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第三十二話 故郷の再訪

 龍脈門の中は、不思議な空間だった。

 右も左も、上も下も分からなくなるような黄金色の輝きが延々と広がっている。


「ここが『龍脈門』の中か……。時間が止まっているのか、猛スピードで動いているのか、感覚がおかしくなりそうだぜ」


 瑰が不安げな声を上げると、稜も「不思議な場所だね」と目を細める。


「どうやら目的地まで自動で運んでくれるわけではないらしいな。……ということで、琉龍! いい加減に降ろせ!」


 蘭鈴が再度催促するが、琉龍は腕の中の主人を離そうとしない。


「いや、この空間で散り散りになるのが一番怖い。しばらくはこのままでいるのが最善だ」


「瑰や稜はどうなるんだよ!」


「蘭鈴ちゃん、僕こう見えても魔族だから大丈夫! 王子が心配なら、僕が手を繋いであげるよ。初回無料のサービスでね。……どーしてもお姫様抱っこがいいなら報酬次第でしてあげる! 本当は琉龍以外の人とそんな破廉恥なことしたくないけど、王子だから特別だよ!」


「お姫様抱っこって破廉恥な行為だったのか!? おい琉龍、聞こえたか! 降ろせ!」


 どこまでも商人気質な稜の援護射撃(?)も虚しく、琉龍は「怪しい会話をしてる暇があったら歩くぞ」とツッコミを入れ、先を急いだ。

  

 そんな中、黄金の光の中にひときわ煌めく「青い光」がチラつき始める。


✕✕✕


 龍国、黄龍の社。

 

「……捉えた!」

 

 刻龍が墨色の瞳を妖しく光らせ、時空を捻じ曲げる詠唱を終えた瞬間、黄金の奔流が群青色の魔力と衝突した。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


 光の渦から絶叫と共に影が投げ出される。


「……次代の黄龍様は、随分と元気系だな」

「知らん」


 刻龍の冗談を清龍が冷たく切り捨てた直後、靄の中から四つの影が姿を現した。真っ先に無傷で着地したのは、蘭鈴を抱えたままの琉龍だ。


「……着いた、のか?」

「王子! 今回は初回無料だけど、次回からは要相談だからね♡」

「あ、はい……。ありがとうございます……」


 着地の衝撃で尻餅をついた瑰に、稜がちゃっかりと釘を刺す。その声を聞いた瞬間、刻龍の顔色が変わった。


「清龍……! アイツだ、稜がいる!!」

「…………稜…………」


 清龍の声が、微かに震える。振り返った稜は、幼き日に別れた恩人たちの姿を見つけ、弾かれたように走り出した。


「清龍! 刻龍!」


 三人は言葉もなく、ただ互いを強く抱きしめ合った。五百年という空白が、一瞬で埋まっていく。


 ――だが、感動の再会は一瞬だった。


「稜、その魔力……」

「そのことについては俺から説明する――」


 蘭鈴に急かされ、しぶしぶお姫様抱っこを解いた琉龍。

 背中を押され、稜の後を追った。


 琉龍は懐から簪を取り出した。

 女官服の切れ端に包まれたそれは、禍々しい鳳凰のオーラを放っている。


「玄武王が稜の鳳凰の魔力を封じた簪だ。こいつを解明して、鳳凰国への道筋を探ってほしい」

 

「なるほどな。しばらくは退屈せずに済みそうだ」

 

「それと、稜の身体が無事かどうかを診てほしい」

 

「分かった。稜は俺が診よう。魔力が関係しているのなら、清龍より俺の方が適任だ」

 

 刻龍はニカッと口を大きく開けて笑った。

 

「助かる」

 

 琉龍は深く頭を下げた。


 清龍が簪を受け取り、鋭い視線を瑰へと向けた。


「ところで、あの人間は何だ? 次代の黄龍様にしては魔力が薄すぎるが」

  

「次代の黄龍様……? 何を言ってるんだ? あの人間は竜王 瑰というただの人間だぞ――」

 

「ほお……」

 


 清龍は一歩、また一歩と蘭鈴と瑰に近づいていく。それに気づいた蘭鈴が、彼の前に立った。

 

 蘭鈴の存在を確認すると、清龍は浅葱色の視線で瑰を射抜く。

 瑰は知らず知らずのうちに拳を握りしめていた。

  

「蘭鈴、あの人間が龍脈門のカギを開けたのか……?」 

「せ、清龍……。龍脈門を起動させたのは琉龍と稜の魔力だ。……そして、宝珠に触ったのはオレだ……」 


 清龍は蘭鈴を一瞥すると、不躾にクイッと顎を持ち上げた。その光景に琉龍と瑰が戦慄する。


(――以前と、魔力の質が変わったか?)

 

「清龍め、琉龍をからかってやがる……」


 刻龍が面白そうに呟く中、清龍は目を見開き、そして狂おしげな笑みを浮かべた。


「そうか! お前が『カギ』だったか! ……愉快だ! ああ、実に……愉快だ!」

 

「せい、りゅう……?」

 

「おい刻龍! 私もしばらくここに滞在する。部屋は以前の場所を使うぞ。……そして琉龍、お前の主人、しばらく借りるぞ!」

 

「は? ちょっと待て、どういうことだ!」

 

「この女の血を――憎き龍蝶の血を解明してやる! 安心しろ、殺しはしない。同じ屋根の下にいるのだから、会えないわけでもないだろう!」


 清龍は蘭鈴の手を掴むと、問答無用で研究室へと連行し始めた。蘭鈴はカツカツと歩かされながら、「瑰! 稜! 琉龍! また後でな――!」と、抗うのを諦めて運命を受け入れた顔で手を振った。


 嵐のような二人が去り、秘密の部屋に静寂が戻る。


「まったく、清龍の変なスイッチが入っちゃったか。まあいいや」


 刻龍はポリポリと頭を掻き、呆然としている瑰の前に立った。


「竜王 瑰くん。俺は刻龍、よろしくね。あ、俺たちに敬語は不要だよ」


「あ、ああ……。よろしくお願いします……」


 深々と頭を下げる瑰に、琉龍もバツが悪そうに頬を掻く。


「清龍の暴走はいつものことだ。蘭鈴ちゃんは……まあ、丈夫だから大丈夫だろう」


 感動の再会よりも先に、清龍による「強制連行」で幕を開けた龍国生活。


 主を奪われた琉龍と、圧倒的な魔人たちの空気に飲まれた瑰は、刻龍に案内されるまま、それぞれの部屋へと向かうのであった。

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