五里霧中ならぬ五里山中ってところ
師匠に連れて行かれたのはなんとかいう山の奥深くにある妙な場所だった。
「ここ、は…?」
「面白そうなとこだろ?」
今にも声をあげて笑い出しそうな師匠の様子も、この場所を見たらよくわかる。
木々を結びつけるように無数の注連縄が張られており、金網やフェンスなども結びつけてある。そこにはまた大小様々な文字やお札が張られまるで、『檻』だ。
ぱっと見入り口すらない。
「どうやって、入るんですか?」
「なんだ、乗る気じゃないか。
まぁ、見ていろよ」
そういうと師匠はまるで神社の神主のように二礼二拍手を始め、何やら祝詞だろうか?を上げ始める。
「あれ、一礼してないけど…」と思っていると何やら祝詞も様子がおかしい。どうやら独自の様式のようだ。こんな様式は僕は知らない。
しばらくするとどうやら終わりらしく一礼してまた拍手を打っていた。
「あはは、成功だ!
お前も柏手を打て」
真似をして柏手を打つと目の前に祭壇のようなものと、観音開きの扉が出てくる。まるで仏壇だなと眺めていると扉がギギギ…と開き始める。
「これは…?」
「あはは!いい顔だ!
じゃあ、行こうか」
「何がいるんです?」
「そりゃ、ついてきたらわかるさ」
楽しそうなのを隠しもしない、というか事実楽しいのだろう。
師匠の空気に飲まれたのか、はたまた慢心していたのか僕自身も何かあれば師匠に力を見せるんだと勝手にワクワクしていた。
そんな僕の心とは裏腹に、というべきかあまりにも何事もなく30分ほどさらに奥に来た。
よほど人の手が入っていないのか木々は鬱蒼と茂りすぎて光もろくに入ってこない。そのおかげで下草も生えていない。落ち葉も大きなものはない。とっくに腐って土に帰っているのか、確かに足元はグズグズで腐葉土のようだった。
ふと、足が止まる。
「あの…、ここは人が入ってきていない土地なんですよね?」
「ああ、そうだなぁ」
「ですよね?あの、じゃあ…
なんで蜘蛛の巣一つないんですか?
これだけの腐葉土だし虫はいるはずですよね?
山の中に蜘蛛の巣一つないって…」
「いいや?
蜘蛛の巣ならそこにあるじゃないか」
そう指差されて木を見上げると、ずいぶん高いところに確かに蜘蛛の巣のようなものに繭のようになった白い塊がくっついていた。どうやら餌であるらしい。何かの足が見える。というか、あれは鹿の足だ。おそらく。
その蜘蛛の巣のようなものは、恐ろしくでかかった。
「は?」
ずいぶん間の抜けた声だったと思う。
「蜘蛛の巣、だろ?」
「いや、サイズ、おかしい、です、よね?」
「少し大きいなぁ
あれ、カモシカだな
お前ウサギだし気をつけろよ?」
「え?それ僕も喰われるってことですよね?」
「まぁ、ここにいるやつは、生きてりゃなんでも喰うだろうけどな」
「いや、それもう悪霊とかそういう類じゃないですよね?」
「おお、そろそろ来るんじゃないか?
面白い奴が見られるぞぉ」
なにか、不快な、それは何かが軋み擦れ合わさるような、キュリキュリともシュリシュリとも言えないなんとも言えない音。時折赤子のような、唸り声のようなものも聞こえる。なにかわからない何か、それはもう何か理解しようとしても脳が初めてのことでパニくっていたんだろう。最初は全く理解できてなかった。
女の人が覗いていた。
頭上遥か上の、その、巣の、そばから。




