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2.俺には中学3年生になるいもうとがいる

 俺とナイトは、来る日も来る日もVR世界にダイブを続け、ひたすらBROでの修練を積んだ。


 そして、ついにOOBC当日を迎えた。俺は朝からダイブし、最後の修練ということで現在ナイトと剣を交えている。大会は10時開始なので、残り時間はあと15分程度だ。


「らァッ!!」


 ナイトの突きが俺の頬骨を抉る。俺は一歩踏み込んで胴を狙って横薙ぎを放つ。ナイトは後ろに飛んで回避、と同時に剣を水平に振るう。身を屈めて回避しつつ、相手の動きを窺う。


 ナイトはよろけていた。これ好機とみて攻め込む。大きく剣を振りかぶって垂直斬り、剣道で言うところの唐竹を叩き込む。ナイトは自分の剣でそれを受け、互いの動きが硬直した。


 俺はわざと剣を弾かれて距離を取り、再接近。今度は右薙ぎをお見舞いする。ナイトが防御姿勢を取ったのを見て、瞬時に剣を引き戻し突きに変更する。相手は少々の驚きを露わにしながら身体を捻った。俺はそのまま横薙ぎを放つ。ナイトは剣を振り上げ、叩きつけるようにして俺の剣を弾いた。


 ナイトが左上からの斬り下ろし、袈裟斬りを放つ。普通は避ける場面だが、俺は敢えてそうせずに大きく踏み込む。左肩でナイトの剣の鍔元を受け、減っていくHPバーには目もくれずに左斬り上げ。俺の剣はベストな位置でナイトの身体を斬り裂き、しかしHPを削り切るまでには至らずに、むしろ俺に致命的な隙を作る。


 ナイトは若干身を引いて俺の肩を斬り、そのまま剣を斬り下ろした。鉈のような使い方ではあるが、この世界ではダメージが発生し、ダメージが発生しさえすればHPが減少し、HPが減少すれば―――。


 俺の身体は水色のポリゴン体となって爆散。ナイトと2mほどの距離を取って再構築された。


「くそう、俺の負けか!」

「あっはっは! これが正しい結果だな」


 いかにも幸先の悪いスタートではあるが、これは大会とは全く関係ない。そう割り切って俺は剣をひゅんと一振りした。


「さて、大会まではあと……10分ぐらいか」

「そろそろ行って、他の参加者の偵察でもしておくか?」


 ナイトの言葉に俺はこくりと頷いた。


「えーっと、大会に参加するには一回落ちないといけないんだっけ?」

「ああ。専用のサーバーに繋ぎ直すんだってな」

「よし、じゃまたあとでな」

「おう」


 俺は右手の人差指と親指でL字を作り、小さく左右に振った。BROにおける、メニュー画面を呼び出すための動作である。俺の前に白っぽいメニュー画面が表示された。俺はその中から『ログアウト』のボタンをタップした。


 意識が一瞬遠ざかり、覚醒したところは自分の部屋だった。


「まったく、いちいち面倒だな」


 俺はオルトロスを頭からはずし、台所に行ってコップ1杯の水を喉に流し込む。ダイブ中は基本的に栄養補給が不可能なため、休憩時に水分なり食事なりを摂っておく必要があるのだ。


 再び自室に戻り、オルトロスを被った。いもうと――言っていなかったが俺にはもうすぐ中学3年生になるいもうとがいる――の(あや)の「おにいちゃんまたBRO?」という呆れ気味の声に「ああ」とだけ応じてリンクスタートの口上、『トリップ、ブイアールバトルリストリクテッドオンライン』という言葉を口にした。相変わらず長くて困る。


 意識が曖昧になり、一瞬の後に覚醒する。そこは、黒くてだだっ広い空間だった。最初にログインした時に来た場所だった気がする。


〔平素より『VR Battle Restricted Online』をご愛用いただき、ありがとうございます。本ゲームでは現在、『Opened Online Battle Contest 日本大会』への参加者を募集しております。参加なさいますか?〕


