第10話
キーンコーンカーンコーン
◆職員室PM3時
バンッ
「山田先生!」
「天音、来たか。扉は静かに開ける、だ」
「授業4時限目、急な職員室への呼び出しに歴史の木藤が怒ってましたよ」
「仕方ないだろう。お前、3時半には帰るじゃないか」
「チビ達の迎えっす。絶対なんで」
「分かった、分かった。だから今呼び出したんだ。ちょっとそこに座れ」
「すぐに解放して下さいよ。私は忙しいんで」
ガタンッ
今日は担任の山田先生に授業途中で職員室に呼び出された。
はあ、これからチビ達の迎えで保育園バス到着時間に間に合わせなくっちゃならないのに、マジ勘弁だわ。
「今日呼び出したのは、お前の進路の事だ。お前、何も決めてないからな」
「決めてますよ。高卒でパート、もう確定」
「具体的に言うな!はあ、お前な、先日に奨学金の審査に受かっただろう?この名門校で奨学金に手が届くのは偏差値72以上の優秀なヤツなだけだ。それが進学諦めてパート狙いとか、あり得ないんだぞ」
「じゃあ、前例作っちゃいますね」
「たから悩んでんだよ!お前の奨学金を申請したのは俺だ。当然ながら俺にはお前の将来にも責任があるんだ」
「申し訳ないでござりまする」
「変な日本語使うな!はあ、あのなぁ、学校としてもお前には期待してるって事なんだぞ?昨年度の学年1位。オマケに全科目が全国模試でもトップだ。これがどういう事か分かるか?お前の偏差値の実際は75以上!こんな学生は当校始まって以来なんだよ」
「まあ、ご愁傷さまです」
「くっそう、俺がどんな気持ちでいるか分かってるクセにその反応、勘弁してくれ」
「あ、もうそろそろ時間です。帰りますんで」
ガタッ
「天音、俺は諦めないからな!」
「へいへい」
さて、担任を軽くいなして教室に向かい、学生カバン担いて颯爽と引き上げる。
物言いたげな学友達を尻目に、立つ鳥跡を濁さずがベスト。
残念だけど今日はタイムリミットだわ。
❇❇❇❇
バーンッ
「はい、家に到着!ヤバかった。あと15分でバスが到着じゃん。とにかく身だしなみ整えて、一応チビ達のお姉さんだからな」
うん、思わずの達成感にバックを2階の自室に投げ、ベッドに飛び込んで伸びをした。
それで側にある姿見に写った自分のヨレヨレ学生服とバラバラ髪の毛に驚き今更慌ててる私。
保育園の先生には家庭がちゃんとしてるって振る舞う必要がある。
だから変な格好は見せられない。
ガラッ
「ん?」
今、玄関の引き戸の音がしたような⋯⋯?
気のせいか。
まだバスは到着してない時間だもんね。
取り敢えず学生服を脱いで、普段着をタンスから取り出す。
と、目に入る片隅に無造作に山になった衣類。
はあ、洗濯物も溜まってますわ。
チビ達のを優先して自分の洗濯物を溜め込んだ結果がこの山だ。
こりゃあ一度ちゃんとしないと駄目だな。
それで無精に下着のまま、溜まった衣類抱えて洗濯機のある脱衣所に持っていく。
視界が無いけど知った家の中。
足元だけ見てれば問題無し。
バサッ
「ふう、洗濯物は定期的に洗う習慣が必要だな」
脱衣所に辿り着いて、洗濯籠に洗濯物を投げ入れた。
バス到着まであと十分。
早く支度しないと。
ぎゅうっ
「つかまえたぁ」
「!!???」
な、何!?
突然、男の声がして背後から覆いかぶされた!
そのまま勢いで床に倒される。
ここは自宅奥の脱衣所のはずで、男が居る理由が分からない!
「だ、誰よ、放して!!」
「たあーっ、ボクから逃げても無駄だよ。もう絶対に放さないんだからさぁ」ぎゅぎゅっ
「く、苦し?!」
男?は私の腹に回した腕で強くガッチリと腕ロックしてる。
それが腹を圧迫して呼吸が苦しく、その為に叫びたいけど声が出づらい!
これ、真っ昼間から襲われてる?
ヤバい、何とかしないと!!
「だ、誰か、たす」
バチンッ
「あが!?」
な、何?
身体が痺れて更に声が出ない。
そして前のめりに、うつ伏せのまま放されたけど身体がまともに動かなくて立ち上がれない?!
