第九章:屈辱的な初夜
カインは、部下たちが決して立ち入らないよう、完全に人払いをした。彼は、泥にまみれ、疲弊しきったルクレツィアを抱き上げたまま、簡素な私室へ入り、扉を閉めた。
寝台に降ろされたルクレツィアは、暗闇の中で状況を理解した。この男が、戦略ではなく激情のために自分を呼び戻し、今、その激情を押し付けようとしている。
彼女の最後の抵抗は、無力な後ずさりという形を取った。
「カイン……何を、お考えなの……」
「考えることなど、一つしかない」
カインは、照明をつけぬまま、寝台に乗り上げた。軋む寝台の音は、彼女の逃げ場がないことを告げていた。
彼はルクレツィアの逃げ道を塞ぎ、言葉もなく彼女ににじり寄った。そして、寝台の隅に追い詰められたルクレツィアの後頭部に手を当て、噛みつくように荒々しく口付けた。
泥と旅の埃にまみれた乾いた唇。カインの熱い舌が強引に彼女の口腔内に入り込み、貪るように蹂躙する。派手な水音を立てて、奪い尽くすような口付けが執拗に繰り返された。
ルクレツィアは抵抗の力を失い、その口付けの中で、屈辱の涙を流した。それは、地位を失ったことへの悔しさであり、カインの支配的な力に、自分の意志が完全に敗北したことへの絶望だった。
口付けが終わり、カインは荒い呼吸のまま、ルクレツィアの耳元に囁いた。
「あなたは今、この夜が屈辱以外の何物でもないと思っている。そうだろう、ルクレツィア。休息も清めもなしに、俺に道具として扱われているのだから」
彼の声には、自嘲にも似た苦さが滲んでいた。
「だが、思い出せ。貴女は俺に貞節を守ると言った。その貞節も、俺の支配下に置かせていただく。俺は、貴女の理性を嫉妬で破壊した。そして今、貴女の最後の矜持を、俺の劣情で奪う」
カインは、床に散乱した彼女の引き裂かれた旅装を無視し、傍にあったタオルを取り、冷徹な手つきでルクレツィアの体を拭い始めた。
「俺は貴女に最高の支配を与える義務がある。貴女の体は、今夜、二度と王太子の手の届かない場所に、永遠に俺だけの印を刻まれる」
その行為は、支配的な配慮と所有欲の表明だった。
ルクレツィアは、カインの手つきが手慣れていることを察し、さらなる屈辱に身を硬くした。彼は、騎士時代から彼女の知らない顔を持っていたのだ。
騎士である節くれだった手がルクレツィアの白い肌を組まなく撫でていく。首筋から胸、腰のくびれに熱い熱が伝わってくる。
「……あ、んっ……!」
誰も触れたことのない最も敏感な場所に触れられ、ルクレツィアの口から甘い声が漏れた。
その様子にカインは小さく息を吐き、豊かな白い胸に唇を寄せ、吸い付く。
カインは、ルクレツィアの処女を奪う直前、彼女の耳元に、甘い囁きを落とした。
「貴女は、俺が理性ではなく私情で動いたことに、心底満足しているのだろう? 貴女の執着が、俺の魂を支配したのだと。結構だ。その優越感を抱いたまま、俺の激情に溺れるといい」
その言葉は、ルクレツィアのプライドを粉々に砕き、同時に魂の渇望を満たした。
彼女の抵抗は、やがて泣き濡れた快楽へと変わり、カインの独占的な激情の中で、悪役令嬢としての地位を完全に失ったルクレツィアの魂は、歪んだ形で安息を見出した。
この夜、カインはルクレツィアの全てを手に入れた。しかし、その逆もまた然り。二人は、支配者と被支配者から、互いの闇を肯定し合う「共犯者」へと変貌したのだった。
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本作は明日で完結となりますが、2月10日からはまた別の『執着』の形を描く新作が始まります。
新作タイトル『「君を愛してる」と脅されても、もうすぐエンディングなので全力で応援します! ~悪役令嬢ですが、ヒロインと婚約者様が結ばれるのを待ってるんですが?~』
本作と合わせ、新作もよろしくお願いします!!




