第9話 隣人
((ゴゲゴッゴーッ!))
ガバッ
「どひゃああ!?」
ピピピッピピピッピピピッ
ピピッ
「AM5時?予定起床時間じゃん。なのに、何でか酷い寝起きなんだけど?」
((ゴゲゴッゴーっ!))
「い?何の動物よ!?」
隣りの家から聞こえるって事は、まさか名古屋コーチン?
めちゃくちゃ低音の嗄れ声なんだけど。
いつも朝っぱらからの鳴き声だけど、今回は嗄れ声でドスが効いて怖いわ。
((ゴゲゴッゴッゴケ、ゴゲゴッゴー!))
「うえ、完全に風邪引いてんじゃん。え、まさか鳥インフルじゃないわよね?」
いやそれ以前に住宅街でいつまでコーチン飼ってんだよ。
少しは近所迷宮考えろや。
マジ勘弁だわ。
だけど、また変な夢見たな。
定番の異世界女神が何か頼み事をしてたんだ。
うーん、私っていつからこんなに中二病になったんだ?
まあ、どうせ夢やし、悩むまでも無いけど。
「ただ何か言ってたな。私達が今後お金の事で悩む必要無くなるような事とか、信頼出来る大人が助けてくれるとか。あり得なくね?」
はあ、そんな事よりバイトの件だ。
もう今日のシフトは休むとしても、明日からどうしよう。
あの店長とは会いたくないし。
「うーっ、考えるだけ時間の無駄。昨日はお陰で制服のまま寝ちゃったよ。取り敢えず朝風呂で直ぐにチビ達の用意だ」
ガザッ
「ん?!」
さあ、やろうと歩き出そうとして、ポケットに違和感。
なんか紙が入ってる?
「うえ、店長のヤツ、抱きついて私の腹や腰を弄った時、趣味の宝くじの紙をポケットに入れやがったな?気持ち悪!」ぽいっ
ポケットには1枚の宝くじが入っていた。
気持ち悪いからゴミ箱行きだ。
いやだいやだ、思い出しただけでも吐き気がする。
ずっとあんないやらしい事をしようと私を狙ってたんだろうか。
店長だけがおかしいのだろうけど、男全般に対する考えも嫌になる。
「そんな事考えたら弟達も、いつかは男になるんだよなぁ。ん~~⋯⋯⋯?」
先入観ってヤバいな。
いろいろ考え過ぎると滅入る事ばかりだ。
何事もポジティブを忘れずに、だな。
❇❇❇
ブルルルッ
「それでは預かりますね」
「はい、よろしくお願いします」
「「「あまねママー!」」」
「お前達、ちゃんと先生の言う事聞くんだぞ」
「「「はーい、いってきまーす」」」
「行ってらっしゃい」
ブウゥーン⋯⋯⋯⋯⋯。
「さて、今度は私の番だな」
結局今朝は風呂にも入れず、洗面台で頭を洗って髪をとかしただけ。
唯一の時間短縮は制服着たままだった事だけど。
「ヤバい。下着変えられなかった。はあ、しかも制服がヨレヨレだよ。また学友達に心配される」
幸いにも学校では良い学友達に恵まれ、イタズラとか虐めとかは未体験。
はたから見れば、きっと小さな虐めやイタズラはあるのかも知れないけど、桜母さん直伝のポジティブ感覚のお陰か余り感じた事は無い。
「ま、私がポジティブ馬鹿になりつつあるのかもね」
とはいえ、さすがに昨日のは気が滅入るわ。
何よりバイトをイチから探さないといけないのがキツい。
「エッチな事に応じないと首とか、いつの時代の話だよ。まあ、あのコンビニには二度と行かないけどさ」
「あのぅ、大日野さん、かい?」
「?」
突然の後ろからの声掛け?
いやコッチ、これから通学で忙しいんだけど!
と、しかめっ面で振り返り、相手を確認して少し引いた。
そこに居たのは、160センチの私より更に背の低いボサボサパーマで色メガネ付けた、ピンクのアロハシャツに白短パンなオバさんが見上げてた。
うん、もう行っていいかな?
「あの、えーと?」
「あのね、遅くなったけど、先月隣りに越してきた本浄院雅子よ」
「ほ、ほんじょいん??」
「本浄院!本浄院雅子!」
「は、はい、本浄院さん、ですね?」
「そう!」
なんか、どっかのお寺関係の人かと思ったけど、身なり的には圧倒的に不審人物なオバさん。
いや、関わり合いになりたくないな。
「本当に遅くなったけど、まずはお隣さんにご挨拶と思ってね。はい、これ」
「??」
オバさんは背後の引いてきた車輪付きオレンジ色アタッシュケースを開けると、中から出したのは某さいたま銘菓な菓子箱一つ。
それをおもむろに私に差し出した。
「引っ越しの粗品よ。受け取って!」
「は、はい!?」
と、菓子にしては重量があり、思わず落としそうになる。
中身が違う?
「気おつけて!中は卑弥呼の卵が入っているから」
「ひみこ?」
「うちの名古屋コーチンな雌鶏。いつも沢山の卵を産むの。しかも有精卵だから高いのよー」
「はあ?」
いや、その前に饅頭の箱に卵並べて渡さないで欲しい。
て、コイツかよ!
いつもニワトリ鳴かせて私に睡眠不足を強いてるヤツ。
しかも有精卵だか何だか知らないけど値段の高さをアピールとか、嫌味ったらしいし引っ越しの粗品で生物を押し売りがましく渡すんじゃない!
「あ、有難う御座いま」
「あんた、子供だけで住んでるんだって」
「あ!?」
「お隣のよしみで色々後で助けになるわ」
「え?嫌です」
「まあ、遠慮しなくていいの。これも神様のおぼし召しだから。後で寄るわね」
「嫌ですから!」
「それじゃあね。今から他も回らないといけないし。アディオスよ」
コーチンオバさん、いや、ほんじょ⋯⋯どうでもいいか。
お隣の迷惑オバさんは、そう言って手を振りながらニコニコしつつ、アタッシュケースに乗って?ガラガラと先の角を曲って行った。
自走のアタッシュケース???
しかも私の言葉は通じて無かったな。
ナニ人だ、アレ?
「は?!ヤバい、遅刻の遅刻になる!急がないと」




