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10 インタビュー(1)

「すいません、合唱コンクールの練習で忙しい時に」

 静内からもらった情報通り、土曜の午後二時過ぎ、外部三人組一同は生徒指導室に呼び出された。乙彦にとっては新入生オリエンテーション以来の場所でもある。

「大丈夫です。今日はあまり長いこと練習できないので」

「俺も同じく」

「うちは全然練習しないし」

 三人それぞれ声を揃えて答えた。乙彦も次の日に麻生先生経由で放送局からのインタビュー取材について協力するようにとのお言葉をいただいた。校内放送で流すわけではなく市内の高校放送局が集い研究する合宿があるとかで、そこで発表する内容らしい。

 放送局部長らしき三年生がひとつひとつ説明をしてくれた。

「今年僕たちがテーマとしているのは、『内部進学者と外部入学者』の間にある壁を乗り越えるための手段です。今に始まったことではないんですがそれなりに内部と外部の違和感みたいなものがずっとあって、それでも気がつけば普通の友だちとしてつながり合っていったこともあれば、卒業するまで距離を持ったままだったとかさまざまなケースがあると聞いていました。これって同じ足並み揃えて入学できる学校では感じられない、むしろ青大附高だからこそ追求できるテーマなんではないかと考え、それでです」

 まだ放送局の顧問が一緒にいるので丁寧語が消えない。窮屈そうにしゃべっている。

「一年の自由研究の中で、今年初めて外部生のみのチームがこしらえた作品が高い評価を得たという話を先生たちから聞いた時、局員たちからぜひ一度詳しいことを聴かせてほしいという声が上がりました。それで、合唱コンクールでめちゃくちゃ忙しいことを承知の上でお願いしたわけです」

「でもそんなすごいことしたわけじゃないですけど」

 戸惑うように静内が答える。今回の自由研究リーダーは静内なのでこの序列を崩さないように乙彦も黙っている。同様に名倉もだった。傍目から見ると「姫を守る騎士二人」なんだろう。実はお笑いだが。

「実際私たちが研究したことって、青潟の石碑といういわば空気のような存在のものに、ひとつひとつ物語が隠れているってことの証明みたいなものですから。いろいろな人にも言われましたけど、私たちと似たようなことをやった人もたくさんいるみたいですよ」

 ──静内、実はかなり根に持ってるな。

 元評議三羽烏の激しい恨みつらみを知っている乙彦はあえて言葉を飲み込む。

 放送局長はゆったりと静内の言葉を受け止めて、しっとりした声で相槌を打つ。いかにもドキュメンタリー番組のナレーターといった雰囲気で耳に心地よく残る。

「そういう声もありますか」

「はい。実際そう言われたこともあります」

 静内はきっぱり言い切った。その上で、

「でも、私たちは三人、たまたま気の合う仲間だったということでやりたいことをやろうと決めていただけなんです。たまたま私が青潟の歴史に子どもの頃から興味を持っていて、でもそれまでは友だちでそういうことに興味のある人がいなくて、青大附高で初めてこのふたりと出会って意気投合したというそれだけなんです」

「外部生同士、ですか?」

 いつの間にか放送局長の話にもっていかれている。静内が気づいているかどうかはわからない。そのままぺらぺらしゃべり続けている。

「はい。でもたまたま気の合う友だちが外部生だっただけであって、取り立てて内部の生徒を無視したつもりはありません。それなりに内部の友だちもたくさんいます」

「関崎くんは、どうですか?」

 黙っているとさらにしゃべり続けそうな静内を制したいのか、放送局長は乙彦に話を振った。話すべきことは決めている。

「僕も最初は外部と内部の違いにかなり驚いたほうです。たまたま中学時代生徒会の関係で青大附中には顔を出してましたし仲良くなった奴もいたし。でもやはり、最初は委員会の扱いとか、授業進度の速さとか、試験の内容とか、ありとあらゆることにカルチャーショックを受けていたことは確かです」

