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28 期末試験後(5)

 期末試験の総合順位は少し遅れて発表された。科目が多いこともあって先生たちも集計に難儀しているらしいという噂もあったし、その他家庭科、音楽、美術といった科目についてもいろいろと面倒なことが多かったらしい。保健体育についてはみな、一部の男子たちが目を輝かせてがんばった結果高得点を獲得した生徒が「影の帝王」と呼ばれてみなひれ伏しているとか、本当なのかどうなのか分からない話も多々ある。

「関崎、今回の結果はどうだった。それと片岡、お前、今回は焼肉食えそうか」

「うーん」

 悩む片岡を横目で見つつ、乙彦は若干下がったとはいえ学年三十番以内に食い込めたことへ救いを感じていた。かなりきつかったとはいえすべての学科を平均点越えしたのと、英語もだいぶ八十点近く稼ぐことができたのに驚いた。なんとかなるものだ。

「総合点では上がったんだけど」

 片岡も今回は十番台だったようで恥ずかしい成績ではなさそうだった。ただし、

「また二番なんだ」

 しかたがない。満点取った奴が目の前にいるんだからしょうがない。

 その、英語で一番を取った奴を乙彦はそっと後ろから様子伺いした。

 あのクラス合宿以降少しずつ立村の態度もくだけてきて乙彦も胸撫で下ろすものがあった。規律委員会でも順調にすることしているようだしその点は安心している。週番も朝遅刻することなくきっちりこなしている。女子規律委員を務めている疋田とも意外と話が合っているようで取り立てて何か、ということはない。

 ──噂の「青大附高ファッションブック」もどういうもんになるんだろう。

 見るのが怖い。立村はいったいどんな顔して現場に立ち合ったのだろう。


 放課後生徒会室で一月予定の生徒会合宿について相談したり、目の前に迫っている冬休みの過ごし方などをのんべんたらりと話しているうちに、突然阿木が思い出したかのように、

「ねえ知ってる? 中学の生徒会長やってる霧島くんと元生徒会長とがね、おととい二人で仲良くデートしてたのって!」

 その場に居る全員に話しかけた。隣には名倉が話を無視して元会計役の先輩からレクチャーを受けている。別世界のふたりを除く全員がひょおと声を挙げた。

「生徒会長同士がか!」

 声を挙げたのは難波だった。にこりともせず、鼻をかみながら、

「阿木さん、それどこで見たかによってニュースのランクが変わってくるよ」

「んとね、この前の日曜」

 期末試験が終わった後の日曜だ。清坂と羽飛が顔を見合わせた。

「ねえねえ、青潟市内?」

「もちろん。駅前なんだけど、ふたりとも私服でおめかししてて」

「でもコートだったら何着てるかわからないじゃない?」

「なんとなく! でもね、ここだけの話なんだけどね」

 声を潜めた。

「どうも私の観た限りだと、手握り合ってたんだ。ほんとにすれ違っただけだし向こうさんたちも私の顔知らなかったから気づかなかったと思うけど!」

「ええっ!」

 ──いいのか、そんなこと憶測で話して。

 この阿木という女子は元評議委員だったと聞く。頭の回転は結構はやそうな印象もあるし事務仕事を得意にしている様子は伺える。しかし、どうも阿木は見目麗しい男子たちに目がないようで、ことあるごとに「ねえねえどこどこの高校にかっこいい人いるんだけど」とかなんとかで盛り上がっている。さすがに生徒会室では控えているようだが図書館でぎゃあぎゃあしゃべっているのを偶然居合わせたときに見かけたことがある。

「阿木さん、それ話によっては中学生徒会の大スキャンダルになっちゃうよ」

 さりげなく牽制するけなげな更科。阿木は無視して続けた。

「そんなの知らないって。ここで話しているだけで中学の生徒にばれるわけないじゃない。私もあの日たまたま駅前の本屋で買い物してたらね、偶然ふたりが現れたじゃないの。なにかわからないけど肩寄せ合ってひそひそ話してて。その後で霧島くんが何か本買って元生徒会長に渡して。店を出る時よ、手、握り合ってたのって。自動ドアでするする出てったよ」

