第14話 子供の姿で異世界スタート
ガザッ
「ん⋯⋯⋯⋯⋯ここは⋯⋯⋯?」
目覚めると辺りは森の中。
そして振り返り目に映ったのは、見るからにボロボロなあばら家が一軒?
話には聞いてたけど今日からここが、私の第二の家。
第二の家?別荘とも言えるのかな。
でもそれはレジャーでいうところの別荘ではなく、私が請け負った救世主の活動を、支える拠点となりうる場所になるという意味なんだろう。
「それにしても身体が圧迫されてる感覚と拘束されてるみたいに動かし辛い。私の身体って今、どうなってるん??」
などと思い自身の身体に目を向けると、やたらに何故だか地面が近い。
どういう事?
「って、手がやたらに小さくないか?おまけに全身がドロドロだ。まるでさっきまで土に埋もれていたような⋯⋯⋯?」
と、目線を先の地面に向ければ、先ほどまで居たと思われる場所に開いた小さい穴。
そのすぐ側には、見たことの無い文字が彫られた木片が一つ穴の先に立っていた。
「⋯⋯⋯最愛の⋯⋯アリア、ここに眠る?あれ?!私、何でこんなミミズが這ったような文字が読めんだろ??いや、それよりコレって」
ああ、そうでなくとも明らかだ。
これは間違いなく墓標に書かれた一人分の墓碑銘。
おそらく私のこの身体に宛てた、家族が彫った最後の言葉。
ぐっ
「そっか。アリアちゃんって言うんだね。その名前、大事に使わせて貰うよ」
手を握り締めグーパーする。
落ちた前髪を上げて辺りを見回し、身体に付いてる泥を落とす。
着てる服は頭と手を袋みたいな布から出した貫頭衣ってヤツか?
麻みたいにザラつく服だが、付いた泥は簡単に落とせた。
見かけによらず機能的といえるかも。
そして今だから女神が言った言葉を理解した。
たしかに痛覚0だと感覚も無い。
そしたら手足を動かしてる感覚すら掴めない。
つまり痛覚十分の一はそういう事。
「はあ、だけど聞いて無いよ。こんなゾンビみたいに墓から出て、しかも子供の身体なんてー?」
アバターと聞いて普通はゲームの様に私専用の身体をフォルトーナが新しく構築すると思ってたけど、これどう考えても現地の人、それも死んだばかりの子供の身体に乗り移ってない?
聞いてないんだけど?!
ヒュウッ
「⋯⋯⋯!」
頬に風が当たる。
乾いた風は遠方から木々や大地の匂い、他の様々な音を運んでくる。
この感覚も感触も、嗅覚も視界も全てが自身のものだと実感する。
私は確実に、この場所に生きている。
さわっ
「耳がデカい!?コッチの人種って事、だよね?音がよく聞こえるのはこの耳のせい?だけど匂いとかにも敏感な気がするけど⋯⋯それに髪の色が水色って、どんだけ人はカラフルなんだ?」
前に見た女神の現地映像では、髪の毛の色はこちらと変わらず普通だった。
茶色が主流で金髪と稀に銀髪が混じる程度。
赤髪の人もいたか。
黒髪はいなかったと思う。
そして肌の色は浅黒い方が多く、稀に白い肌の色の人がいるとか。
あと瞳の色は黒や茶色、青色とかだったかな?
「って、この子、肌の色も白いし瞳の色は分からないけど結構この世界で目立つのでは?」
あ、後天的なものも考えられるか。
女神の力で蘇り与えられた命と、私の魂が憑依した事で変わった部分があるとか?
