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12.クールなイメージが台無し

《それでは続いて第2試合を行います。出場する〈レイ〉様、〈ゼウス〉様をバトルフィールドに転送します》


 草原に立った俺は、無表情にこちらを見ている、髪のやや長い男と対峙した。予選で俺に不意打ちを仕掛けてきた男だ。俺はあのとき『あんたとは本戦で戦うことにする』と言ったが、まさか本当に本戦、しかも準決勝で戦うことになるとは思ってもみなかった。


 ゼウスはいかにも冷静そうで、小細工は通用しなさそうだ。右手に握る剣は暗い銀色。どことなく妖しげな雰囲気を醸し出している。


《残り5秒》


 たっぷりと敵を観察した俺は、その合図と共に剣を構えた。ゼウスはコキコキと首を鳴らしただけで、構える様子はない。


《4、3、2、1―――スタートです》


 その瞬間、俺は一気に間合いを詰めた。それを見てゼウスは億劫そうに剣を持ち上げる。


 2本の剣が交差し、火花を散らした。いきなりの鍔迫り合い。だが徐々に押し込まれる。ゼウスが絶妙な角度で剣を当て、俺が力を入れづらい体勢になるように維持しているからだ。やはりここまで勝ち残っているだけあって、かなりの猛者だ。


 しかし俺も負けていられない。きゃりっと若干角度をずらし、押し出すようにして敵の剣を弾く。そのままの形で回転し、頭部を水平に斬り裂く。ゼウスは瞬き一つせずそれを受け、代わりに右斬り上げを放ってきた。俺もかわさずに受ける。


 俺は回転の勢いを殺しながら手首を捻り、さっきとは反対方向に薙ぐ。ゼウスは跳ね上がっていた剣をそのまま少しずらし、俺の斬撃を防いだ。


 後ろに大きくステップし距離を取る。余裕の表れか、ゼウスは追ってこなかった。


「さすがに強いな……クソッ」


 俺は敵に聞こえない程度の小声で呟いた。反応速度、状況判断能力、剣捌き。どれをとっても超一流だ。気を抜けば一瞬でられる。冷や汗が頬を伝った、ような気がした。


 呼吸を整え、剣を構え直す。そして地面を蹴った。意外なことに、ゼウスも接近してくる。さらにそのまま突きを放った。俺の顔面めがけて肉薄してくる銀の剣。


 俺は体勢を低めて回避すると、さらに間合いを詰め胴に左薙ぎを叩き込む。一刀両断。そのまま脇を駆け抜けるが、ゼウスは半回転して水平斬りを当てにくる。俺はゼウスのほうに向き直り、剣のハンドガードに近い部分で防御した。


 だが無理にガードしたせいで体勢が崩れた。上手く力が入らず、後ろに倒れ込む。ゼウスはこれ好機とばかりに俺の胸元に剣を突き立てた。さらに右腕を踏みつけられ、握った剣の自由を奪われた。


 ゼウスは剣を引き抜くと、再び胸元に突き刺した。視界の右端でHPバーが長さを減らしていくのが見える。もう半分もない。もう一度抜く。俺は必死に抵抗しているが、右腕の拘束を解くことはできない。また刺された。


 ゼウスが剣を抜き、HPバーが赤く染まった。最後の一撃、とばかりにゼウスがまた胸を突こうとしてくる。俺は自由な左腕で剣の横っ腹を殴りつけた。この反撃は予想していなかったのか、存外あっさりと剣の軌道が変わる。逸らされた剣は俺の右肩を掠めるようにして地面に刺さった。


 ちっと舌打ちをしてゼウスが剣を抜いた。そのときにできたほんの一瞬の隙を俺は見逃さない。意識が剣のほうにいったため、腕を踏みつける左脚の力がごく僅かに緩んだのだ。そしてその僅かな違いがあれば、腕は引き抜ける。


 俺は一気に立ち上がると、脚の下の障害物がなくなって体勢を崩したゼウスの首筋に右薙ぎをお見舞いした。さらに袈裟斬り、右斬り上げと繋げたが、後者は防がれる。


 ゼウスは怨嗟のこもった眼で俺を睨むと、俺の剣を弾いて左斬り上げを放ってきた。俺は後退して回避。


 再び距離をとって対峙する。今度はゼウスも構えをとっていた。恐らくHP残量が少ないのだろう。さすがに危機を感じた訳だ。


 とはいえ俺も気は抜けない。HPは2割程度。一撃もらえばそれで終わりだ。それは相手も同じだろう。


 次の一撃で、勝敗が決する。

 俺とゼウスとの間に、極度の緊張が満ちた。


 この試合初めてゼウスから前に出た。俺はその場で軽く右足を引き、斬撃に備える。


 右から暗い銀の閃光が迫ってきた。俺は全力で剣を叩きつけパリィする。さらに手首を返し右薙ぎ。奴の剣は俺の剣より外側、防ぐことはできない。しかも腕が俺の剣より上にあるため、しゃがんでかわすこともできない。


 ゼウスがその表情を悔しげに歪めた。その瞬間、俺の剣がゼウスの胴を真っ二つに薙いだ。


「……クソッ、俺の秋田米」


 憎々しげに呟いて、ゼウスは水色の粒子に姿を変えた。


 いや、そんなに秋田米欲しかったのかよ。クールなイメージが台無しだよ。


《勝敗が決定いたしました。勝者、〈レイ〉様。〈ゼウス〉様は敗北となります》


 ゼウスが最後におちゃめな一面を見せたところで、俺の勝利が確定した。視界が歪み、白い控え室に移動する。


「……ふう」


 俺は溜めていた息を吐き出した。


「お疲れ」


 ナイトが声をかけてくる。


「いやー、冷や冷やしたぜ。せっかく俺が勝ち残ったのに、お前が負けちまったら意味ないからな」


 にやにやと笑いながら言ってくる。


「俺だって相当ビビってたよ。実際、かなり危ない戦いだったし」


 気を抜けば負けていたのは言うまでもない。本当に刹那の攻防だった。


「さて……とうとう準決勝も終わり、無事俺たち2人が勝ち残った訳だが」


 そう。俺たちは本当に、2人で決勝に残ってしまったのだ。数多の敵を蹴散らし、幾人もの強敵を薙ぎ倒し、ここまで来た。そして最後の相手として残ったのは、さんざん手の内を見せ合った、一番の強敵だった。


《四回戦で勝ち残られた皆様、お疲れ様でした。続いて決勝戦ですが、その前に10分間の休憩となります。一旦ログアウトして、休憩をとってください。決勝戦は今からちょうど10分後、12時46分に開始されます。それまでにログインを完了するようお願い致します。時間までにログインが完了されなかったプレイヤーに関しましては、決勝戦に参加できませんのでご注意ください》


 決勝戦で不戦勝とか正直ありえるはずもないが、一応うんうんと頷いておく。というかこの時間に10分休憩をもらっても、飯は食えないしいったい何をしろというのか。やはりこういう辺り、ゲーム関係のイベントは適当である。


「ここで休憩が入るのか。じゃあ、10分後な」


 ナイトが言い、ログアウトボタンをタップしたのか姿を消した。俺もそれに続いて、ログアウトした。

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