「ちょっと待て。その本屋、もしかして『佐川書店』じゃないか?」

「名前分からないけど、駅前のアーケードに並んでいるとこよ」

 阿木がきょとんとして答える。乙彦は割って入った。これは語らざるを得ない。

「あの本屋は俺の中学時代の親友の家なんだ。俺のうちもあの辺でしょっちゅう二階の部屋に上がって遊んだりしてるんだが」

「関崎くん、それほんと?」

 清坂が首をかしげながら尋ねてくる。別にその日、雅弘の家にいたわけではない。ただ話の舞台が幼馴染の弟分宅と来れば何か一言口出ししないでいられなかっただけだ。

「ああ、今そいつは青潟工業に行ってるんだがな」

 誰もそんなことに興味なさげな顔で聞き流された。少々むっとくるが仕方がない。

「それで、なんだ。阿木、その新旧生徒会長同士がなかよくデートしていることについて誰かに話したのか?」

 相変わらず定位置、清坂の隣りで騎士の役割を果たしている羽飛がにやにやしながら問う。

「まっさか! そんなことしたら更科くんじゃないけど大大スキャンダル勃発じゃない! 私だってそこまで馬鹿じゃないよ。だって有名な話じゃない。元生徒会長の彼氏は元評議委員長の新井林くんだって。新井林くんって青大附中バスケ部をとうとう地区大会で決勝までもっていかせたという敏腕キャプテンとしても有名なんだけど」

 またまた勢いよくしゃべり出す。阿木の頭の中にはいわゆる「かっこいい男子」の標本が納まっているらしく、そいつらの話をし出す時の目の輝きたるやすさまじいものがある。男子からするとこういう時の女子からは少し離れたい。

「確かにな。新井林そんなこと聞いたら頭から火噴くな」

「それどころじゃないと思うよ。たぶんばれたら最後、霧島くん明日の太陽拝めないんじゃない? 明日の朝青潟川にどざえもんで浮かんでるよ」

「阿木さん、ちょっと、それ言い過ぎ」

 手を打って大笑いしているのはそれまで黙って聞いていた泉州。なぜかこちらは乙彦の隣りにいる。

「だからここでしゃべってるんじゃないの。機密守られる環境だから」

「さあわからないよ。どこでばれるか」

「でも、たまたま本屋さんで顔をあわせただけじゃないの」

「いいや、可愛い子にはやっぱりふらっとしちまうのが男子の弱さって奴か?」

 先輩たちも含めて好き勝手なことを言い合いつつも、結局意見としては、

「まあ、見間違いじゃあねえの。霧島も女子が言い寄るのには不自由してねえだろうし、佐賀もまああれだけ新井林に命賭けられてたらんなことできねえだろ。阿木も明るい未来をだな、自分のためにもっと探しに旅立つべきだぞ」

 羽飛ののんびりした声でまとめられた。正しい。その通り。阿木も男は顔ではないということをもっと認識した方がいいような気がする。たとえば阿木の隣りで話を無視して一心不乱に会計簿とにらめっこしている名倉を見てやってもいいんじゃないか……と思いきや、阿木はいつのまにか戦隊離脱して名倉の隣りでにこにこしながらその会計簿を見つめていた。やはり、それが一番だ。


 ──雅弘にちょこっと聞いて見るか。

 まあ、気づくわけがないだろう。家の手伝いをしているのはわかっているがいつもレジにスタンバイしているわけではないだろう。

 むしろ今回の話は、いろいろ誤解を生じていた佐賀はるみ元生徒会長との噂もこれであっさり拭い去られそうな気がする。それに越したことはない。やっぱりあれは立村の勘違いだったのだ。そうだ、そうだ。



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