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風牙と影斗の珍道中


 翌日の早朝、俺は準備を済ませ、一番乗りで浄霊院家の門の前にやってきた。しばらくすると、大きなリュックを背負った半袖パーカーにハーフパンツ姿の影斗が現れる。リュックにはよくわからない大きなお守りがたくさんついており、聞けばじいさんからもらったのだという。

 俺たちは少し遅れてやってきたじいさんが運転する車に揺られ、京都駅にやって来た。 まだ薄暗い午前七時前だったが、平日ということもあって、京都駅には人が多かった。駅の駐車場に車を停めたじいさんは、俺がいいって言うのに無理やり南口改札までついてくると、俺たちがホームに向かうところまで見届けて手を振ってきた。

 恥ずかしいだろ――――――と思うのは俺だけのようで、影斗はにこにこしながら手を振り返していた。血がつながっているだろ、と思うほど空気感が似ている二人を冷めた目で見つめ、改札を抜けたところにあった店で駅弁を買ってから六番ホームに向かう。


「で、電車が来た!」

「駅だから来るだろ」

「ね、ねえねえ。あれってどこまで行くのかな」

「新快速米原行きって書いてあるだろ」

「そういえばさ、新幹線ってどこにあるのかな」

「新幹線乗り場だろ。そりゃ」


 影斗はキラキラ眩しすぎる瞳で、落ち着きなく周囲を眺め、電車を見ては興奮している。そういえばさっき、自動改札に切符をいれる時も、子ども切符の音が鳴るのを楽しんでいたっけ。


「お前ってさ、もしかして電車乗るの初めてだったりするのか?」


 俺が呆れたように聞くと、影斗は顔を赤らめて俯く。


「は、初めてじゃ……ない、ぞ」

「二回目?」

「そ、それくらい……かも」


 俺はさりげなくスマホを構え、ホームに入ってきた普通電車と影斗のツーショット写真を撮って見せる。


「ほら。よく似合ってんじゃね? 電車小僧じゃねえか」

「こ、小僧って何だよ! ばかにするなー!!」


 俺が影斗をいじって楽しんでいると、今から乗る特急電車が入線してくる。

 青い頭に、銀色の車体。ところどころアクセントに入っているピンク色が、ちょっとダサいなって思ってしまう。


「か、かっこいいー……!!」


 しかし、影斗はかっこいいと思ったらしく、今日一番のはしゃぎようだった。正直あざとすぎると思ってしまうくらい天然のはしゃぎ方――――――。

 俺たちは早速乗り込み、指定された席に向かう。隣二席で購入している、ということもあり、俺は影斗を窓側の席に誘導する。

 しばらくして電車が走り出すと、流れて行く車窓が、影斗少年をさらに興奮させる。実を言うと俺も特急には乗ったことがなかったので、流れる車内放送や心地よい揺れに身を委ねていると、気が緩んでくる。

 ――――――いや、ダメだ。遊びに行くんじゃない。今から仕事をしに行くのだ。連続児童失踪事件を一刻も早く解決しなければならない。


「ま、腹ごしらえすっか」


 俺は車窓にくぎ付けの影斗の肩を叩き、先ほど買った駅弁を広げる。

 俺が買ったのは、スタミナ満点牛めし弁当だ。肉、食べねえとな。

 影斗はというと、乗りもしないのに東海道新幹線弁当をチョイスしていた。絶対に牛めし弁当の方がうまいだろ。欲しいって言ってもくれてやらねえぞ。

 蓋を開け、早速大きな口でがっついた。肉の旨みが口いっぱいに広がって――――――電車で食べる飯は格別だと思った。


「うんまい……」


 このあざとい奴は、あざとくほっぺたをもちもちさせながら、ゆっくりと味わうように食べている。見ていると、なんだかそのほっぺたの方が美味そうに見えてくる。

 俺の視線を感じ取った影斗は、弁当を窓側に動かし、俺を牽制する。


「あ、あげないぞ!」

「いらねえよんなもん。俺には牛めしがあんの」


 俺はぷいっとそっぽ向き、牛めしを完食した。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


 電車は都会を抜け、山間に入り、ぐんぐん進んでいく。山間は揺れが大きくなり、眠気が増してついウトウトしてしまう。

 そんな感じで出発から数時間後、午前十時過ぎに、目的地である鳥取駅に到着した。ここからは公共交通機関ではなく、迎えの車が来ているとのことだった。名残惜しくも電車から降りた俺たちは、駅のロータリーまでやってくる。周囲を見渡し、迎えの車を探していると大きな声が聞こえてきた。


