第22話 初めての異世界人
小屋を離れる前に引き戸から頭だけ出して辺りを見回す。
先ずは危険生物が居ないかチェック。
少なくとも近くには巨鳥の死体を引きずって持っていけるだけの生物が居るはずだ。
当然ながらその生物は肉食で私も捕食対象なのだろう。
ここで迂闊に歩き回るのは愚か者でしかない。
ヒュウ〜
風が荒地の空気を運んでくる。
乾いた比較的涼しい風だ。
ここが何処で今がどんな季節か分からないが、アリアの身体を通して感じるのは少しの肌寒さと気持ちの良い空気だろうか。
昨晩までは頭痛と倦怠感で感覚が麻痺していたのか、ここまで敏感に感じ取れるものは無かった。
だけど今だから分かる。
私の耳はかなり遠方の音も聞けるし、目もそれなりにいいと言う事。
最初に空を飛んでいた生物を見たけど、考えてみたらかなり遠くに飛んでいた。
なのに私の視界はソレが鳥とは違うと判断でき、尻尾やコウモリの様な羽根まで確認出来ていたのだ。
「この世界の人間は皆さん目も耳も良いのかしらね?メガネっ子の親友なら相当羨ましがるだろうなぁ」
まあ、あの子が羨ましいのは私自身が異世界にいる事そのものだろうけどね。
そして今異世界にいて体験してる事そのものが科学の探究に繋がるなら、いずれ未来でヒューズ2と地球の交易が現実になる事もあるのかも知れない。
遠く離れた惑星に地球の宇宙船が到達したら、もはやそれは異世界とは言わないのだろう。
「それはそうと、さっきから感じる視線は気のせいじゃないよね?」
そう。
さっきから私は視線を感じてた。
視線の元は三つ。
一つは風下の荒地から近づく二つの視線。
見ると二人分の人影がコチラに向かって来ている。
人間だろうか。
だとすると私にとっては初めての異世界人との遭遇だけど、彼ら?の視線はあまり歓迎したくない視線に感じる。
これは敵意ではないけど、明らかに私を舐め回すように見る嫌な視線。
そしてこの視線が嫌なものと感じているのは私ではない。
「アリアの身体が嫌がっている?」
もしかしてアリアの記憶が私に干渉してるのかと思ったけど、これは鳥肌のような反応に近い。
もちろんこの身体に移った時、彼女の記憶はまったく感じられなかった。
フォルトーナの蘇生で全て消失したとみるほうが正しいだろうが、それにも関わらず私に湧いてくるこの嫌な感覚。
まさに身体が覚えているのだろう。
そしてもう一つの視線は風上の森の中から感じる視線だ。
これも特に敵意はないが此方を明らかに伺っている。
だけど距離はかなりあるようだ。
「あ、何でこんな事が分かるんだろ?」
ここで素朴な疑問が浮き上がってくる。
昨日まではこんな遠方の視線など感じられず、あの巨鳥が目の前に降り立つまで気付けなかった。
なのに今は感覚が研ぎ澄まされたように感じていて、不思議にかなり遠くの状況まで把握出来る感覚がある。
「アリアの身体に私の魔力を流したから?」
もしくは魔法を行使した事による副作用か。
だとしても遠方まで把握する能力はマイナスとはならず、むしろプラスにしかならないとは思う。
どちらにせよ直近の課題は荒地から来る人影にどう対処すればの判断だろう。
それに連中はコチラを既に認識している。
そして近づいて分かったが二人とも成人した男性であり、一人はスキンヘッドの大男でもう一人はボサボサ頭の無精髭な男。
服装は古風な某映画に出てくるアウトローな感じの革のチョッキにトゲトゲの肩当て?
それとタスキみたいな革製の肩掛けを付け、腰には漫画みたいなデカい鞘の剣?を持っていた。
ザクッザクッザクッザクッザクッ
「おおい兄弟、こりゃどういうわけだ?」
「ああ兄貴、どうやら当たりだったみたいだぜ」
「当たりぃ?そりゃあ当たりだけどよ、あのガキ何で立ってられるんだ?ヤク中にして言う事聞くようになったから、さあ使おうと思ったらガキの親に奪われて親父に大目玉くらったんだ。それでガキの親達を捕まえて拷問したら、こんな辺境の町外れに埋めたって言いやがる。だけどやっぱり嘘だったなぁ。ガキはピンピンしてんじゃねーか」
「へへへ、日頃の俺達の行いのお陰だぜ。神様はちゃーんと見ていて下さる」
「おい兄弟、お前いつからそんな信心深くなったんだ?」
「俺ぁ意外と信心深いんだぜ兄貴。最近通っている宗派が良くって、そこで時より祈ってんだ」
「宗派?創造神の教会か?それとも運命の女神教の教会か?」
「いや、最近流行ってんのはアロウス教って宗派なんだ」
「なんだそりゃ?そんな宗派があったか?まあ、いいや。あまりのめり込むなよ。俺達はあくまで親父の言う事に従ってりゃあいいんだからよ」
「へへ、そうだな兄貴」
「そんな事より仕事だ。まあ、もう終わってるようなもんだがな」
男達はお互いに無駄話をしているが、目線は私をしっかりと見据えたままだ。
絶対に逃がさないと獲物を狙うハンターの目線。
どう見てもマトモな大人でないのは明らかだ。
さて、どう対処しよう?




