚を狙って斬撃を放った。ヒット。だが敵は気にすることもなく冷静に脚を下ろし、その影から突きを放つ。俺は危ないところで回避し、後ろに跳びずさった。
「なかなかやるじゃないか」
俺は冷や汗を流しながら見栄を張った。茶髪の敵もフッと笑って肩をすくめた。
「そっちこそ」
「どー…もッ!」
台詞の最後が跳ねたのは、不意打ちでの接近を試みたからだ。敵はさすがに驚いた顔を見せ、しかし冷静に防御態勢を取る。
敵が掲げた剣に自分の剣を叩きつけ、力尽くで一瞬の隙を作る。すぐさま剣を跳ね上げ、水平斬りを放つ。見事に直撃。これでHPでは俺が勝った筈だ。
そのまま右斬り上げを強行するが、敵も二撃目を喰らうほど間抜けではない。自分の剣できっちりガード。俺の剣を弾き反撃に転じる。今度は俺がそれを防ぎ、やはり弾いて斬り上げる。
しばらく剣戟の応酬が続く。ナイトはとっくに青髪を倒し、今は俺に無粋な乱入者が斬りかかってこないように警備してくれている。そのおかげで俺はこの強敵との戦いに集中できている。
HPは互いに半分を割っている。もしかしたらあちらはもう少し少ないかもしれない。
このままHPを削り合っても仕方ない。俺はナイトが若干余裕を持っているのを確認して、敵の剣を受けた。ぎゃりっと不快な音を立てて剣を捻り、鍔迫り合いに持ち込む。
「ナイト!!」
ナイトがさっと振り返り、状況を素早く判断したようで茶髪に斬りかかった。茶髪はそれを見て瞬時に跳び退くが間に合わない。ナイトの剣が茶髪を斬り裂いた。それでは倒し切れないと判断した俺は数歩分距離を詰め、「ふッ」と気合を込めて愛剣を振るった。
だがそれでも倒し切るには至らない。怒っているともとれるような表情を浮かべた茶髪が反撃に転じる。
が―――二人というのは強いものである。俺が茶髪の剣を受けている間にナイトが水平斬りを叩き込む。それで隙ができた瞬間に今度は俺が攻撃を加える。それでHPが尽きたらしく、茶髪は無数のポリゴン体に変貌した。
「ふぅ、ちょっと危なかったな」
俺は冷や汗を拭いながら――実際には『冷や汗』なるものは再現されないので、そういう仕草のみだが――言った。HPバーに目をやると、黄色く染まったそれの残量は4割というところだった。
「もう残り人数もだいぶ少なくなってきてるな」
ナイトが辺りを見回しながら言う。団体様も相当数を失っているようで、残りは30人もいないように思える。
「これ以上リスクを冒してもしょうがないから……ここからは少し保身的に行こうか」
「ああ……悪いな」
俺は少し罪悪感を覚えつつ頷いた。あの茶髪の敵との戦いで一気に6割もHPを消耗している。これ以上人数を減らそうとしても、無駄にリスクが高まるだけだ。
俺たちは、襲いかかってきた奴だけを相手することにして、やや消極的に予選の終了を待つことにした。
その後、俺たち2人で1人ずつを相手にしたものの、難なく倒すことができた。そして―――、
《皆様お疲れ様でした。残り人数が規定数に達しました。他プレイヤーのHPへの干渉を全て無効化します》
機械的なアナウンスが告げた。辺りを見回せば、俺とナイトを除くと14人のプレイヤーのみが残っている。最初は186人の半分、93人がいた訳だから、それを考えると相当な数がポリゴン体になったということになる。
《皆様はAグループで勝ち残られました。この後30分間の休憩を挟み、本戦を開催いたします。尚、本戦の組み合わせは予選と同様コンピューターでランダムに決定されます》
俺は剣をひゅんと右に払った。特に意味はないのだが、癖のようなものでついそうしてしまう。
《また、参加者の皆様は次ログイン時、自動的にこちらの大会専用サーバーに接続されます。特別な手続き等は必要ありませんのでご安心下さい》
何をどうご安心するのだかよく分からないが、まあ余計な手間が減るのは素直に嬉しい。
《Bグループの予選は既に終了していますので、本戦は今からちょうど30分後、10時58分に開始されます。それまでにログインを完了するようお願い致します。時間までにログインが完了されなかったプレイヤーに関しましては、大会本戦へ参加できなくなりますのでご注意ください》
10時58分という時間を頭に刻み、俺はログアウトすべくメニュー画面を開く動作を行った。開かれたメニューの中からログアウトボタンをタップ―――の前に、ナイトに声をかけた。
「んじゃ、あとでな。決勝まで当たらないといいけど」
「一度も当たらないのが最悪だけどな」
俺は少し笑い、
「俺はどうせ勝ち上がるんだから、あとはお前次第だろ」
と軽口を言った。
「何言ってんだ、俺は勝ち上がるんだからお前次第だろ」
ナイトがほぼ同じ内容で抗議したところで、じゃ、と手を振って俺はBROからログアウトした。