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27 新天地へ(3)

 それからしばらく、十二月に入るまではさほど目立った動きもなかった。清坂会長率いるフレッシュ生徒会とはいえ、まだまだ旧生徒会メンバーの力が強い。今年一杯は組閣メンバーと仲良くコミュニケーションをとってゆき、とりあえずは現在の三年生たちを見送るまで無難に過ごしてほしいとのことだった。

 乙彦も言われるがままに旧生徒会メンバー先輩たちに引きずられるようにいろいろな事情を教えてもらったり、現在の学校事情についていろいろ耳に入れたりしていた。特に外部生ということもあって知らないことが多すぎ正直着いていけないと感じる時もある。また、現生徒会の連中とも昼休みや放課後、強制的に顔を合わせてはいるけれどもまだ和やかな会話を交わすには至っていない。生徒会イコール仲良しクラブというのはどうかとも思うが、全く会話のない相手もいるのは少しまずいと思う。

 ──特に、名倉は。

 決してないがしろにされているわけではない。それどころか貴重な会計担当ともあって先輩たちが熱心に教えているようだ。ただ、その学び舎は生徒会室ではなく別室らしい。たまにちらと様子尋ねたところ、相当絞られているらしかった。とりあえずは、

「簿記三級を取るのがまず仕事だ」

 疲れ果てていることだけはなんとなく伝わってきた。ご苦労さま。


 約二週間ほど経った、期末試験一週間前のある日、ある意味習慣化してきた生徒会室でのひと時、先輩たちも含めていろいろだべっていた時だった。

「期末試験が片付いたら休みの日使って一回生徒会の団結会やらない?」

 清坂がいきなりその場にいた生徒会役員たちに呼びかけた。全員ではなくむしろ先輩たちの方が圧倒的に多い。名倉もまだ来ていなかった。いや、D組生徒会役員三人が、と言ったほうが正しい。

「ね、先輩、どう思います?」

「俺たちも参加していいのか」

 けげんそうに元生徒会長の先輩が尋ねるが清坂は首を振った。

「先輩ごめんなさい。すっごく私感謝してます。けど今は、生徒会役員になったメンバーだけで一回とことん話し合う場が必要かなって気がするんです」

「なんだよ清坂ちゃーん、シカトかよ」

「そんなこと言ってません。ただ私、実言うと生徒会に入ってから他の同期たちと全然話し、してないんです。それって変じゃあないですか?」

 ──確かに。

 一応清坂も気にしていたのだろう。乙彦をはじめ顔なじみの薄いメンバーに自分から話しかけたりはしていた。しかし泉州や名倉などの今まで委員会に参加したことすら一度もない奴らからはどことなく距離を置かれていた。名倉が清坂に抵抗を感じているのは静内とのことも関係しているだろうしわからなくはない。

「ここが単なる仲良しの友だちグループだったらまだいいかもしれませんけど、やはりこの学校をよくしたくって集まってきたメンバーなんだからもっと語り合わないとまずいかなって。先輩たちに今は甘えてられるのでまだいいんですけど」

「いいよ清坂ちゃん、もっと甘えてくれたまえ」

 ──生徒会長、まさかとは思うが。

 関係ないことだが、今、清坂の隣りに羽飛はいない。

「先輩そんなこと言わないでちゃあんと聞いてくださいね! けど今は期末試験も近いし、明日からはしばらく生徒会室にも集まりづらくなるのはわかってるので、今のうちに予定を教えてもらいたいなって思ったんだけど。あ、難波くん期末試験後の土曜の昼から、時間ある?」

