第六話
あの頃は、本当に彼女の事が好きすぎていた。けれども、過去最高に好きというわけでもない。ただ、こんな恋は初めてという感覚と二度と味わえないという執着が頭と心の間をずっと行き来していた。
どんな恋愛でも、こんな恋は初めてとは思うけれど、今回の恋は周りも見えなくて、自分の気持ちが相手よりも優先しすぎて、余裕がなく、本気で好きなのに、今思えば、そんな気持ちが本当に相手の事を想う気持ちなのかと疑問に思った。
彼女はよく耐えていたと思う。俺の事だけではなく、仕事や私生活の事情、俺の知らない悩みなどで心底疲れていたと思う。
生きていたら、色んな悩みはついてくるし、あって当然。俺もある。
そんな時、お互いがタイミングよく出逢い、関係を持ち、二人が心地よい存在になれるのは時間の問題と感じていた。恋愛というのは、二人でするもの。どちらか一方が熱くなりすぎると、温度差で離れざるおえなくなる。女性という生き物は我慢強い。そうなる前にいくつかのサインのようなものはでていたはずだ。俺はそのサインを見落として、こんな状況に陥った。
あの時にこういうことを伝えたかったけれど、それも結局は自己満足の世界。
何もしないことが本当に正解かはわからないけど、多分そうだろう……。
恋愛に正解も不正解もないけれど、お互いが、その年、その月、その日、その時間に出逢い、惹かれて、話したいから話す。会いたいから会う。理由があるようで理由はない。人を好きになると、冷静ではいられない。余裕があるなら、それはまだそんなに好きではないという事。本気ではない証拠。
本気で恋をしたら成就しにくい。なんとも皮肉なこと。今回の恋愛で勉強になって、人間的にも成長して、まだまだこれからだけど、また辛くて楽しい恋をしていきたい。死ぬまでずっと。
一回りも二回りも大きくなった自分がいる。本当に良い恋愛を経験させてくれてありがとう。感謝します。出逢えて良かったです。
そんな風に思える恋愛は、略奪愛では不可能だ。
ただ、普通の恋愛では得られない快感とその後のなんとも言えない脱力感を味わえられる。
そして、その略奪愛が終わったあとは、何も残らない。だから、また略奪愛ができてしまう。皮肉なことに。