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1 自由研究顛末(2)

 それにしても頼むから「外部三人組」というセンスのない呼び方をやめてほしい、という静内の叫びと、共感する野郎ふたりの頷きでその日はお開きとなった。

 ──もっともだ。聞いているだけだとどこかの国の政治組織を思わせるだけだ。少しずつでも同意者がほしいもんだ。

 青大附高に入学して半年目に突入だが、陰口でいろいろと「あの外部三人組が」と囁かれるのにもだいぶ慣れてきた。一緒につるむことが多いからだろうし、静内が評議、乙彦が規律と比較的花形の委員を勤めていること、および残りの名倉も外部生の中では優秀な成績をおさめていて来年の特待生候補に挙がっているというのもあるかもしれない。ああいう茫洋とした風情だが、働くところは働くのだ。

 ──単純に三人で行動しているだけだったらまだいろいろいるんじゃないか? 

 数えてみるが、よく考えるとそれなりに三人組の場合グループ名が与えられているようだ。噂で聞く限りだと、一年C組の「元評議三羽烏」などもいるらしいが乙彦にとってはあまり親しい付き合いになりそうにないので聞き流しておく。むしろ全く名前のつかない、立村、羽飛、清坂の三人組はどうなのだろう。あの三人も一緒に自由研究に勤しむくらいだから相当の仲だし、特に立村と清坂との一筋縄ではいかない関係は、乙彦の理解の範疇を超える。少なくともかつての恋人を笑顔で新しい相手と娶せようとする発想は乙彦の中には全くない。

 ──あの三人こそが、実は青大附属最大の謎かもしれない。


 次の日、乙彦は立村と理科の実験で同じ班だったこともあって、フラスコを洗ったりアルコールランプを運んだりする間に少し話をした。同じクラスなのでそれなりにしゃべる機会もないわけではないのだが、気がつくと教室から姿を消している。立村に用がある時は突撃するしかないというのが現在の結論だった。

「立村、おりいって頼みがある」

「何?」

 紫の水を丁寧に排水口に流しながら立村は答えた。顔を上げず手は動かしっぱなし。半袖のシャツから出る腕は相変わらず真っ白で細い。

「いい加減俺および外部のふたりを、『外部三人組』と呼ぶのをやめさせることはできないか」

「いきなり何言い出すかと思ったらそんなことか」

 機嫌よく立村は答えた。丁寧にからぶきんでフラスコの水滴を拭き取りながら、

「単純な事実関係を表しているだけだしな。でもなんでいきなりそう思う?」

「いや、俺もさすがにいろいろな場所からそう言われるのは鬱陶しい」

「だったら三人組解散すればいいのに」

 さりげなくきつい言葉を立村はつぶやく。

「いや、そんなつもりはない。お前だって俺に羽飛と清坂と一緒に三人組とか呼ばれたら面白くないんじゃないか。友だちやめる気はなかったとしてもだ」

「そうだな、確かに」

 立村は手を止め、少し考えるようにうつむいた。

「何よりも、この呼び名、センスがなさすぎじゃないか」

 静内の言葉をそのまま無断引用する。

「俺たちはたまたま外部入学してきたが、少なくとも三十人は同じ立場の生徒がいる。むしろ外部三十人衆と呼ばれても不思議ではない。それがなぜ、俺たち三人だけがそう、どこかの政治結社のような名前で呼ばれないとならないんだと、いつも不思議なんだ」