「そうか、青大附中には結構顔を出していたと」

 興味深そうに放送局長が促す。せっかくだ。言っておこう。

「当時僕は水鳥中学生徒会の副会長をやっていて、青大附中の評議委員会からぜひ交流をしようという話がきたわけです。最初は打ち合わせでしょっちゅう足を運んでて、そのうち気の合う友だちもできたりして、全く初めてという感じではなかったです」

「関崎くんは英語科でしたね。しかも今年の外部生で英語科はひとりのみ」

「なぜかわかりませんがそうなりました」

「外部生がおおよそ三十人いる計算になりますがその中でひとりのみ。これは相当すごいことですが。特に英語を勉強したかったとかそういうわけではないのですか」

「たまたま英語の成績がよかっただけです。なんでかわかりませんがとりあえず受かってよかったです」

 周りで吹き出す奴が数人ほど。その中には同志たる静内と名倉もいる。

「ですが英語科はそれなりに個性的な奴が多いですし、結構刺激を受けます。俺はたまたま外部生としてクラスに入りましたが、変人扱いされているときもなくはないですが概ね居心地はいいです。外部と内部での軋轢はクラスでは、あまり感じません。ただ」

 つい「ただ」とつぶやいてしまった。失言だ。放送局長は見逃さなかった。

「そのただとは」

「はい、ただ俺たちのことを誤解している内部生がいるのではという気はしてます」

「誤解?」

「俺たちはそんなに意識しているわけじゃないんですが、厳しい目を向けてくる生徒がいるのは確かです。自由研究に関しても静内さんが言った通り俺たちは面白そうなことを自分なりに考えて調べてみただけですが、過去に似たようなことをしたということでなんというか、ぱくりをやらかしたように思った人もいるようです。全然そんなんじゃあないんですが」

「なるほどね」

 放送局長はふむふむ頷いた。

「いい意味で前例を知らずに自分たちの思いつくまま突き進んでいったことが、今回の高い評価につながったということですね。しかしそれを面白いと思わない輩も多いと」

 まずい、なんだか露骨に外部生VS内部生のバトルに収縮されてしまいそうだ。乙彦としては急いで修正したい。

「いや、たぶん誤解されているだけです。絶対。俺たちはそう思っている人たちときっちりひざ詰めして話をしたことが一度もありません。単純に、話し合いがすんでないだけであって、それさえ終わればすっきり丸く収まるんじゃないかとも思います」

「そんな簡単にすみますか」

「はい、大丈夫です。今まで俺もいろいろと人に誤解されたり反対に誤解したりしてきましたが、結局は腹を割った話し合いをする場を持たなかったことがこじれた原因だと、今わかりました」

 

 隣りで静内と名倉がそれぞれうさんくさそうな顔をしてみている。

 妙に放送局長の質問が乙彦に集中してきているのを自分でも感じる。

 せっかくのいい機会だ。もっと語ってやりたい。乙彦が深呼吸をしたところでいきなり静内が割り込んだ。

「すみません、外部と内部のことであれば私も、一言あります」

 礼儀正しく放送局長がマイクを静内に向けた。ちなみにこのインタビュー、音声のみらしくビデオ撮影は今回行わないとのことだった。

「私が感じていたことなんですが、外部生の人たちはおおらかで楽しそうな学園生活を過ごしているように見えて羨ましい反面、もっと先のことを考えてもいいんじゃないかと思うときがあるんです」

 

 名倉が乙彦をつついた。首を振っている。なんとか止めろと言いたげだ。

 ──どうやって止めろっていうんだ。

 ビデオカメラが入っていなくてよかったと安心するよりもなによりも、

 ──そもそもそんなことを明らかに内部生である放送局長の前で言い切っていいのか、静内。

 心密かに焦りつつも、乙彦はあえて口を挟まずインタビューの行方を見守った。



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