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4 実力試験結果(1)

 外部生のための試験問題と言える、まさに下克上。

 夏休みの課題をメインとした実力試験の結果発表は試験終了の翌日に行われた。もっとも学年トータル順位は公表されないため詳細は噂話どまり、むしろ科目別優秀者発表の張り出しの方がやたらと盛り上がる。

「関崎、お前とうとう学年二十位に食い込んだと聞いたが」

 藤沖に問われる。嘘はつきたくないのでそのとおりと答える。

「今回に限っては山が気持ちいいくらい当たった。藤沖、お前はどうだった」

「最悪だ。全くもって惨敗だ」

 詳しい順位についてはあえて聞かないことにする。さて、うつむいて入ってくる片岡を秋の爽やかな空気漂う教室で迎え入れる。さぞ落ち込んでいるだろうということは、英語の科目別順位を確認した段階で理解している。

「どうした、元気ないな」

 鈍感なのかわざとなのかわからないが、藤沖がどんと片岡の肩に手をかける。

「なんでもない」

「わかりやすい奴だ。理由正直に話してみろ」

「話したくない」

 ここは乙彦が割って入ったほうがいいだろう。身体を片岡に向ける格好で椅子をずらした。まだクラスの連中は揃っていない。

「片岡、二番だっただろ。すごいぞ」

「すごくないんだ」

 またすねた口調で片岡は自分の席に座り英和辞書を取り出した。

「なんであんなとこ、間違っちゃったのかわかんないよ」

 自分を責めているようにも聞こえる。今回の試験は夏休みの宿題が八割を占めていて、真面目にやっておけば八十点は堅い。乙彦もその辺りは計算済みだ。ただ残りの二割が青大附属お得意の英作文で、長文をだらだら書かされるといったものだった。さすがに乙彦も冷や汗かいたものの自分にしては久々の八十五点をキープできたのでまあいいとしよう。

「平均点高いよなあ」 

 藤沖は他人事のようにつぶやく。

「俺は見事に赤点すれすれだったが」

 そろそろ朝のホームルームが始まる時間だ。教室に戻ってくる連中が足音をばたつかせている。ふと見やると立村がいつのまにか自席についている。いるかいないかわからないくらいひっそりと座っている。

 ──英語科の王者首位奪還。

 ふとそんな言葉が思い浮かんだ。全く表情も変えず静々と教科書を並べている様子には毎度お馴染みの指定席・英語学年トップでかつ満点といった成績を誇る奴に見えやしない。

 ──一体あいつはどういう頭でもって英語をトップで通せたんだろうな。俺にはわからん。

「今度こそ、絶対がんばるんだ」

 片岡が小声で決意を口にしている。下手したら立村にも聞こえそうだ。

「絶対に、英語科トップ、もっかい取るんだ、それからまた焼肉パーティーやるんだ」

 こいつは相当焼肉パーティーにこだわりがあるらしい。そういう問題じゃないような気もするが。


 時間が進むにつれて今度は他クラスを含む順位情報も流れてくる。

「今回も学年トップは轟さんなんだって?」

「すごいよね。すいくんがいなくなってからあの子の天下じゃん!」

 轟琴音、C組の女子評議委員が不動の首席なのはともかくとして、

「D組の名倉って人、知ってる? 外部生らしいんだけど」

「関崎くんと一緒にいる人だよね。今回確か五番だったんじゃない?」

 めでたくも名倉が「外部三人組」の筆頭として頭角を現していたり、

「B組の静内さんもすごいよ。理数系すべて成績優秀者に載ってる!」

 あれだけ英語で悲鳴をあげていた静内すら主なる理数系科目ではそれなりの成績を収めている。乙彦も結局は学年二十位に食い込んだのだから、今回は外部生の大活躍と認めてもらってもいいんじゃないかと思う。

 どちらにせよ、当の本人たちから自分たちの順位を報告受けるのではなく、噂で流れてくるということはそれなりに注目されているということとイコールなのだろう。その他の生徒たちで乙彦がよく知る連中の情報は全く流れてきやしない。藤沖もかなり悲惨な成績だとかやけっぱちで叫んでいたが、本当のところはどうなのだろう。古川もいろいろ嗅ぎつけたがるところはあるけれども自分の成績についてはシークレットで通しているのはなぜなんだろう。


 なんだかんだで授業も片付き、乙彦は帰りの週番のため職員室前へ集合した。

 日にも寄るのだが週番は朝と帰りの二回行われる。朝は遅刻の違反カード切りといった明確な目的があるのだが、夕方のものについては存在価値が理解しがたいところがある。上級生たちは帰りの週番で型にはまった本日の反省を行った後、学年ごと自然とグループに分かれて学食や空き教室に集まっていろいろ語り合っている様子だった。もっとも一年は今ひとつ団結力に欠けるようでさっさと解散してしまっている。

「まだ誰も来ていないのか」

 規律委員の二年先輩男子に軽く目礼をし、もうひとりの当番である南雲を待っていた。一年C組ではとっくの昔に授業が終わっていたはずなのに、まだ来やしない。

「関崎、C組まだ終わってないのか」

「いえ、終わってます」

「じゃあなんであいつこんなに遅いんだ? 重役出勤か? 同伴出勤か?」

 答えようがないので乙彦も一緒に首をひねる。他の女子たちがひそひそと、

「南雲くん遅すぎるよねえ」

 とたいして責めるでもない口調でささやきあっている。どことなく甘い。

「しょうがない、じゃあさっさと始めるか。俺のクラスもこれから合唱コンクールの練習があるんだよ。時は金なり、さあいくぞ!」

 しびれを切らした三年の先輩が週番ノートを開いてさっそく今日の反省を羅列しようとした時だった。


「あ、先輩、すまないっす、お待たせしました!」

 職員室の入口から顔を出した爽やかな笑顔に、女子グループは微笑み男子先輩たちはぽかんとした顔でもって奴を迎えた。髪をかきあげつつ南雲は週番用の腕章を留めたまま、

「ちょっと今回の実力試験のことでお説教頂戴してまして、すんません」

「あのなあ、南雲お前今度は何やらかした」

 笑いを浮かべつつも目は鋭く規律の先輩が問い詰める。

「実はですね、とうとうトータルで百番切っちゃったんできついお灸を据えられてしまったしだいです、はい」

「百番って、おい、お前の学年百二十人いるかどうかってとこだろ。かなりまずくないか?」

 先輩の鋭い質問もごもっともだ。乙彦からしたら今回の試験はめちゃくちゃ平均点が高いはずだ。

「まずいんですけどねえ。思い切り舐めてました」

「ったく、あのな、南雲、俺はお前の先輩として言っとくが頼むから中学時代のように成績がどっかの元評議委員長とどんぐりの背比べってのはやめてくれよな。あれは恥ずかしいぞ」

「先輩、悪かったっすね。中学時代はあまり先輩の葵の御紋にはならなかったようで」

 へらへら、たいして機嫌を悪くするでもなく南雲は答えた。


 


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