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19 幻の制服(3)

 乙彦たちが規律委員たちの待つ教室に戻ると、ふたたび一斉に拍手が巻き起こった。

「南雲くん似合いすぎ!」

「派手なのにくどくなーい!」

「やっぱし南雲くんモデル目指しなよ」

 女子たちの三学年みなささやき合う声に打ち消されているが何気なく、

「しかし関崎も最初はどうかと思ったが、結構いけるな」

「全くだ。南雲がホストなのに対してちゃんと優等生しているのがいいぞ」

 褒め言葉か疑問を感じたくなるような発言も聞こえてくる。確かに身体にはぴたりとあって着心地もよい。どこかの暴走族に加入したような気分もしなくはないがまあ、悪くない。

「しっかし恥ずかしいもんっすね、この格好で歩くとなると」

 南雲は前髪をさらりとかきあげてちっとも恥ずかしさ感じていない顔で述べた。

「まあまあ、これから三年間同じ制服着なさいって指示するわけじゃあないんだからがまんしなよ。けど、やっぱり私たちの見立ては間違ってなかったわよね」

「このメンバーというのはやっぱりベストだな」

 図書館で口説いてきたふたりの三年先輩が満足げに語り合っている。

「あとは美里ちゃんなんだけどまだかなあ」

 野郎は揃ったが、やはり清坂は女子だけあって、

「おめかしに時間かかるんだよ。やっぱね。それに清坂さんこういったらなんだけど一番おしゃれにうるさい人だから」

「そうなのか」

 わからないなりに乙彦がつぶやくとタイミングよく扉が開いた。清坂がひょいと首を出し、

「お待たせしました!」

 ちろちろと乙彦と南雲を眺めやりながら、

「やっぱり規律委員だし髪の毛整えないとまずいかなと思って、こんな感じなですけどどうですか?」

 蛍光黄緑のセーラー服に白いスカーフを長くあしらい現れた。

「うわあ、美里ちゃん髪、お下げにしたんだあ」

「清坂さんすっごく似合ってる。可愛い!」

「お下げにしたのってあんまり清坂さん見たことないよね」

「ものすごくおとなしい女子に見えるな。馬子にも衣装」

 いろいろなことをささやきつつもやはり最後は拍手喝さい。清坂も満足したようにくるりと回って乙彦の隣りに立った。

「さてこれで全員揃いました」

 規律委員長がにやつきながら三人をまじまじと眺め、

「なんというかこの制服にもし決まっていたとしたら、俺たち受験してたか自分を問い詰めたくなるような色だよなあ」

 正直な感想を述べた。

「全くです」

 思わず乙彦も本音をつぶやくと、

「だろう? 関崎、お前もそう思うだろ?」

 背中をばしばし叩かれた。他の女子から、

「委員長だめです、制服借り物ですから、痛みます!」

 一歩ずれたところで注意されている。

「まあどっちにしろ、この幻の制服をまとっている三人組が学校祭中うろついているというシュールな展開がなんとも言えずいいよな。規律委員を校則大好き堅物軍団と思っている一般生徒たちにアピールできるまたとないチャンスだぞ」

「委員長、ひとつ提案なんですが」

 南雲がにっこり微笑みながら自分の席にいったん戻り、スケッチブックを持ち出してきた。他の連中にも見えるように広げ、

「俺たちが一番ど派手な格好をするのはしかたないとしても、後の規律委員が何もしないってのはちょいと肩身狭いですよ。ってことで提案なんですがいいっすか」

「おう何でも言え」

 委員長の許可をもらった。

「この色がどれだけ目立つかってことは実際着てみてよっくわかりました。んで、提案ってのは今回学校祭中教室をうろつく委員全員に、この色を身につけてもらいたいってことなんですよ」

