第十章(エピローグ):歪んだ愛の王国
それから二年後。
辺境はもはや、「王国の見放された地」ではなかった。カイン・シュライバーが築き上げた闇の勢力圏は、王都の貴族階級にすら無視できない強大な力となり、新しい公国として王国を脅かしていた。
王都は、依然としてルクレツィアの「狂気の静養」を信じている。誰も、かつての悪役令嬢が、この辺境の地で、無冠の支配者カインの「女王」として君臨しているなど、想像すらしない。
ルクレツィアは、カインの唯一の相談役であり、最も信頼できる参謀として、その傍らにいた。
彼女の体からは、かつての公爵令嬢の華美な優雅さは消えていたが、代わりに支配者の伴侶としての、冷徹で鋭い威厳を放っていた。彼女の紫紺の瞳は、カインの鉄色の瞳と並び、王国の未来を嘲笑うように見つめている。
「マルケス・グレイフ公爵は、予想通り王太子の後ろ盾となったわ。カイン。これで、王都の貴族勢力図は、あなたの思惑通りに二分された」
ルクレツィアは、カインの執務室の窓辺で、紅茶を飲みながら報告した。その口調は、かつての傲慢な令嬢のそれだが、そこに屈辱の色はなく、共犯者としての冷たい満足感があった。
「優秀だ、ルクレツィア。貴女の献身は、王太子に捧げたものよりも、遥かに私の利益となっている」
カインは、ルクレツィアの腰を引き寄せ、彼女の首筋に顔を埋めた。
「あの夜、貴女は全てを失った。その代わりに、私の支配の全てを手に入れた。貴女の狂気を信じ、貴女を追放したこの王国を、二人で完全に支配しよう」
「ええ、カイン」
ルクレツィアは、かつて野宿で汚れた体で受け入れた男の抱擁に、深く身を沈めた。
「わたくしの悪役としてのプライドは、王太子妃の地位など望んでいない。真の望みは、あなたの支配下で、王国を内側から破壊し、新しい闇の王国を築くことよ」
彼女が求めるものは、カインの愛ではない。カインの絶対的な支配という名の依存であり、彼と共に世界を裏から動かす共犯者としての地位だった。
二人の唇が再び合わさる。それは、愛欲と策略、そして支配欲が絡み合った、歪んだヴィラン同士の誓いだった。
かつての護衛騎士と、悪役令嬢が手を組んだ今、この王国に、二人の闇から逃れられる場所は、どこにもない。
二人の歪んだ愛の王国は、今、静かにその版図を広げ始めていた。
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2月5日21時より、新連載開始しました!
『悪女の婚約者様は、私を捨てた。それなのに、世界を道連れにしてでも、私を手放さない。』
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退屈を持て余した悪女と、彼女のために世界を滅ぼした怪物が、灰になった王都で永遠の愛を誓うまでの、狂気と純愛の物語。
『断罪』と同じく、ヴィランが活躍します!
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