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第九話 勝利の宴と王の予言

「いや〜、本当にめでたい! 領土も民も姉さんも戻って、あの鳳凰軍を撃退しちゃったんだからさ!」

「はい! これもひとえに白虎王のご威光かと存じます!」

「キャー、白虎ちゃんったら素敵ーーー!!」


「……」

「……」

「……」


 呆れて物も言えないとは、まさにこのことだ。鳳凰軍を退けてから早三日。竜王国の使者一行は、朝から晩まで同じ光景を見せられている。


「おい、俺達……何の為にここに来たんだ、これ」


 琉龍が、遠い目で呟いた。


「母上からの書状を渡して、ご馳走を食べるため……」

「『玉龍の核』の情報と、両親の仇を突き止めるためだ」


 はぁ、と三人同時にため息が漏れる。


 鳳凰軍に勝利した喜びが爆発したのか、白虎国は三日三晩の狂乱祭りの最中だった。救国の英雄として祭り上げられた蘭鈴たちは、完全に帰るタイミングを失っていた。


 瑰がおもむろに立ち上がり、上機嫌な王のもとへ赴く。



「なあ、白虎様……」

「なあに、瑰くん♪ ボクらの仲だ、白虎って呼んでよ」

「じゃあ白虎。俺たち、そろそろ帰ろうと思うんだけど」

「ええーーー!? まだ三日しか遊んでないじゃないか!」


 実は、このやり取りも三度目だ。ここは『NOと言える男』をアピールせねばなるまい。


「うちの蘭鈴(お嬢様)が飽きてきたみたいでさ。その、食べ物とか……」


 瑰がチラリと視線を向けると、お姫様こと蘭鈴は怪我の回復も早々に、琉龍と並んで「出された料理をすべて平らげないと帰れない」という苦行のようなシステムに挑んでいた。


 ようやく一息ついた蘭鈴の前に、瑞々しい桃が運ばれてくる。


「次は肉じゃないのか?」

「……白虎国の桃、なかなか美味じゃないか」


 蘭鈴と琉龍は顔を見合わせ、幸せそうに桃を頬張り始めた。


「瑰くん? ボクには飽きてるようには見えないけど?」


(ら、らんれーーーーい!! なぜ協力してくれないんだ!!)


 瑰は必死で弁明した。


「い、いや! 料理番に気を使ってるんだよ! 優しい子だから!」

「ふ〜ん。それにしても瑰くんも大変だね。女の子二人を連れて、強い女の子たちに守られる気分ってどんな感じ?」


 白虎は蒼氷色の瞳をキラキラさせて問う。


「……お前、本気で言ってるのか? 琉龍は男だぞ」

「えぇ? そうなの? 綺麗な人だったからてっきり――」

「その話、本人には絶対振るなよ!? あいつマジで怒るからな!」

「あはは。三日間振り続けてるけど無視されちゃってさ。寂しいな〜♪」


 ニコニコと笑う王に、瑰は戦慄した。この男、分かっていてわざと琉龍を弄っている。


(……実は、相当食わせ者なんだな、この王様……)


✕✕✕


 翌日。ハチャメチャな喧騒が嘘のように、城は静けさを取り戻していた。


 王の間に呼び出された三人は、玉座に座る白虎の変貌ぶりに目を丸くする。そこにいたのは、節度をわきまえた、一国の「主」であった。


「改めて、姉・赤虎を救い、鳳凰軍を退けてくれたこと、感謝する。竜王国にはこれまで以上の便宜を図ると、珱珠に伝えてくれ」


 瑰が王子として威厳をもって頷く。そして、白虎の視線が蘭鈴を捉えた。


「蘭鈴。君の問いに応えよう。……『玉龍の核』の正確な場所はボクも知らない。だが、おそらく『鳳凰の国』にある」


 白虎は静かに、かつ断定的に語り始めた。


「『玉龍の核』は『竜蝶の血』と対だ。血がなければただの石だが、一度血を注げば絶大な力となる。……鳳凰が君を探し回っているのは、すでに手元に『玉龍の核』があるからだろうね」


 五百年前の大戦で世界を支配した鳳凰国。彼らは龍蝶の一族を蹂躙し、絶滅させたはずだった。


「生き残りがいると知れれば、各国が君を奪い合う戦争へ逆戻りだ。十一年前、竜王国を覆っていた結界が消えたのも、鳳凰国が『核』を奪い、竜蝶の守護を断ち切ったからだろう」


 圧倒的な分析。蘭鈴は拳を握り締めた。

それは怒りではなく――期待を砕かれた悔しさだった。


「……なら、オレは鳳凰の国に行く。そこへ行って、全部奪い返してくる」

「ははは! 君は本当に面白い娘だね、蘭鈴。でも、やめておきな。鳳凰国はこの世界の支配者だ。狂烏のような軍団長クラスは他にもいるし、奴はその中でも最弱の力自慢に過ぎない」


 蘭鈴は反論できなかった。あの狂烏との戦いで、自分がいかに無力だったかを痛感していたからだ。


「そこで提案だ。次は『玄武国』へ行くといい。唯一の中立国であり、強大な守護の力を持つ。ボクの紹介状があれば、玄武王も会わざるを得ない」


 中立国であれば、鳳凰国との繋がりもあるはずだ。少なくとも竜王国からの紹介よりは白虎国から紹介して貰った方が相手も蔑ろにできないだろう。


 蘭鈴たちは、その提案を謹んで受け入れることにした。

 

✕✕✕


 その日の午後。別れの時。


 瑰は母への報告のため、一度竜王国へ。蘭鈴もまた、より強くなることを誓い、力を鍛え直すと決めていた。


「またね、瑰くん。蘭鈴、次に会う時はボクの正室になる気になってるといいな♪」

「……断る」


 来た時よりも少し豪華になった馬車が走り出す。


 蘭鈴は窓の外、遠く離れた鳳凰国の方角を睨んでいた。


「必ず……強くなって、すべてを暴いてやる」


 その隣で、琉龍は静かに窓の外を見つめる。狂烏を一瞬で屠ったあの“黒い影”の気配。


 それは不吉な予兆のように、一行の背後へ消えない影を落としていた。

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