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エピローグ 片岡邸忘年会(1)

 冬期講習は年内三日間行われ、その後年明け三が日後に五日間、合計八日間行われるカリキュラムとなっていた。学校が始まるのは一月下旬なのでさほど勉強に時間を食われるわけではない。ただ夏休みと異なるのは講習に参加する連中が少なめなこと。故郷へ里帰りとか、海外の長期旅行、その他いろいろと家庭的な行事のからみが多いためとも言われている。ちなみに乙彦は実に平和な冬休みを送る予定でいる。旅行の予定もない。

「さてと、関崎、これで今年はお疲れさまだがどうするんだ今日は」

 藤沖に誘われたが本日は断らねばならない。

「生徒会か? 少しくらいなら待つぞ」

「いや、いいんだ。今日はこれから別の用事があるんだ。中学の後輩と会っていろいろと語るつもりでいるんだ」

 嘘は言っていない。そばで片岡が知らん振りして荷物をまとめている。

「そうか、残念だな。いろいろと俺も相談したいことがあったんだが」

「電話でもよこしてもらえればいつでも行くが」

「いや、俺も今年はそれこそ家の手伝いでままならない。麻生先生のお言葉通りだ。餅つき機を洗ったり、餅を丸めたり、部屋中に並べたりといろいろだ」

 どこの家も同じことをするのだろう。乙彦は了解して教室を出た。

「よいお年を!」


 生徒会室でもほとんど同じやり取りを交わし、年末の挨拶を行う。

「関崎くん、お正月明けの講習は来るよね?」

「ああもちろんだ」

「だったらその時の相談でもいいかな、ね、貴史?」

 この日は清坂と羽飛しかいなかった。講習中は打ち合わせを行うはずでいたのだが気がつけば顔を出しているのは乙彦含む三人のみ。それぞれいろいろ休み中は用事があるようだ。清坂もさほど困った顔はしておらず、副会長の羽飛と相談しつつ進めている。

「合宿といってもきっと話し合いばっかりになると思うし、それほど面白いこともないと思うけどなかなか語り合えないから、こういう時を利用しようね」

「俺も賛成だ、それと羽飛」

 ちょうど三人だけだから安心して尋ねられることもある。特にこの二人の場合は、

「生徒会とは離れるんだが、立村の様子、大丈夫か」

 ふたりが顔を見合わせた。やはり何かがありそうな気配がある。

「関崎くん?」

「講習、別だったのか」

 外部生の場合は別教室で受けることも多いので実際立村と顔を合わせることは少ない。ただ、他の連中やたまたま教室で顔をあわせた難波や更科、天羽たちが暗い顔をして、

「立村、またあいつ変なことやらかさねばいいんだが」

 などと相談しているのを小耳に挟んだりもした。さすがに生徒会役員以外の場で割り込む気にはなれなかった。

「そうなんだ、俺もちらちらとあいつの様子がおかしいという話を聞いてはいたんだが、実際当人と顔を合わせられないから状況がつかめない」

「そっか、そうだよね。こずえはなんか言ってた? あっそっか、関崎くんこずえとも顔合わせてない可能性大かあ」

 清坂は書類を片付けながらまた羽飛と顔を合わせて何かを促した。

「今の段階ではまだ私たちも何があったのかはわかってないんだけど、たぶん精神的に厳しいことが起きたんじゃないかなって気はしてたんだよね。貴史もそう思ったでしょ」

「ああ、俺たちもこの前、古川んちでクリスマスパーティーっつうものをやったんだがその時、あいつかなり落ち込んでたのは事実なんだわな」

「やはりか」

 立村とは昔からの知り合いであるふたりも、やはりそれなりに勘付くものがあったのだろう。こういう時しょっちゅう顔をあわせる古川や立村自身と接触がないのが残念だ。

「たぶん、あれかなってことはちらっと聞いてるんだけど。ただまだ確証が取れてないの。あまり隠し事したくないから言っちゃうけど、たぶんそれが本当だったら立村くんが落ち込むのも分からなくはないかなってことがあるんだよね」

 清坂は真剣な眼差しを乙彦に投げた。

「たぶん年が明けたらはっきりすると思うの。それまで待っててもらえる? きっと最終的には関崎くんにも協力を仰がなくちゃいけないことだと思うから」

「わかった。その時は頼む」

「おうさ、じゃあな、よいお年をだな!」

 今年最後の生徒会室から出て、今度こそ生徒玄関へと降りた。


 ──さてと、今日は思い切り食うか!

 片岡の家にて行われる「やきそば食い放題忘年会」は本日の昼過ぎだった。

 いったん家に戻り、内川を迎えに行き、そのまま着替えもまとめて持ち片岡宅へ向かう。一泊することはすでに両親にも伝えてあり、土産用の懐中汁粉も用意済み。三人ならせっかくだし泊まって男の子会するのも悪くないのでは、という桂さんの提案だった。

「食い物だけは任せろよ! きれいどころは用意できねえがお前ならそれでもいいよな」

 ──別にきれいどころはあまり興味ないが。

 男子にとって大切なことはひとつ、腹が満たされるか否か、この一点に尽きる。


「関崎先輩!」

 一目散に家へと戻り、すぐに着替えをまとめたボストンバックと土産ものをぶら下げ、すぐ近くの内川宅へと向かった。どうせ学校へはバスで行けばよい。自転車の方が早いのはわかっているが、桂さん曰くどうせ帰りは車で送るのだから手ぶらで来いという指示があったためだ。

 内川が笑顔で階段を駆け下りてきた。やたらとでかいリュックサックを背負っている。遠足か、いやいや修学旅行を思わせる巨大な荷物だった。

「お前、なんて荷物背負ってるんだ」

「はい! 今日は片岡先輩のもとで徹夜で勉強しようって約束してるんです!」

「勉強?」

 そんな話は片岡から全く聞かされていなかった。第一乙彦も勉強道具なんて全く持ってきていない。たぶん片岡だってその気はないんじゃないかと思う。

「ではこの荷物はなんだ」

「教科書と、辞書と、参考書と、それから着替えと」

「一泊だけだぞ」

「でも、やっぱり迷惑かなと思うんで、枕とか、あとテープとか」

 どう考えても無駄が多すぎる。乙彦は玄関でリュックサックを下ろさせて、無理やり中を確認した。しわくちゃなパジャマやら雑誌やらがぐちゃぐちゃに詰め込まれている。

「内川、お前、一応お前は『伝説の生徒会長』なんだからな」

 しゃがみこみ、乙彦はひとつひとつ畳みなおしてかばんの奥から詰め込み直し始めた。旅行バックの詰め方のコツや畳み方をどうも知らないらしい内川に、ひとつひとつ説明を行いながら、

「ほら見ろ。こんなに隙間が空いただろ。こんな巨大なリュックサックでなくても十分間に合うだろ」

 そう言って見るも逆効果であることに気づいたのは次の瞬間だった。

「先輩ありがとうございます! まだ持っていきたかった雑誌があるんです!」

 いそいそと階段を駆け上がり戻ってきた内川、かかえていたのはこれまた大量のテレビ情報雑誌だった。参考書より圧倒的な分量であることに代わりはなかった。

「お前、今日本当に勉強なんかする気あるのかよ。まったく」

 軽く頭をはたいてやり、乙彦は改めて内川を誘った。

「さあ行くぞ。桂さんがうまいもの用意してくれてるって話だから、ちゃんと心から礼を言うんだぞ!」

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