「関崎も細かいこと気にするんだな」

 立村は布巾を洗剤で洗い、絞って棚にかけた。食器用洗剤の匂いが花の香りだった。

「無理にとは言わない。だが俺を含む三人の希望があることは、お前にわかってほしかったんだが、なにかいい手段ないだろうか」

「そうだね、別の名前だったらいいのかな」

「例えばなんだ」

「単純に、外部トリオとか、外部三人衆とか、三羽烏とか」

「どちらにしてもセンスがない」

「もっともだ」

 結局よい案は見つからなかったが、立村と久々に軽口を叩けて二学期早々肩の荷が降りたような気がした。思えば青大附高に入学してから立村とはいろいろな柵もあってなかなかかつての親しさを感じることが難しかった。それでも少しずつ乙彦なりに接点を増やしていき、友だちとしてのつながりを強めていったおかげで現在は多少の話ができるようになってきた。三年間あることだし、距離を縮める時間はまだあるだろう。


 家に帰り夕食、風呂、宿題、いつものフルコースをこなしたあと、乙彦は一足先に布団へ潜り込んだ。隣りでは兄と弟がそれぞれ漫画を読んだりラジオを聴いたりして自分の世界にこもっている。もちろん乙彦も例外ではない。朝が早いので夜ふかしはできない。遅くても十一時には床につくようにしている。大抵はそのまま眠りの国へ超特急なのだが今夜は少しだけ目をこすることにした。まだ十時半、あと三十分だけ。

 イヤホンと辞書程度の大きさのFMAMラジオをつなぎ、枕元にセットする。アンテナをできるだけ窓辺に近いところに伸ばす。その状態でゆっくりとチューニングダイヤルを回していく。夜になると電波が混線してくると、あの日購入したラジオ雑誌の初心者向けBCL入門の記事に載っていた。


 ──BCL

 初めて聞いた言葉だが、「Broadcasting Listening」の略でいわゆる、短波放送を中心に海外の放送を受信して楽しむことだという。雑誌を読んでも専門用語だらけで把握できないことも多いのだが、とりあえず乙彦のスタンスとしては手持ちのAMFMラジオでチューニングしつつ海外の放送電波を取り込み、未知の言葉を楽しむことで十分な気がする。さらにマニアックになると「ベリカード」なる受信確認証をコレクションするために直接海外へレポートを送る人もいるのだそうだ。なかなかすごい世界だった。

 偶然手にとって興味を持っただけなのだが、実際夜八時過ぎから記事通りにラジオを無作為に受信を試してみると、ロシア語、中国語、韓国語、その他聞きなれぬ日本語の方言などなどさまざまなラジオ局の電波が飛び込んでくる。中には海外放送局でありながら日本語放送を行っているケースもあった。つい聴き入っていると、日本語文法のきっちり整ったアナウンサー……恐らく海外の職員か……がわかりやすくその国独特の流行歌や話題を流してくれる。お国事情もあるのだろうしすべての日本語放送が面白いわけではなかったが、それでも全く知らない世界の空気だけは味わえた。

 ──立村だったらこういうのすらすら聞き取るんだろうなあ。

 時折電波が日本の放送番組に切り替わってしまい、また必死にチャンネルを合わせる。天気にも左右されるらしく、時々激しい雑音で声が途切れてしまうこともある。そうこうしているうちに日本語放送自体の時間が終了してしまって、いきなり現地語に切り替わってしまったりもする。

 ラジオ雑誌をぱらぱらめくる。AMラジオでもそれなりに拾えることは拾えるが、やはり幅広い海外の放送局を聞きたいのならば、やはり短波ラジオがおすすめなのだそうだ。そちらだとヨーロッパやアメリカ、その他の国の放送も結構取り込めるのだとか。乙彦がこの二日間で上手く選局できたのがアジア各国の、それも近場の放送ばかりだったので学校の勉強に役立てるという言い訳ができそうにない。

 ──短波ラジオか。どのくらいするんだろうな。

 頭を布団に埋めた。これ以上はまると、あすの早朝古本屋バイトに影響が及ぶ。健康第一、身体が一番。今度立村とゆっくり話す機会があったら、BCLという趣味を知っているかを聞いてみることにしよう。何も「外部三人組」の改名相談なんていう不毛な話題だけであいつとの語り合いを消費するのはもったいない。

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