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23 立候補者一覧(2)

 クラス合宿準備はほとんどが古川の手で執り行われているらしく、男子には情報が流れてこない。とはいえそれなりにすべきことも進んでいるようで、

「関崎の副会長就任パーティーについてはもう料理の準備もすんでるからね」

 頼んでもいないことを伝えられる。さらに麻生先生にいたっては、

「そうか関崎も、とうとう青大附高を動かすリーダーとして本気出したか! めでたいこった。落ちたら落ちたで落選残念パーティーでもいいじゃないか。お前がこうやってA組のシンボルとしてがんばってくれるのを目の当たりに出来るだけでもうれしいぞ」

 全くもって見当違いの応援までされてしまった。

「落ちたら残念……?」

「それであれば評議委員を選ぶという選択肢だって出てくる。いいじゃないか。今年のクラス合宿は盛り上がるなあ、藤沖?」

「全くです」」

 なんだか現評議ふたりと担任にいたっては乙彦の計り知れないところで生きているような気がしてならない。立候補してしまってから言うのもなんだが、本当に信任投票で決まるのだろうか。一切他の立候補者情報が流れてこないのが不気味ではある。


 そんな中、立村の様子が気にかかる。

 最初は単純に生徒会役員改選への興味が薄いだけかと思っていたのだが、締め切りが近づくにつれてやたらとC組およびB組をうろつくそぶりを見せている。もともとC組には三羽烏プラス羽飛と南雲が、B組には清坂がいるわけだから不思議なわけではない。が、戻ってくるたびに深刻な表情を浮かべているのはなぜだろう。

 ──立村も何か一枚噛んでいるのか?

 藤沖に口を滑らせたら危険という意識はあるので、あえて様子伺いのみにはしている。他にもこれはいつものことだが霧島がしょっちゅう立村に会いに来る。生徒玄関前で待ちぶせて無理やり引っ張っていくのを見かけることもある。そこまで慕っているのかと唖然とする。なんだかどこかで見た光景だと思わず片岡を探してしまう。

 ──クラス委員に誰が来るかを情報集めしているのか? 

 今のところ可能性として高いのはそのあたりだろう。またクラスで決定した段階で情報をまとめて仲間内に流すべく動いているのだろうか。立村にはもっと表立って活躍してもらいたいので本音を言えばノーサンキューというところもある。

 

 締切前日を迎えた放課後、いつものように乙彦ふくむ外部三人組は図書館でだべっていた。だいぶ日にちも経ち乙彦立候補を受け入れる一方で、

「これからなかなか集まりにくくなるね、あーあ寂しいよ」

 寂しげにつぶやく静内をなだめたりもしていた。別に乙彦としては生徒会に入ったからといってこいつらとのつながりをなあなあにするつもりもない。むしろ冬休みの自由研究第二弾についてももう少し考えねばならないのではとも思っている。前回があまりにも高い評価を受け過ぎたこともあるのでテーマには気を遣う。

「石碑も悪くないが今度は青潟市内の庭園めぐりはどうかなって思うんだ」

「庭園なんてあるのか?」

 聞いたことがない。名倉が追加で説明してくれた。

「ある。無料だが結構個人の家で管理していた土地を寄付して庭園にしたりするケースはある」

「なんでお前そんなこと知ってるんだ?」

「静内が言っていた」

 ねたをあっさりばらす名倉。もうすでにこのふたりで話し合いは進んでいるらしい。

「だが冬だろう。見るところなんてあるのか」

「関崎、あんたは甘いね。冬だからこそ雪囲いとか、雪釣りとか、七福神とか、いろいろ見所あるんだから。しっかり写真撮りながらそこのあたりの歴史を調べてまたマップにしようよ。ただ年末年始が入るからあまり大掛かりなことできそうにないけどね」