 そんな簡素なメッセージウィンドウが目の前に浮かび、それを読み終えた頃に〔Yes / No〕のボタンがついたタブが出現した。俺は迷わず〔Yes〕を選択。すると続いて、


〔参加表明を確認しました。専用サーバーに接続します〕


 再びウィンドウが浮かんだ。一瞬の間の後、俺の身体は真っ白な部屋にあった。


 黒と白の瞬時の切り替わりに少々目眩を感じつつも、俺は辺りを見回した。100人――いや200人にも及びそうな参加者たち。

 ベータテスト時の募集人数は1000人だったので、それに比べれば可愛いものではあるが、それでもやはり、かなり多い。学校の全校生徒は500とちょっとだから、それと比べてもやはり少ないのだが、どうしても多く感じてしまうのは―――全員が帯剣しているせいか。


「レイ!」


 声の主はもちろんナイトだ。BROでは、完全ランダム制の外見と同様に、声もランダム制である。外見とは基本的にマッチしており、屈強な男であるナイトの声もやはり、屈強そうである。


「早いな」

「まあな、早業だろ」


 俺もそこそこのスピードで再ログインした筈なのだが、ナイトはそれすら超越するスピードだった。


「なぁ、これ全部OOBCの参加者なんだよな?」


 ナイトの発言に、周囲のプレイヤーが一瞥をくれる。


「専用サーバーに繋いでるんだから、そうだろうな」

「……多くね?」


 ナイトの言葉に、俺も小さく首肯した。


「そうだな。150……いや200近くいるか? 世間的に見ればそんなに多い数字じゃないけど……」

「これで大会やるとなると、相当時間がかかる……」


 そのとき、キーンコーン、キーンコーンとチャイムが鳴った。


《参加受付終了の時刻になりました。只今を持ちまして、『Opened Online Battle Contest日本大会』の参加受付は終了致します。したがって、現在控え室におられる方々が参加者の全員となります。現在控え室におられる計186名のプレイヤーの皆様が、『Opened Online Battle Contest 日本大会』の参加者となります》


 機械的な声のアナウンス。抑揚もなく、言葉遣いも形式ばっている。


 186名の参加者。やはり200名近くのプレイヤーがこの部屋に居合わせていたことになる。


《ではまず、本大会のルール説明をさせていただきます》


 アナウンスは続ける。


《この『Opened Online Battle Contest 日本大会』は、予選と本戦の二段階に分けて実施されます。予選は二組に分かれ、バトルロワイヤル形式で戦っていただきます。予選に勝ち残った32名が本戦に進み、そこからはトーナメント形式で戦っていただき、残った1名を優勝者とし、優勝者には秋田米5kgを後日進呈いたします》


 タコ部屋もとい控え室に集められたプレイヤーたちが、一瞬ざわめく。そんなに秋田米が欲しいのかよ。


「あの噂は、本当だったのか……!」


 誰かが呟く。いやそんな大仰な台詞を吐かれましても。


《予選、本戦の一回戦の組み合わせは、コンピューターが決定したランダムな組み合わせです。不正の余地はありませんのでご安心ください》


 その点は疑っていないが、それだけに不安である。決勝でナイトと当たるならドラマチックで面白いが、二回戦とかで当たってしまったらなんかつまらない。何を求めてるんだよと言われそうだが、人生にはドラマ性が必要なのである。


《それでは早速、予選を開始します。皆様にはランダムで2組に分かれていただき、バトルロワイヤルで戦っていただきます。残り人数がそれぞれ16名になった時点で自動的に終了します。制限時間はありませんので、ご自由に戦闘をお楽しみ下さい》


 アナウンスの言葉が途切れると、プレイヤーたちの身体が光り始める。俺の身体も例に漏れず、白く発光していた。


《では皆様、健闘をお祈りします》


 そんな言葉を最後に、俺の意識は控え室から離れた。

 タイトル詐欺とか言わないで……

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