第19話
ザクッザクッザクッ
「う、何かグロいし生臭い。手は真っ赤だし。解体なんてした事ないけど、こんなに臭いがキツいもんなんだ?」
錆びたナイフは刃毀れしていて切れ味は最悪。
飛び散る血で私は全身真っ赤になっていた。
幸い夜空は月明かり。
トリプルムーンは地球との落差に驚きが先行したが、明らかに明るさは此方の方が上。
便利な照明だが早く処理しないと臭いで他の野生生物が集まってきそうだ。
巨鳥の解体は速やかに行わなければならない。
巨鳥を倒して数時間後、私はようやくまともに動けるようになった。
実は巨鳥を倒したあと私は再び動けなくなった。
理由は明確だと思う。
使い慣れない強力な魔法を使ったのだ。
いわゆるガス欠というヤツだろう。
つまり私はあれから数時間、完全に未動き出来ない状態となっていたわけだ。
よく他の野生動物に襲われ無かったと安堵してるが、結局動けるようになったのは日が沈んで暫く経ってからの事だった。
ボボボボッ
パチパチッ
野生動物は火を怖がる。
地球の常識が通用すればいいのだが、何もしないよりましだ。
火起こしは大変だったが何とか種火作りに無事成功。
出来るだけ燃えそうな物(木片とか)を集めて焚き火を作った。
これで暖も取れて一息だ。
正直、夜間の気温は下っている。
体感はマイナスではないが一桁な気がする。
焚き火が無ければ多分厳しい。
この辺りの季節は分からないが、昼間は過ごしやすい気温だったから春か秋、なんだろうか?
その辺もこれからの情報収集が必要と考える。
巨鳥の解体には幸いにも小屋の洗い場に放置されたナイフがあった。
錆び付いていたが、それを使い巨鳥の解体を始めた。
だけど正直解体に手こずっている。
義弟達との生活は私の料理技術向上に一役買っていたが、基礎は桜母さんの指導の賜物。
だけど巨鳥の解体は魚の三枚おろしや肉の筋取りレベルで出来るものでは無く、目の前の有様に私の溜息は尽きない。
「解体地獄かな、終わる気がしない。とにかくまた動けなくなる前にタンパク質の摂取だわ」
ジュウジュウジュウジュウッ
一部先行して巨鳥の肉を串に刺し、焚き火に晒して焼いていた。
それを手に取り口に持っていく。
「ぶふぅ!?アツっ、ふーっふーっふ〜っ」
あまりの臭さに味が分かる状態じゃないが、ここは無理をしても食べておきたい。
蘇生して私が入ってからだが、アリアの身体はまだ食事を取ってはいない。
だからこの際、ちゃんと食事をするのは私の義務だ。
巨鳥を倒せたのは不幸中の幸いだが、棚ぼたでそれが食料となった。
ここで食事をしない選択肢は無かった。
「ばくっむしゃっ、モグモグ?モグモグモグモグモグモグ」
んん?
これは⋯⋯⋯
「モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ⋯⋯⋯⋯」
純粋に鶏肉をイメージしてたけど、肉が固くて噛み切れない?
アリアの顎が弱いのかな。
いや、そうじゃない。
「何だろう、これは噛み切れないガムか何か?この鳥って?!」
油も出ないし味も無味。
臭さだけが印象な巨鳥の肉は私の想像の遥か先にあった。
噛んでも噛んでも噛み切れないし、無駄にある弾力は私の、アリアの顎力を著しく衰退させる。
なんてフザケた鳥なんだ!?
「臭くて美味しくないし食べるのに疲れる。使いもんにならない巨鳥だわ!」
コレだけの大きさなのにマトモに食べるのが大変とか、九死に一生を得て私が貰えたのはマトモに食えもしない産廃だったというオチ。
最悪だ。
「ヤバい、また眠くなってきた。もう解体は諦めたし小屋に入ってれば身は守れるでしょ。はあ、もう寝るしかないわね」
こうして巨鳥の解体を途中で投げ出した私。
明日は穴でも掘って巨鳥を埋めようと思いつつ、干し草?が敷き詰められたベッドの様な場所に身体をよこたえて眠りにつく。
あっという間に深い眠りについた私は、結局翌朝までまったく起きる事は無かった。
(『駄目だわ、私はヒューズ2から完全に隔離されている!これは間違いなく邪神アロウスの仕業に違いない。ついに私の領域にまで邪神の支配が進行してしまった!不味いわ。この事を天音さんに伝える前に彼女とのリンクも切られてしまった。まだ彼女の存在は邪神に知られてはいないけど、このままでは天音さんの命が危ない。くっ、どうすればいいの?!あ?そうだ!彼女を手助け出来る存在を呼ぶのはどうかしら。ならば僅かに邪神から逃れ生き延びた、彼らに頼むとしましょう。天音さん、こんな事になったのを許して下さい。そしてどうかお願いします。過酷な運命から生き延びて、そして彼らを頼みます。どうか《運命の時》に間に合わせられますよう⋯⋯⋯⋯』)