「確かになあ」

 それぞれ好き勝手なことを話すのもいつものことだった。そこへ、

「おやおやお三方、どうもっす」

 声をかけてきたのは規律委員長だった。乙彦が立ち上がり礼をすると、

「悪いんだがこれから生徒会で用があるんだけど来てもらえないか」

 一方的に話を持ち出した。座ったままの静内と名倉が顔を見合わせている様子に、

「もちろん、関崎だけじゃない、静内さんと名倉くんにも来てもらいたいんだが」

 まくし立てる。かなり急いでいるようにも見える。

「あの、私たちも、ですか?」

 戸惑い気味の静内がお嬢様風情で尋ねる。見事な化けっぷりである。

「そうなんだ。君たち、関崎が生徒会にってこと、聞いてるだろ?」

 ふたりとも頷く。委員長は安心したように胸を撫で下ろすふりをした。

「それはよかった。なら今日これから、生徒会長直々に相談があるんでぜひ三人出来てもらいたいんだ」

「俺が立候補したんですが、このふたりも連れて行く必要あるんですか」

 全く訳が分からない。乙彦は念を押した。

「そうなんだ。連れて来てほしいんだ。別にとって食うわけじゃないんだがな」

 有無を言わさぬ口調に逆らうことはできなかった。一応先輩は敬う教育を受けている以上それしかなかった。


 二階の生徒会室に向かう途中、規律委員長が途中でパイプ椅子を三脚借りた。三人でそれぞれ一脚ずつ持つことにした。

「悪いな。無理に引っ張り出したようだが理由は行けばすぐわかる」

「いったい、何か」

 乙彦が尋ねかけたのを遮り、手ぶらの委員長が扉のドアノブをひねった。

「遅くなりました。関崎を見つけましたのでつれのみなさんも含めて連れて来ました」

 入るとすでに先客が連なっていた。見覚えある奴が数人混じっている。まず生徒会役員全員と結城先輩が最奥に、さらに一年C組連中の元評議三羽烏と南雲および東堂もいる。その他乙彦が顔をあわせたことのない奴らも数人いる。

「ご苦労ご苦労。さてそうなるとあとは例のふたりだなあ」

 乙彦に向かい笑顔で手を振る結城先輩に一礼し、乙彦はあいている場所にパイプ椅子を開いた。他のふたりも同じく真似をし隅に座り込もうとしたが、

「まだこれから何名か来るからもっとつめてもらわないと困るよ」

 生徒会長の呼びかけにしかたなくテーブルの奥へと進んだ。真向かいにC組連中が連なっているのを居心地悪く見合う。静内が東堂と愛想良く挨拶している様子が笑えた。このふたりはわりとうまくいっているのだろう。

「関崎、やっぱり生徒会に出るんだな。予定通りか」

 天羽がこれまた愛想良く声をかけてきたので無難に挨拶する。

「予定かどうかはわからないが、昔とった杵柄だ」

「中学とは違うだろう」

 ぼそっとつぶやく難波にもやもやしたものを感じるが合えて何も言わずこらえる。隣りの静内が無表情で様子を伺っている。何か言いたそうだがやはりアウェイだしがまんせざるを得ないのだろう。

 ──まさか、こいつら全員立候補するのか? いくらなんでもそりゃ多すぎるだろ?

 尋ねたいのだが雰囲気として一年としての言動に迷う。結城先輩が生徒会長や副会長と和やかに、

「そろそろかねえ。誰を連れてくるかねえ」

「なんせ一番のりでしたからね」

 などと語らっている。おそらく乙彦が立候補する前に現れたふたりだろう。会長・副会長に立候補した奴らともいう。

 ──確かに気になるが、いったいなんでこんなにいきなり引っ張り出されたんだ?

 少なくとも乙彦の知る限り生徒会役員の定員は七名のはずだ。この場にはどう考えても七名以上いる。さらにあと二人が並ぶのか?


 ノックの音がした。

「はいはーい!」

 生徒会書記の女子がすぐに出迎えた。

「これで全員ですね!」

 皆がどよめいた。承知していたらしい生徒会役員以外の生徒たちは絶句するのみ。結城先輩にいたっては思わず声を挙げて驚いていた。それが意外すぎた。

「おまたっせー!」

 面子は四名だった。聞きなれた女子の声はいつもの下ネタ女王様、さらにそれに連なってきたのは清坂と羽飛の幼馴染コンビ、そして最後丁寧に扉を閉めた立村だった。


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