何で!
バチバチバチバチッ
「ふふう、スタンガンって知ってる?もちろん知ってるよねぇ」
くそっ
やられた。
しかもチラ見でみた背後の男は覆面を被ってる。
だけどこの声!
「て、店長!」
「おや?なんだ、バレてんじゃん。まあ、いいけどね」ぐっ
「あ、止め」
「ご丁寧に下着になってくれてたんだ。これはボクを誘ってるって事でいいよね」
店長が私のパンツに手をかける。
ちきしょう。
こんなヤツに身体を奪われるのか。
これが運命ならあんまりだ。
桜母さん、ゴメン。
さすがにこれはポジティブではいられないよ。
「犯ったらちゃんと証拠写真撮ってあげるよ。そしてネットにばら撒く。それは嫌だよね?嫌ならボクの奴隷として定期的に会う事だ。いいね、天音ちゃん?」
「た、例え、そうなっても、わ、たしは、アンタ、の、自由には、ならない、か、ら」
「あ?ほざいてんじゃねーよ、このガキが!」
ぐぎゅうっ
「あぐぅっ!?」
バタバタバタバタッ
「あ、あ、あ、ああ」
「くそう?暴れるなぁ!!」
ぎゅぎゅうっ
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯っ!」
その途端だった。
逆上した店長は私の首を絞めてきた。
う、意識が飛びそう。
私、死ぬの?
私が死んだらチビ達を誰が守るんだ?
し、死ねない。
このまま死ぬなんて絶対に嫌だ!!
誰か!
キーン
⋯⋯⋯どこまでも真っ白い空間⋯⋯⋯⋯⋯。
そうか私、死んだのかな?
死にたくなかったのに。
チビ達はどうなるんだ?
ああ、もう、お終い⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
『いやですよぅ、天音さん。死ぬわけがないじゃないですか』
「ぶっ?!アンタ、夢に出た異世界の女神?」
『天音さん、酷いです。せっかく約束を守ったのに未だお返事頂けないなんて。それに異世界の女神じゃなくて、フォルトーナが名前ですよ!』
「約束を守った?」
『そうです。天音さんの望みにそって、ちゃんとご用意したんですよ。それなのに天音さん、それをゴミ箱に捨てるなんて、私の努力をどうしてくれるんですか』
「ゴミ箱⋯⋯?」
『ほら、ちゃんと手を回して天音さんの住まう土地神様にもご理解頂き、あっちこっちの神様にお願いして天音さんに運を引き寄せたんです。それにしても何なんですか、この日本って国は!本当に神様が沢山いて説得が大変だったのに、その私の努力をゴミ箱に捨てるとか信じられません!』
「ちょっ?ちょっと待ってよ?私の望みを用意した?」
『ええ、そうです。天音さんの望み、天音さんと義弟達が一生困らないだけのお金と信頼出来る大人を用意、ご自身の望みなのに忘れちゃったんですか?』
「ええ!?まさか本当に用意したの?ゴミ箱って、あ…⋯あの店長の宝くじ?」
『そうです。しっかりと一等が当たりです』
「一等!?」
『はあ、あとは目覚めてから確認して下さい。ほら、もうすぐ目覚めますからね。確認できたら、必ず私の願いも叶えて下さいねー』
「願いって?!あ?」
『ふう、今回は大出血サービスです。だから天音さん⋯⋯⋯どうか⋯⋯⋯私の願い⋯⋯を』
そして、どんどん姿が薄くなる女神さん。
これは私が覚醒してる?
『ゴゲゴッゴーッ!』バサバサバサッ
「うわっ、な、何だ、このニワトリは?!」
「それ、大谷ホームランだよ!」
ガコンッ
「ぐべっ?!」
「⋯⋯⋯!???」
ドタッ
「ヘルナンデス、よくやったよ。あらまぁ?金属バットが曲がっちまったよ。硬い頭だねぇ」
『ゴゲゴッゴ、ゴケゴケーッ』
その刹那、私に股がっていた店長が勢いよく吹き飛んだ。
突然の事に頭が回らない。
何が起きたの?!
「げほっげほっげほっげほっ?!」
「危ないところだったねぇ。まさか変質者が真っ昼間に襲ってくるなんて、まったく世も末だよ」
「!!」
そこに立っていたのは、あのアロハシャツなコーチンおばさん、じゃなく、お寺みたいなみよじのお隣のおばさんだった。




