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15 礎祭(4)

 本当は雅弘の手が空くまで水野さんと高校の状況について話をしたかったが、タイミング悪く静内と名倉のふたりが両手にわざわざお好み焼きとドーナツを持って帰ってきた。いったいどのくらいほっつき歩いていたんだろうとつっこみたいがどうせならもう少し散歩しててもよかったんじゃないかと思う。

「私、行かなくちゃ」

「水野さん」

「関崎くんありがとう。お先に。またね」

 品よく頭を下げ小走りに水野さんが出て行ったのち、空きスペースを埋めるがごとく外部三人組がコンプリートされた。静内がお好み焼きを一パック乙彦に、

「ほら、お腹すいたでしょ」

 テーブルにおいた。割り箸もセットだ。

「お前らはどうした」

「お腹すいちゃったからその場で立ち食いしてた」

 それと、とドーナツの箱もテーブルに並べた。

「これは俺たちが駄賃としていただく」

 乙彦の許可も得ずにふたり箱に手を突っ込む。

「そうだね、そのくらいはご褒美もらっちゃってもいいか」

 澄ました顔して静内もかぶりつく。本当にこいつらお好み焼きで腹満たしてきたんだろうかと疑いたくなるくらいがつがつ食っている。


「おとひっちゃん、あれ、さっきたんは?」

 しばらく乙彦たちがいつもの外部三人組パターンで学祭の感想についてしゃべりまくっていた時、雅弘がひょいと顔を出した。

「お前当番だったんだろう」

 子どもだちも結構積み木や引き車で遊んでいるようだったし、目を離すのはまずいだろう。乙彦も立ち上がり、

「悪い、お前らここで待っててもらえるか。友だちと話があるんだ」

 パーティーション奥の遊び場スペースに進んだ。みな楽しげに子どもらしく遊んでいる。中にはお母さんらしき人に抱かさっている子もいる。賑やかではある。雅弘の他に三人ほど当番がいて、時々遊び道具について説明をしている。ただちらと聞いた限りだと、

「あのな、雅弘、ひとついいか」

「どうしたのおとひっちゃん」

「子どもの親に使っている木材の種類を説いても無駄だっと思うが」

「ああ、そうだね。でもいいんだ」

 相手の親子がかなりびくついているにもかかわらず、木々の木目についてのこだわりを語る男子生徒をさらりと見て雅弘は、

「みな、ああやって怪我とかしないように見張ってるんだ。俺は遊んだだけだけどね」

「それが正しい」

「さっき俺が積み木の手伝いしたから今度は休んでいいってことで」

 雅弘は見た目ガキっぽく見えるが実は結構後輩になつかれるし子どもとも仲がいい。家の手伝いで書店のレジ打ちしている時もよく子どもたちに話しかけている姿を見かける。集まってきた幼児たちを集めて積み木を組んだりするのはちっとも珍しいことではない。

「なら少し話せるか」

「うん、そのつもりだけど、あそこにいるのはおとひっちゃんの友だち?」

 そっとパーティーションの透き間から覗き込み雅弘は尋ねた。

「ああ、学校ではいつもあのふたりとつるんでいる。外部入学生なんだ」

「へえそうなんだ。外部だと普通科?」

「そうだ。男子の方は名倉といってああぼーっとしているように見えて実は外部生の中で一番賢い。それと女子の方は」

 雅弘が興味津々と言った風に身を乗り出してくるのがわかる。

「静内といって、あいつも大人しそうに見えるが実は郷土史マニアなんだ。今年の夏一緒に自由研究で『青潟の石碑地図』を作ったと言っただろう。静内の趣味だ」

「すごいなあ。おとひっちゃん」

 感心したように雅弘は頷いた。同時に声を潜め、

「さっきたんと話、した?」

 ここは控えめに尋ねた。

「ああ。今日学校祭だということを知っていたのか」

「うん、俺も学校祭のチケットさっきたんに送ったんだ。友だちと来たいって話してたから。けどまさかあの人だとは思わなかったな。向こうもびっくりしてたけど知らない振りしてたよ」

「やはりか」

 雅弘を連れて青大附中に行ったことがあったし、やはり霧島さんとは直接面識があったのだろう。しかしどういう会話を交わしたのだろう。聞いてみると、

「相変わらずおっかない人だなって印象だなあ。俺、あの時おとひっちゃんの刺身のつまとして参加したから直接話したわけじゃあないけど、でもなんとなく男子に対して手厳しいとかきんきんしてるというか、そんな感じしたよ」

「そうか」

 はっきり言って苦手な女子であることは確かだった。雅弘もそのあたり趣味は一緒と見える。

「けど、俺もびっくりしたんだけどさ」

 雅弘はまた外をちらっと見ながら続けた。

「なんであの人、青大附中から可南女子に行くことになったんだろうなあ」

「人にはいろいろ事情があるんだ。あまり突っ込むな」

 事情はだいたい理解しているからこそ、部外者には秘める必要がある。それが片恋を抱えていた藤沖への礼儀でもある。

「それに、さっきたんああいう女子と友だちになるようなタイプじゃないのになあ。話してみて全然変わってなかったけどやっぱり友だちは違うんだろうなあって思ったよ」

 ──水野さんは変わってないんだ。


 乙彦も雅弘に習って積み木を使って手のこんだお城をこしらえてみたところ、周囲の子どもたちから拍手喝采を浴びた。その騒ぎに興味そそられたのかわからないが静内と名倉も覗き込み、大笑いされたのはおまけである。雅弘にふたりを簡単に紹介した後また今度家に遊びにいく約束をして帰ることにした。


「関崎、もう、思い切り子どもに戻ってたよね」

 本当は吹奏楽コンサートにも向かうつもりだったが気がつけば開始時刻とっくの昔に過ぎていた。出店も展示もほとんど見ることができなかったが雅弘と久々に語らうことができたからまあそれはよしとしよう。

 静内と名倉が改めて積み木に燃えていた乙彦を呆れたようにみやった。

「私たちが覗きに行った時全然気づいてなかったよねえ」

「本当だ。だがあの時でよかっただろうな」

 名倉が意味ありげにつぶやいた。

「俺たちが側にいたら集中力が途切れるとか言って激怒してただろうしな」

「うるさい、お前らもせっかくだったらもっと童心に帰ったらどうだ」

「もう私たち汚れた大人ですから」

「俺も同意」

 なんだかもう、つっこむのもばかばかしい。つい乙彦がいない間ふたりがどんなおしゃべりに興じていたのとか、なんでドーナツ引換えに行くだけなのにあんなに時間がかかったのかとか聞きたいことはあったけれど、つい流しきってしまった。

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