「身に着けるってあれか、週番の腕章みたいなものか」

 委員長が尋ねると、南雲はゆっくり首を振った。

「それならつまらないですし、色面積が少なすぎます。だったらってことで考えたのがこれなんです。マントってのはどうっすか」

「マント?」

 素っ頓狂な声が教室内から挙がった。主に二年男子たちだった。

「そうです。本当は学ラン全部そろえた方がかっこいいとは思うんですがこの仕立てのよさみるとちょい無理。だったらでかい布を探してそれを羽織って歩くと全身黄緑になるし十分怪しくなりますよ」

 南雲の言葉に大爆笑した委員一同だが、すぐに委員長が水を差す。

「面白いが現実も見てくれ南雲。こんなけばい色のマントを作るだけの布がどれだけ手に入るっていうんだ。それに予算、どうするんだよ。ただじゃねえぞ。委員全員でマント代カンパでもするのかよ。着る以上は縫い物もせねばならないしどうするんだおい」

「確かにそうっすね。金がかかるのは痛いでしょうな。だったら俺の提案なんですけど、女子はショールって手もありますよ。ただ切ってぐるっと身体に巻きつけるだけ。それも悪くないと思います」

「悪いけどそれ可愛くない!」

 みな、言いたいことを好き勝手に叫びつつも話し合いはだんだん、

「全員がなんらかの形で大判の黄緑色を見につけることにより、規律委員の存在を印象付けられる」

 というところには行き着いたようだった。腕章よりも大き目なものということで、リボンとかスカーフ、中には白いタオルを黄緑色に染めて持ち歩くという案も出た。

「俺はやっぱし、男子は無条件でマントが一番いいと思うんですが、もう少し考えときますよ。テーマカラーをこの黄緑で行くってのが俺としてはお勧めしたいんですけど、先輩方いかがでしょう。どうか相談乗ってもらえませんかねえ」

 南雲の発言でみな納得した様子だった。最初は下級生の下克上と思われたところもなきにしもあらずだが、そのあたり南雲は心得ているようだ。先輩のおだて上げでなんとか目的を達成できそうな気配がする


 ──しかし、そもそも出来るのかそんなこと。

 発想がまずついていけなかった。

 ──要は警備をやるだけなのになんでそこまで派手に盛り上がる必要があるんだ。それに妙に気合が入っているぞ南雲。そこまで何が駆り立てるんだ。 


ずっと熱く語り続ける南雲の隣りで乙彦がぽかんと立ちすくんでいる中、清坂がさっと手を挙げた。

「清坂、どうした」

 委員長に指されて清坂は南雲と乙彦を見比べた後さっと手を広げた。

「どうせだったらみんなで、マスコット人形作りませんか?」

「マスコット人形っすか清坂さん」

 南雲がいぶかしげに尋ねる。

「そう、この制服をモチーフにしてちょっと大きめの、胸ポケットに一体入るくらいのマスコット人形作面白いんじゃないかなって。私中学の時にクラスで男子を応援するためにフェルトのマスコットをクラスのみんなで作って配ったことがあるんですけど、大きいマスコット人形の方が作りやすいんですよ。それを胸に着けたりぶら下げたりしたら目立つし可愛いし、いい記念になるんじゃないかなあ」

「清坂さん、ナイスアイデアなんだけど、誰が縫うの」

「もちろん規律委員に決まってるじゃない!」

 清坂は高らかに言い放った。

「中学では規律委員会って隠れ手芸部だとかファッションクラブとか言われてましたし。もしそれだったら私たちが仕切ってもいいですよ」


 なにがなんだかもうわけがわからなくなってきた。あっさり受け入れている先輩方にも、水を得た魚のように生き生きしている南雲や清坂も。どうでもいいが乙彦は料理こそできるが縫い物は苦手だ。今までになくはんぱでない盛り上がりの規律委員会メンバーを眺めつつ乙彦はこっそり後期委員のカウントダウンに入ることにした。

 結城先輩の言葉を改めてかみ締める。

 ──ここは悪いとこではない。いい奴ばかりだ。だが

 自分の居場所とはどうしても思えなかった。

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