 本当は死ぬほど忙しいふりをしたそうに言葉を濁した難波だったが、

「あ、俺ひまだよ。そうだよね清坂さん、俺もそれ言おうと思ってたんだ。大賛成。な、ホームズも一緒に行こうよ、コンサートのチケット外れたって言ってただろ」

 とんでもない趣味のねたばらしをされて更科ともども参加者に名乗りを挙げた。

「関崎くんは? バイトとかは?」

「俺のバイトは朝しかやらないから大丈夫だ。試験が終わっていれば少しは羽根も伸ばせる」

 うれしそうに清坂は乙彦の名前をメモして丸をつけた。

「そっか、OKOK。関崎くんも来てくれるとなると三人かあ。あとは」

「おい清坂、羽飛には言ったのか?」

 難波がむっとした表情のまま、そこに居ない面子について尋ねた。

「その他まだいるだろ。阿木や、あの背の高い、あの」

 名前が出てこない。泉州のことだろう。

「きたら聞いて見るね。でも、試験後だったらみんな大抵暇よ。塾に行ってる人なんかほとんどいないし」

 ずいぶんな決め付けようではあるが、乙彦も一応は暇だ。もし時間があれば静内さそって三人でカラオケに繰り出そうと思っていたがそれは難しそうだ。最近静内ともばか話する暇がないのが残念だが。たぶん名倉も同じことを表居るだろう。

 ──それにしても遅いなD組連中は。

 

 やはりカラオケがいいか喫茶店でだべるかなどいろいろ意見を出しているうちに、ようやくD組の三人が現れた。

「どうした遅いな」

「珍しく説教が長引いた」

 ぶっきらぼうに名倉が答え、その隣りから背高のっぽの泉州が肘でつついた。

「ほんと今日は大変だったねえ。寝ちゃいそうだったねえ、名倉」

 反対側でまたにっこり笑う阿木。珍しい。更科が声をかけた。

「阿木さん、D組、クラス委員とかそのあたりで揉めてるの」

「そうでもないけど、生徒会役員が多すぎるってことで結構大変」

 気心知れているのか更科とは笑顔で返している。

「でもね、今日は別の楽しみがあってね。名倉くん」

 阿木はちろっと名倉の手元を指差した。かばんではなく大きな手提げ袋がぶら下がっている。

「どうしたの」

「実はね。ほら、名倉」

 今度は泉州がぐいぐいと名倉の背中を押している。それだけではない。いきなり片手から紙袋をひったくり、

「男なんだから度胸出しな、ほら!」

 紙の手提げからこれまた大きな四角い缶を取り出した。かなり大きい。クリスマスケーキの箱のイメージだがまさか缶だしケーキもないだろう。第一まだ十一月だ。クリスマスにはまだ早い。

「やめろよ、壊れる」

「いいじゃないの食べる分には一緒なんだから」

 缶を生徒会役員たちの集まるテーブルの上に置き、

「昨日、名倉のところにお祝いが届いたらしくて、そのおすそ分けらしいよ、ね、そうだよねえ、名倉?」

 そんなの全然乙彦は聞いていなかった。文句を言いたくとも言葉が重くて伝えられない名倉に、これは泉州に抗議したほうがよいのはと思った矢先だった。

 名倉が泉州を押しやり、、その缶の蓋を自分からゆっくりと開けた。

 どこかの外国製クッキーの入物を利用したものらしいが、市販品ではないようだった。

「奈良岡から祝いのクッキーだ。お前らによろしくと言ってた」

 投げやりに答え。蓋を入物の下に重ねた。


 最初に缶の中を覗き込んだのは清坂だった。

「名倉くん、もしかして奈良岡彰子ちゃんからの?」

 名倉が答える前に、同封されていた手紙を清坂がするする開く。

「読んでいい? 表書きが『青大附高生徒会役員のみなさま、および私宛』ってなってるけど」

 仕方なさそうにうなずく名倉に清坂は微笑みながら封を切った。同時に更科がさっそくティッシュを人数分広げてクッキーのとりわけを始めた。

「うわあい、ねえねえ、これ、彰子ちゃんのお祝い! 先輩知ってます? 私たちの代に中学まで居て、今お医者さんになるために別の学校に進学した奈良岡彰子ちゃん! 名倉くん彰子ちゃんと友だちなんだよね! ありがとう、ほっとにうれしい!」

 他の先輩、同輩を促しながら分厚いクッキーに歯型をつけ、

「どうしよう、彰子ちゃんのクッキー、さらに進化してる! 彰子ちゃん、会いたいよ!」

 感極まった表情で大きくため息をついた。

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