表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/131

23 立候補者一覧(3)

 ──なんで立村まで来てるんだ?

 立村は少し困った顔で乙彦に頭を下げ、その後元評議三羽烏をはじめとするC組グループに手を挙げて挨拶した。もちろん結城先輩をはじめとする先輩たちにはふかぶかと一礼をしている。

「清坂ちゃん、学校祭以来だねえ。制服の色が普通だとなんだかあ」

「結城先輩学校祭まだ引きずってるんですか?」

 明るく清坂も答える。ちらっと見たのは乙彦および静内らしく、特に何か言葉を交わしたいということもなさそうだ。古川がにやっと笑いながら乙彦に合図してきたのでこちらでは軽く手を挙げるだけに留めた。

「会長殿、これで全員かな」

「はい、全員」

 お互いに合図しあうと生徒会長は立ち上がり、しっかりと全員の顔を眺めながら、

「本日突然集まってもらったのはご存知の通り明日が生徒会役員改選の立候補最終日。実際は今日でほとんど決着がついているような状態なんだが」

 言葉を切った。口元を右側だけくいと上げて、

「ざっくばらんに言うとうちの学校の場合、生徒会役員改選の流れが異様に早いんだ。中学もほとんど同じなんで附属上がりのみなさんはご存知かと思うんだが」

 乙彦たち外部三人組にも目線を投げて、

「改めて言うと、要はめんどくさいことはしたくない、信任投票って奴っすな。つまり早い段階でメンバーの目星をつけておいてそこでどんどんスムーズに次の準備を進めたいと。期末試験も近いし三年も本当は手伝いたいところだが人によっては大学への内部推薦がごたごたしていることもあってできれば早く終わらせたい。利己主義まるまりなんだがそういうことなんですわ」

 くだけた口調で話を続けた。

「そんなこともあって、ある程度立候補者が揃ったところで今回集まってもらったわけなんですが、実は今のところ人数が若干名足りないんですよ。会長・副会長まずこの三ポストは埋まってると。次に書記、こちらはまだ一ポスト空いてる。あとは会計一ポストと渉外二ポスト」

 ──思ったより埋まってないんだな。

 意外だった。もっと集まっていると思っていたのだが。しかしそういうことになるとこの中に立候補者が混じっているということか。

「せっかくなんで締め切り前にある程度まとめてしまいたいというのが本音。また面倒な補充選挙なんてやりたかないですんでね。どうでしょ、どうでしょ。せっかくなんで友だち付き合いしているもの同士、立候補してみませんかというのが今回集まってもらった趣旨でやんす」

 みな、呆然とした様子で黙り込んでいる。乙彦も口が開いたままふさがらない状態のまま会長の顔を見上げていた。どう考えてもフェアではない。第一、まだ明日の四時まで申し込み受付は行われているはずなのだが。

「質問です」

「おおどうした関崎?」

 指名したのは会長ではなく結城先輩だった。

「明日まだ一日ありますが、他の生徒が立候補してきたらどうするんですか。せっかく信任投票になるはずがいつのまにか決戦になったりします」

「それは大丈夫。またその段階で打ち合わせするから」

 会長が自信持って答えた。本当にいいのか、これで。

「決戦ともなったらまたみんなに顔を合わせてもらって裏で帳尻あわせすることもできる。まあたぶん、今回は二年がひとりも立候補するつもりがないとのことなんで、一年のみの内閣と相成るがいかに、いかに」

 ──ほんとかよ。

 やはり噂は本当だったらしい。恐ろしい話だ。青大附高に正当な民主主義は存在するのか。隣りで静内が乙彦と名倉を交互に見つつ、物言いたげに頷いている。さすがに誰も言葉を発しない以上「ありえないよね」とは言えないらしい。


「んでは、そんなこんなで今のところ、立候補したい人はいるのかな」

 会長の呼びかけにいち早く反応したのは難波だった。

「会長、ひとつ聞きたいんですが誰が立候補してるんですか」

「それは今の段階では内緒」

 全員「はあ?」と顔を見合わせている。

「どうせ分かるのは明日以降だが、途中で立候補取り消しが出るやもしれんしな」

「空いてるポストだけは教えてもらえるけどってことっすか」

「そういうことなんだよ」

 腑に落ちない顔でしばらく難波は首をひねっていたが、突然、

「わかりました、それでは俺が立候補します! 用紙ください!」

 勢いよく立ち上がり、会長に向かい手を差し出した。生徒会役員たちが笑顔で拍手を始め、書記担当の女子がうやうやしく申し込み用紙を手渡した。結城先輩もふむふむ頷きながら、

「いいねいいね、元評議が生徒会に入ってくれるのはうれしいねえ。ところで難波、お前さん最近コンサートには行ってるのかね」

 いきなり内輪受けの話題を振るのはやめてほしい。難波の代わりに更科がにっこりしながら、

「今度の冬休みのカウントダウンコンサート行くみたいですよ」

 笑顔で答えた。多分アイドルかなんかのイベントだろう。結城先輩の関係なら「日本少女宮」だろうか。しかし難波は首を振った。

「いえ、今年は控えます」

「どうしたんだい珍しいねえ」

 難波は申込書を書き終えて提出した。三羽烏が親指を立てて意思統一しているところみると、今回生徒会に入るのはこの中の誰かということで話が着いていたのだろう。少し気持ちが重たい。どのポストだろう。副会長ではないらしいのでほっとしているところもある。第二の総田みたいな奴だったらやりきれない。


 その他数名、乙彦の知らない生徒が挙手して立候補を続けていき、最後一ポストのみと順調に埋まっていった。この段階でまだ誰が会長に立候補したのか不明なままだった。そもそも後ろの四人組のうち誰が立候補したのかすらわからない。まさか立村ということはないだろうが全くないとは思えない。古川も万が一立候補なんぞしてしまったらA組の次期評議委員が誰になるのか心配でならない。順調にいくとあの中だと羽飛だろうか。羽飛なら人気も中学時代絶大だったようなので会長職も問題なさそうに思える。あとは三羽烏から天羽だろうか。天羽も元評議委員長だ。難波がどのポストに入ったかはまだ不明だが協力しあって何かしそうな気配がする。

 静内にちらりと目線を送ってみる。

「なによ」

「お前、出る気ないのか」

「会計に?」

「お前理系得意だろ」

 小声でささやく。確実に内部生との確執が芽生えそうな体制を考えると、できれば外部仲間がひとりくらいいてもいいのではと思う。特に会計というポストは予算を握る場だから万が一何か対立したとしても最悪の場合に「予算」という武器で戦える可能性がある。

「俺を助けると思って、という気はないのか」

「助けてもらいたいってわけ」

 静内はくっと息を止め、じっと机を見つめていた。考えている。検討しているはずだ。せっかくならば出てほしい。B組の評議委員の座であれば清坂に譲ってもいいのではないか。

「もう一日待ってもらってていい?」

 乙彦と名倉にしか聞こえない声で静内はささやいた。

「どうしても確認したいことがあるんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