第一話
この三十年間、今までの恋愛は全て略奪愛によるものだった。たまたま好きになった女性に彼氏がおり、それを承知で告白し、アプローチをした。過去六人、付き合った女性はその略奪愛によるものだ。
実際、略奪愛というものは、普通の恋愛に比べて相当なエネルギーを使う。しいて言えば、フルマラソンを完走した夜に男女の営みを行って、また次の日にフルマラソンを走るようなものだ。
生半可な精神力では、体も心もズタズタになり、廃人寸前まで陥ってしまうだろう。それは麻薬となんら変わらない。恋愛とは、そういうものだが、恋愛をゲーム感覚で話せば、先に好きになった者が負けだ。男女関わらず、相手のいいなりになってしまうからだ。本音を聞き出したいのに、嫌われるのが怖くて聞けない自分。相手の事が好きなのに、会うたびに気を使って、疲れ果ててしまう自分がいるのに、また会いたくて、会っては疲れての繰り返しで、この状況から抜け出したいのに、抜け出せない自分に、何かきっかけがほしくて苦しんでいる自分。
いつまで、この状況が続くのだろう?
時間だけが無情にも過ぎ去り、日に日に胸の真ん中辺りが締め付けられていく。こんな気持ちのまま過ごしていても、辛いだけで何かもったいない。悩むことは仕方がないけれど、少し悩んだ後は楽観的にこの苦しい状況も楽しむ余裕がなければ、略奪愛はやっていけない。
略奪愛は一見難しそうに見えるが、実は普通の恋愛に比べて成功率が高い。相手の心の隙をついて、そこをうまく見抜けるかが勝負である。最近、彼氏とはうまくいっているのかなど、さりげなく聞き出し、うまくいっていなければチャンスだ。相手の好き度合いにもよるのだが、話を聞いて、聞いて聞きまくる。簡単そうに見えて、この聞く行為は実は略奪愛の過程で一番つらい。この時ばかりは自分の恋愛感情を殺して、聞きたくもない彼氏の話を延々と聞かなければならないからだ。
しかし、こうすることにより、相手は少しずつ心を開いてきて、信頼関係が築かれていく。中には、告白もしていないのに男女の関係になってしまうこともある。それはそれで、嬉しいことだが、複雑でもある。体は許しても心は完全には許してないからである。愛人関係のような、これはこれで楽しいものだが、やはり、苦しいときの方が多い。
略奪愛、結局は奪い合いのゲーム。
普通の恋愛もそうだが、勝者が必ず幸せになれるとは限らない。恋愛は勝ち負けではないから。
そして、また好きな人ができた。やっぱり、彼氏がいた。
七人目の略奪愛が始まった。