後で女神に聞いてみよう。
ビュゥッ
「!」
ガザガザガザガザッ
ギャアッギャアッギャアッギャアギャアッ
ザーザーザーザーッ
風が異世界の音を運んでくる。
風から聞き取ったその音に、音の方角に目をやれば、今は地平線に沈む夕暮れ時。
遥か彼方まで見通せる大パノラマに私は思わず息を呑む。
「⋯⋯⋯⋯凄い⋯⋯⋯⋯これが異世界⋯⋯」
ここは上がって少しの高台。
私の予定住居なアバラ家は見通しの良い高台に建てられていたようだ。
後ろは山の山頂に向け深い森が広がる山岳地帯。目線の下はなだらかな坂道の先、木々がまばらに茂るだけの開けた平原が私の視界に飛び込んでくる。
地球に似た風景を探したら、昔の西部劇の舞台に近いような何もない荒野だろうか。
遠くに見えるのは垂直に切り立った岩山?
サボテンは無いけれど代わりにあるのは、変に幹だけ太い木々が点在する何も無い荒地。
それが地平の彼方まで続く広大なバックグラウンドとなり、無限に感じる奥行きを感じさせてくれている。
そして風は匂いと共に音と、様々な情報を齎してくれる。
耳を澄ませば流れ落ちる水音は滝の音だろうか?
後方から聞こえるのは沢山の木々が揺れ動く音と見知らぬ動物の鳴き声だ。
だけどああ、なんて気持ちいいんだろう。
これが異世界、ヒューズ2の景色!
目に入る夕暮れの色は余りに多色で、とても綺麗でスマホが欲しくなる。
たまに雲を横切る鳥のような生き物は、よく見たらコウモリの羽根に長い尻尾?
うん、明らかに鳥には見えないよね。
つまり私は間違いなく異世界にいるんだ!
「と、眺めて感動ばかりもしてられないな。辺りはサンセットで気温が下がってきた様だし、先ずは生活圏の確保が先だよね」
そして側のアバラ家に入り、色々と中を物色して状態を確認した。
アバラ家自体は木造の小屋で、放棄されてから久しいのか人が生活していた気配は感じられない。
でも多少の隙間はあれど夜露は凌げるだけのポテンシャルは残っていて、炊事場も昔ながらの火起こし必要なカマドタイプ。
うん、今夜はキャンプファイヤーだな。
季節があるなら今は晩秋といったところ。
炊事場に樹の実の殻の様なものがあったから、栗とか胡桃のような実が取れるのかも知れない。
案外生活には事欠かないかも?
ガララッ
「汚れてるけど、ちょっとした鍋や皿もある?あ、流石に水道は無いらしい」
流し台のような設備はあるけど、排水だけで水が出るような蛇口は無い。
すぐ側に桶があるから、井戸から水を汲んでいるのだろう。
予備知識で日本の明治時代に近い文明レベルと聞いていた。
だから炊事場設備に期待は無かったけど、想像した通り過ぎて色々と不便だ。
「取り敢えず住み易くして拠点としの生活を充実させよう。先ずは寝床を確保し身体を休ませ一旦地球に戻ろうか」
そう。
これが救世主を請け負う条件として私が女神に提示し頼んだ事。
《好きなタイミングで地球の身体とアバターの間を行き来出来る。その際、魂が離れてる側の時間経過は発生しないものとする》
つまり、どのタイミングからも元の身体に戻る事が出来るし、魂が離れている側は異世界と現実世界の双方とも時間は殆ど経過しないとしたのだ。
まあ、実際は経過しないでは無く、双方ともに戻れる時間を離れた時点に戻っているだけ。
僅かに数秒の誤差は出るが緊急事態でない限り、現実世界への影響は僅かだろう。
これは運命と時間を司る女神フォルトーナだからこそ出来た事。
本当に私は良い事を思い付いたと思う。
この条件を提案した時、女神の口は暫く開いたままフリーズしてしまった。
驚きを隠せなかったようで、ちょっと申し訳なく感じてる。
でも異世界が救われるなら安いもの。
これなら安全にアバターも管理できて、結構楽勝ゲームじゃないだろか。
「だけどアバターが死んだ子供の身体とか、私の身体、本当にゾンビじゃないよね?」
『違いますよ!』
「わ、わわ!??」
と独り言ボヤいでたら、いきなりの女神の声?
ちょっと?突然声かけないでよ!




