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1.ぼっちもどきゲーマー

「へあぁッ!!」


 俺の振るう黒い剣が相手の鼻先を掠める。相手は上体を大きくそらした体勢で回避しつつ、お返しとばかりに剣を振るってきた。俺は後ろに飛び退きそれをかわす。


 相手が体勢を立て直すのと俺が着地するのは殆ど同時だった。相手が間合いを詰めてくる。半ば突きのような斬撃を繰り出してきた。俺が身体を捻って回避すると、今度は俺の首の高さを水平に薙ぐ。屈んで回避。


 そのままバネのように脚を伸ばし、同時に左下から斬り上げる。相手は手首を捻り、かなり無茶な体勢で自分の剣で受けた。


 相手が左脚を一歩引き、体勢を整える。攻撃を加えようかと思ったが反撃を察知して後ろに飛び退く。俺のいた場所を銀色の刃の尻尾が斬り裂いた。


 俺は二歩ほど前に踏み出し突きを放つ。相手は剣を引き戻し、俺の剣の軌道を逸らす。俺は剣を引き剥がすと、一回転して左薙ぎ。こちらも防がれた。それどころか剣を弾かれ、反撃される。

 それをなんとか回避し、一旦距離を取る。と見せかけて即接近。相手が驚いて僅かに動きを止めたところで容赦なく右下から斬り上げる。


 相手が自分の剣を叩きつけて受ける。互いの動きが止まった。


 だが俺はそこからさらに踏み込み、相手の左脚を狙って突きを放った。脚では致命傷にはならない筈だが、それでもいい。あと一撃決まれば。


 俺の意図を察して相手が左脚を上げる。体勢が崩れる。俺は即座に剣を引き戻す。相手が防御態勢を取る、俺が突きを放つ―――。


 キイィィィィ、と耳障りな音が空間を劈いた。


 俺の剣は相手の右胸を貫いていた。


 相手の剣は俺の剣の軌道をずらしかけたが、俺はそのまま無理矢理突きをねじ込んだ。相手は身体を捻って回避しようとしたがそれも間に合わず、剣と剣がこすれるコウモリが鳴くような音を立て、最終的には俺の突きが相手を貫いたらしい。


「くそっ」


 相手が呟くと同時に、その姿が無数のポリゴン体となって爆散する。

 ―――そしてすぐに、俺から2mほど離れたところで再構築された。


「今回は俺の勝ちだな」


 俺は勝ち誇って言う。


「ああ……。ちぇっ、もう少しだったんだけどなぁ」


 なかなかに屈強な体つきをした相手――御影みかげ月夜つくよ、この世界での名は〈ナイト〉――は唇を尖らせて言った。


「危なかったよ。あと一撃喰らったら俺がやられてた」


 ランダム生成で俺の身体の一部となった、ナイトとは対照的に細い肩をすくめて、視界の右下に表示されている自分のHPバーを確認した。赤く染まったそれは、もうあと数ドット分しか残っていない。急所どころか、二の腕だろうと爪先だろうと貫かれればポリゴンになっていたのは俺だっただろう。


「これで4勝4敗か……」


 ナイトは呟いた。彼の言う通り、今の俺の勝利でBRO内での俺たちの勝負は4勝4敗、総合的には拮抗した状態になっている。


「俺たちそこそこ強いよな?」

「いや他の奴と戦ったことないから分からんが」

「でもさ、もし強いとしたら、『あの大会』の決勝で俺たち当たっちゃったりするんじゃないか?」


 ナイトの言葉に、俺は「ああ……」と呟いた。




 BROはその名の通り、限られた条件下でのみオンライン状態となるゲームだ。


 BROを始めると、『バトルID』というものが配布される。どういう仕組みになっているのかは知らないが、それは誰一人として同じではなく、そのIDで相手を指定することによってオンライン状態でバトルすることができる。限られた条件というのはそれだ。


 犯罪防止だか何だかの理由で作られたこのシステムだが、ある種の人間にとってこれはマイナスにしかならない。

 つまり、ぼっちである。友達がおらず、孤立した人間は、誰のバトルIDも知らず、ゲームを楽しむことができない。一応、ごく少ない行動ルーチンに従って動くAIと戦うこともできるのだが、それでは面白くもなんともない。


 俺もナイトもぼっちではない。が、今、ぼっちとほぼ同様の現象が起きている。


 すなわち、プレイヤーがいないのだ。


 ベータテストのときは、俺のような超がつくほど幸運な人間はそうそうおらず、知り合いのプレイヤーは1人もいなかった。他のプレイヤーたちもそうだったのだろう。とあるサイトでは、BROのテストプレイヤーたちがバトルIDをこぞって公開しまくっていた。


 正式なサービスが始まった後でも、状況はそう改善しなかった。オルトロスのアホみたいな価格と、BROのアホみたいな価格のせいである。それを両方いっぺんに入手できる金持ちはやはりそうそうおらず、結局プレイヤーはそんなに増えなかった。

 その金持ちのうちの1人が、今俺の目の前にいるナイト、御影月夜なのだが、それで俺は相当助かっている。こいつがいなかったら、俺は単調な動きしかできないAIとひたすら戦って、すぐに飽きて放置していただろう。


 閑話休題、ぼっちもどきゲーマーの話に戻す。


 そんなぼっちもどきゲーマーたちにも、BROを開発したアメリカのゲーム会社『Cerberus(サーベラス)』は救済措置を残していた。


 それがすなわち、先程ナイトが口にした『あの大会』なのである。


 通称『OOBC』――正式名称は『Opened Online Battle Contest』。参加者完全オンライン制の大会である。


 恐らく、殆どのBROプレイヤーがこの大会に参加する。そして、真のナンバーワンプレイヤーを決めるのだ。俺とナイトも、これに出場する予定でいる。

 この大会で優勝すると、秋田米5kgがもらえる。何故秋田米なのかは全く以て謎だが、まあもらって損はない。ついでだからそれも頂戴するつもりだ。


 そしてその大会が開催されるのは1ヶ月後。それまで毎日鍛錬を続ければ、かなりVR世界での戦闘になれることができるだろう。


 先程ナイトが言ったように、俺たち2人で優勝を争うというような展開もないとは言い切れない。そうなったらもちろん全力で戦う所存ではあるが、ここまで手の内を見せ合っているので、どちらが勝ってもまったくおかしくはない。




「レイと当たったら楽勝だな」


 ナイトがそんな軽口をたたく。〈レイ〉というのはこのゲームにおける俺の名前で、由来は尊敬するある有名人が『玲』という漢字をよく使うからである。


「今さっき負けたばっかりで説得力に欠けますよナイトさん」

「うるせ」


 ナイトは俺を一睨みしてから、左手に収まる鉄剣を少しばかり持ち上げた。


「んじゃ……もういっちょやっとくか」

「ああ」


 ジャキッと金属音をさせて剣を構える。その2秒後、俺とナイトは地面を蹴って接近していた。

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