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22 生徒会役員改選告示(1)

 学校祭も無事幕を閉じ、潮が引くようにその熱も冷えていく。青大附高に入学してからひとつのイベントがあっという間に落ち着いていく様を追いかけていくとなんとなく寂しい気がする。乙彦が藤沖にそのことを話すと、

「確かにお前の言いたいことはわかる」

 同感された。

「盛り上がる瞬間はまさに沸点に達するんだがその後の退きがというのはな。うちの学校の場合それを切り替えが早いという表現で言う」

「切り替え、か」

 当然といった風に藤沖が頷く。

「それぞれ学校のイベント以上にやりたいことがてんこ盛りの奴ばかりだ。疋田や宇津木野のようにピアノへ情熱を燃やしている奴もいるし、吹奏楽部はこれからコンクールの嵐だ。ずっと引きずっていたら身が持たない」

「それはそうなんだが」

 切り替えが早い方がいろいろと都合がいいのはわかる。乙彦もそれは意識している。ただあれだけ盛り上がった学校祭がほとんど事務処理のみの後片付けで寂しくないのかどうか、それだけが気にかかった。


「ところでだ関崎」

 放課後帰ろうとしたところでまた藤沖に声をかけられた。

「今日は暇か」

「ああ、それなりに」

 最後の規律委員会も無事終了した。あとは生徒会役員改選を待って後期クラス委員の選出を行う流れとなる。一週間程度で終わる。

「お前と久々に相談したいことがあるんだが、いいか」

「わかった」

 外部三人組もたまたまこの日はそれぞれの用があるらしく、図書館には行かない予定だった。乙彦も藤沖にはそれなりに話したいこともある。一緒に校門から出た。やはり学校内で話すべきではないことというのも、予想はしていた。

「お前の好きなカラオケボックスに行くか」

「高いぞ、いいのか」

「大丈夫だ。安いところをそれなりに押さえてある」

 乙彦の弱みも握られている。カラオケで喉を鳴らしたいのは山々なのだが恐らくそれは無理だろう。一度でも歌えればいいほうだ。藤沖と話す場合は大抵長時間になるからマイクをいじる間もなく人生相談になりそうだ。

 自転車で案内された先はビル丸ごとカラオケボックスの設置された店だった。それなりに客入りもよいようだが、青大附高からは離れているので同じ制服の生徒は見当たらない。

「よし、ここに入るか」

 一時間一部屋五百円。割り勘で二百五十円。飲み物頼んでだいたい五百円。乙彦の許容範疇ではある。


 レモンスカッシュを注文し最奥の部屋に案内された。すでに騒ぎ声も聞こえるが防音が比較的しっかりしているせいかさほどうるささも感じない。

「歌う前に、話だけ先にしておこうか」

 マイクをちらっと見てから藤沖が切り出した。天井のミラーボールがくるくる回っている。ほのかに暗い室内に白い灯りがみじん切り状態で揺らいでいる。

「頼む、話してくれ」

 早めに終わらせるつもりで乙彦は促した。満足げに藤沖もグラスを口にした後、

「気づいているだろうが、明日が生徒会役員告示日だ」

 即効突っ込んだ。とうとう来た。覚悟はしていたことだった。

 ──やはりもう逃げられないな。

 学校祭が終わってから真剣に考えていたことのひとつだった。

「ああ分かっている」

「前にも話したと思うが、今年の生徒会改選はいろいろと毛色が変わっていてちとやっかいだというのも知っているよな」

「だいたいは」

 ちらっと聞いた限りだと、今年の二年生徒会役員はあまり活動に積極的ではなく、次の改選では出ないかもしれないという話だった。藤沖もそれに付け加えて、

「本来、二年世代にはカリスマ的スターがいてその人が生徒会長として引っ張ってくれるのではという期待があったんだ。しかしその先輩は諸事情からこの学校を去り、現在は特にスターもなしといった状態だ。これからどうすればいいのかということで揉めている。これが現在の状況だ」

「そうか」

「それで聞きたい。関崎、お前はどうするつもりだ」

 藤沖はがっしり両足を床につける格好で前かがみとなり問いかけた。

「お前はこれから、青大附高生徒会役員として立候補する気持ちはあるのか」

「それは」

 言葉に詰まった。迷ったからではない。決めていたからなおのことだった。


 ──生徒会役員に立候補するということ。

 学校祭が終わってから間があり、乙彦はその後も規律委員の先輩たちから現生徒会の実情についていろいろと教えてもらっていた。規律委員の先輩たちがなぜ乙彦をそこまで生徒会に押し込もうとするのかその真意を知りたかったからだった。

 答えはさまざまだったけれども、一通りまとめた結果としては、 

 ──停滞したこの学校のムードを打破したいんだ。

 それに尽きた。どういう事情かはわからないが、青大附高が生徒たちの力による運営ではなく学校・教師側の圧力が強すぎる挙句誰もが事なかれ主義にとどまっている状況。このままではいけないと、生徒たちの間で動きが出ているということなのだろう。

 その打破するひとつのきっかけが規律委員会主催の「幻の制服」復活と、評議委員長の結城先輩が主催した学校祭フィナーレイベントだったという。それなりに好評を得たとはいえ、しょせん学校祭に限定されたものであり、これから先につながるものではない。それも確かだった。

 ──だから、全く新しい風を誰かが吹かせる必要がある。

 結城評議委員長のおめがねにかなった乙彦が選ばれたのも無理はないことだった。青大附属中学の過去も知らなければ高校の現状も半年しか知らない。しかし知らないことこそ武器。それゆえに、あえて。

 ──やはりこれは俺が答えるべきなんだろう。

 目を閉じ、かつての紅炎を思い浮かべ、もう一度目を開き直してあの夜のフィナーレを思い浮かべる。規律委員として蚊帳の外だった自分の居心地の悪さを実感する。

 

「藤沖、俺の気持ちは決まっている」

 乙彦は言い切った。グラスを握り締めた。

「明日、生徒会室にに立候補届けを提出してくる」

「役職は」

「副会長でいく」

 

 藤沖が笑顔で乙彦に握手を求めた。

「よく決心してくれたな。ありがとう」

「いや、問題はこれからだと思うんだが」

 乙彦は急いでレモンスカッシュを半分飲み干した。一時間で終わる内容ではない。今日は残念ながら歌うのはあきらめよう。残念だが、優先順位というものはある。

 ──問題はA組のクラス委員選出なんだが。

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