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27 新天地へ(5)

 期末試験の内容は一学期と同様、論文調のものが多い。それゆえに実力試験の時のように暗記するだけでは着いていけない。だいぶ乙彦も慣れてきたとはいえまだまだ附属上がりの連中には歯が立たない。外部生が「実力試験や模擬試験、中間試験」まではなんとか上位に食い込むことができても期末試験でがっつり成績を落とすのはここに要因がある。

「というわけで、今回はもうずたずた」

 まだ明日三科目分試験が残っている中、静内と名倉の三人でのんびりと外を歩いた。明日、試験が終わったら名倉と一緒に生徒会室へ集合しなくてはならない。その後清坂会長の率いる元生徒会メンバー全員でお食事会があるはずだ。羽飛が懸命に店を探しているらしいと古川こずえが話していた。要はこの時期を逃したら三人でくだらないこと言い合う時間など得られないということだ。

「お互い様だ。試験勉強というより一日中小論文の練習ばかりさせられていたような気がする」

「だよね。何度考えてもこの学校の基準ってわかんない」

 紺色のコートをまとったまま静内はため息を着いた。黄緑のマフラーというのが時期はずれのような気もするがずいぶん目立っている。

「だが慣れるとなんとかなる」

「名倉、あんたはね」

 おそらくこの三人の中で一番よい成績を上げるのはこいつだろう。希望はすべて名倉に預ける。乙彦と静内は両方から名倉の肩をがっちり掴み揺らした。

「たのんだぞ、外部生の星!」


 この乗りで本当はカラオケボックスに繰り出したかったのだがそんなことが許されるわけもなくただただのんびりと師走の街を歩くのみ。

「そうだ、お前のクラスはどうだ? また揉めていたりしないのか」

「まあまあよ」

 気の抜けた声で静内が答える。

「一番の問題を抱えた人が出ていってくれたから、クラスはいたって平和よ」

「うちの会長か」

「そう、生徒会長様はもういていないようなものとして割り切ってるからすっごく楽」

「あまり人の悪口を言うもんじゃない」

 たしなめた。静内が清坂の悪口を言いたい気持ちもわからなくはないが少なくとも美しいものではない。静内は肩をすくめた。

「ごめん、生徒会役員同士だといろいろ面倒だもんね」

「そうなんだ。俺もあまり角を立てたくない」

「そうだよね。クラス替えしても続く関係なんだよね、生徒会は」

 静内と清坂との小競り合いも結局は生徒会役員選挙をきっかけになあなあの決着を迎えたといえるだろう。清坂からは今の段階で静内のことをどう思っているのかを聞いたことはない。ただ静内が評議の座を堂々と手にし、中学時代評議委員を続けてきた清坂にとってはプライドがずたずたになったことだろう。静内からしたらとばっちりとしか思えないのは当然だし、余計なことを先輩ぶって口出しされるのもこいつの性格からしたら耐え難いに違いない。結局よかったのだ。評議委員会と生徒会、ほぼ別組織に分断されたわけだから。

「そうだ、今思い出したんだけどこの前評議委員会に規律委員会の一年男子たちが来て、なぜか撮影いっぱいしまくって去ってったけど、関崎、あれなに?」

「俺はもう規律から離れているからよくわからないが、立村に聞いてみようか」

「別にいいよ。その人も混じってから」

 ふきだしそうな顔で静内がささやく。思い出し笑いしているところを見ると機嫌は悪くないのだろう。なによりだ。

「立村と南雲は親しいからな。それでなんだその写真撮影とは」

「それがね、私たち一年はあまり関係なかったんだけど評議委員の三年先輩たちの卒業記念冊子を作るとあって、仮装写真を取らせたってわけ」

「仮装? 文集作りか」

「違うみたい。私もよくわかってないんだけど規律委員会では青大附中時代にファッション雑誌っぽいものを季刊誌で出していたことがあったみたい」

「それは俺も聞いたことがある」

 たぶん伝説の「青大附中ファッションブック」だろう。乙彦はまだ観たことないが、なぜか規律委員会が編集し希望者に配布している代物だ。

「今回、規律委員会の副会長がそういうの好きらしくて手始めに評議委員会の三年生たちを中心にして撮影会を行ってたらしいんだけど、なぜウェディングドレス用意する必要あるのかなあ。近くで見たけどほんものそっくりでびっくりしたよ」

「おいなにか? カップルでもいるのか」

 いきなり食いついてくる名倉の頭を静内は軽く叩いた。

「そんなハッピーエンドな撮影だったら私もこんなに驚かないって。全員かわるがわるドレス着てその格好でにっこり微笑んでるんだから、先輩たちが」

「静内、ふたつ確認したいことがある」

 乙彦は小声で尋ねた。聞かれたらやはりまずい。

「なんでもどうそ」

「その場に立村がいたということだが何やってたんだあいつ。それともうひとつは、結城先輩もその、なんだ、あのドレスを着たのか」

 両手を激しく叩きながら静内は笑いころげた。

「思い出させないでよ、結城先輩の格好はもう」

 あまりにも激しい爆笑ぶりに、乙彦は大体の状況を把握した。無理にイメージすることもない。どうせ発行されたら嫌でも見せ付けられるだろう。

 

 立村のことについては聞き損ねそれぞれ家路に着いた。残りの三科目も決して楽観できるものではないのでしっかりテスト勉強しておかないといろいろまずい。留年という言葉がしゃれにならないくらい身に染みる。

 ──それにしても、立村が規律委員会でしっかりなじんでいるとはな。

 南雲や東堂のような昔馴染みがいるというのもあるのだろう。また南雲が副委員長となり影響力も強まったこともあって、立村がうまくぶら下がっているのかもしれない。その辺はあまり興味を持たないようにしている。しかし、静内の言う、

 ──結城先輩のウェディングドレス姿を撮影するのに立村も付き合ってたのか?

 単純に、どんな面して見ていたのかは非常に興味がある。どちらにせよクラス委員にせよ生徒会役員にせよ、納まるところへ納まったと考えればいいのだろう。


 ──だがやはり。

 乙彦は頭を振って雑念を振り払った。

 ──あいつが納得しているんだ。それ以上は言うまい。

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