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神様がくれた500円玉

作者: 和 弥生
掲載日:2025/10/01

前編後篇

~前編~


「神谷君」


突然、部長から私は呼ばれた。


「なんでしょうか、部長」


私は部長に別室に来るよう言われた。


胸がざわざわするのを感じながら部屋に入った。


「神谷君は入社何年目かな?」


「あ、はい、14年目です」


「そろそろ君も万年課長補佐から課長になりたまえ」


「え?私がですか?」


昇格の話だった。


その日の夜、私は天にも昇るような気持ちで家に帰った。


妻に言うべきか迷った。


いつまでもこいつに苦労させてきたからな。


妻の白髪が目に入った。


子供も高校卒業したら大学に行くかもしれない。


これからますます家計は苦しくなる。


よし、話してみよう。


「あなた、これ」


「なんだ、これ」


それは離婚届だった。


まさに青天の霹靂とは、こういうことを言うのだろう。


「おい、まさか、なんで?」


「心当たり、あるでしょう?」


妻はそのまま寝室にいってしまった。


心当たりはある。


社内不倫してたのだ。私は。


でも、なぜばれた?


会社でもあれほど気をつけて、誰にもばれてないはず。


その日、俺はリビングのソファで寝た。


翌朝、妻はいつもの通り、朝食を作っていた。


高校生の娘も、バターを塗った食パンに食らいつきながらあわただしく家を出て行った。


この日常の生活がなくなるのか?


そんな気持ちを抱えつつ、俺は会社に行く。


社内では人事異動の紙が張り出されていた。


前日、部長に昇格の匂いを感じさせるような話があったばかりだから、おれはつぶさに自分の名前がないかどうか確認した。


あった。


課長だ!


しかし、その部署の名前が、俺の人生を変える。


『営業部人事課:リストラ部門担当課長 神谷 修 』


リストラ部門?


なんだ、それは?


午後、社長やら部長やら集まる社内会議といっても、ZOOMだが、そこで部長から言われた。


「神谷君なら出来る。期待してるよ」


その一言で、午後は引っ越し。


こんなの栄転でもなんでもない。


俺がリストラ係?


一番やりたくない仕事じゃないか!


でも、一方で俺は思った。


リストラされる方ではなく、リストラする側。


俺は、同期入社で俺より先に出世いた、あいつのことを思い出していた。



~後篇~


妻からは離婚届け


会社からは、肩たたきをしなければいけない課長


これは人生詰んだ?


その後の俺の生活は一変した。


社内不倫はリストラの対象


俺自身ではないか!


その後の俺の人生はどんどん暗闇へと落ちてゆく


社内の目が厳しいので、とりあえず

彼女に別れをつげる。


「あ、そう」


彼女は一言、それだけだった。


あっけないものだ。


家に帰ると、もう家内も高校生の娘もいなかった。


「さようなら」


置手紙とともに、離婚届。妻の方にだけ判が押してある。


そこからは心身共につらかった。


いいことはライバルを会社から追い出したこと。


でも、良心の呵責につぶされそうになった。


地獄だった。


リストラの仕事なんて、だれもやりたくない。


数カ月が過ぎ、自分の不調に気が付いた。


会社に行くのがつらい。


気が付いたら、自分は湖にきていた。


中央線を逆に乗っていたのだ。


無意識だった。


「ここで死ぬか」


裸足になって、湖の波打ち際まで歩いた。


その時、何かが光った。


「500円玉だ」


おれは拾ってみた。


なにげなく製造された年を見た。


俺が生まれた年だった。


俺はふっと我に返った。


会社に戻ろう!


おれは拾った500円玉を握りしめ、


会社に辞表届を出した。


どうせ、会社も俺を辞めさせたかったのだろう。


そして俺は家に帰った。


拾った500円玉を仏壇におさめた。


亡くなった両親にわびた。


もとはといえば、全てが身から出た錆だ。


おれはこの500円玉を神仏のようにして拝んだ。


すると声が聞こえてきた


「お前は、たかが500円、たかが不倫、たかが課長ってバカにしてきた。わしを拝むのじゃ。すべて人は500円玉以上の価値がある。お前はこれから会う人に500円玉をもらったと思って、500円玉貯金をしよ!そして、困ってる人がいれば、その人に500円玉をあげるだ。そうすれば、お前も救われる」


母の声?父の声?それともご先祖?


私は、その日から500円玉貯金をすることにした。


そこから私の運は上向いた。


娘は半年に一度会えるようになった。


会社は小さいが、社長と奥さんがとてもいい人で良くしてくれてる。


慰謝料と教育費で、貧乏暇なしだが、けっこう幸せだ。


そんな時に、リストラしたあいつに会った。


ホームレスだった。


俺は下をうつむいているあいつの横にあった缶カラに、500円玉を入れた。


あいつは黙ってお辞儀をした。


俺は、心の中で謝った。


そしてあいつもこの500円玉で幸せになってくれることを祈った。


もちろん、その500円玉の製造年はあいつの生まれた年だ。








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