「おーい!! こんにちは! ようこそおいでくださったっス!」


 軽快な声のする方を見てみると、アニメの美少女キャラクターが印刷された凄くダサいプリントTシャツに薄手のジャケットを羽織った若い女が、こちらに向かって手を振っている。身長はそれなりに高く、顔も端正に見えたが、長い黒髪おさげに、かけている大きな丸眼鏡がさらにダサさを醸し出していて――――――。


「うおっ!! 聞いてた話通りの激カワショタだ!! いやぁ照れるっスねぇ……」


 女はすごい速さで影斗の巨大なリュックを奪い取ると車のトランクに積み、影斗の肩をもみもみし始めた。


「肩、凝ってるでしょ? 長旅だったっスもんね。リラックスリラックスっス~。ぐへへ」

「ぐへへじゃねえよ」

「ぎゃん!」


 俺は女が肩ではなく全身をもみもみしようと試みているのを見て危険を感じ、女の肩の凝っていそうなところにチョップをかます。


「そ、そんな……拙者、癒しをもたらしたかっただけなんス」

「初対面でてめえがもたらしてんのは癒しじゃなくて不信感だろ」


 女は流れるように俺の荷物も車のトランクに積み込むと、咳を払ってから自己紹介する。


「改めまして、拙者は門馬千晶(もんまちあき)というっス。所属は、想術師協会そうじゅつしきょうかい傀異対策局(かいいたいさくきょく)〈第五部〉で準一級想術師。今回の事件の担当っス」

「拙者……?」

「あ、初めまして。おれは西浄影斗(さいじょうかげと)です」

「俺は功刀風牙(くぬぎふうが)

「功刀さん! お噂は聞いてますよ! 最年少で二級想術師になったすごい人だって!」

「お、おう……それほど、でも……」


 門馬は顔を近づけて俺を見ながら手を取ると、せわしなく俺の腕を動かす。俺はなんだか気恥ずかしくなって、門馬から目を反らした。すると門馬はくるりと体を回し、今度は影斗を見つめる。


「それで、影斗さんが、功刀さんの助手なんスよね?」

「は、はい!」


 一応じいさんが現場には話を通していて、影斗は俺を補佐する助手ということになっている。


「ではでは積もる話は向かいながら~。あ、そうだ。その前に、お聞きになってますか? 隠匿の概念の傀朧について」

「ああ。聞いてるぜ。そのせいで、傀異を探せねえとかなんとか」

「そうっス。それで厄介なのは、この傀朧が人の認識を歪めてしまうってことっス」


 隠匿の概念の傀朧。じいさんが言っていた通り、誘拐されたことにも気づかないほど、人々の認識に影響を与えているものらしい。そんな危険な傀朧を浴び続ければ、想術師であっても影響が出る可能性が高い。


「だから、ちょっと術をかけさせてもらいたいんス。あ、安心してくださいね! 拙者一応、神道を修めているので、まじないは得意なんス」


 自信ありげに胸を張る門馬を見て、俺は少し不安になる。なんだか嫌な予感がする。俺は警戒感を露骨に表し、じーっと門馬を睨む。


「ほ、ほんとっスからね! 早速お二人にかけて証明するっス!」

「いや、俺はパス。大丈夫だ」

「お、おれは……」

「影斗さんは想術師じゃないんで、絶対に必要っス!!」


 門馬は影斗の肩を掴み、顔を近づける。やたらと鼻息が荒いので心配ではあるが、想術師ではない影斗にとって危険な傀朧を浴び続けることは避けた方がいい。俺はためらいながらも受けることを勧める。


「まあ、影斗は受けた方がいいんじゃねえかな……」

「う、うん……じゃあお願いします」

「任せるっス!」


 門馬はそれを聞くと、ノリノリで術の込められた式札を取り出した。


「ではでは早速術をかけるっスよ……うひょー、こんなかわいいショタに術をかけるの初めてなんで、ちょっと緊張するなぁ」

「おい。ちょっとでも怪しい動きしたら……」

「えっと……会って早々なんですけど、背中に寒気がしました。気持ち悪いです」

「うひょー! 正直な手厳しいおショタの罵倒! でも、それが良いっスね! 新たな扉が開きそうっス!」

「別に罵倒してねえだろ」


 なぜかテンションが上がった門馬は、式札を影斗に数枚張り付けたところで、腕を組んで考え事を始める。


「ど、どうしたんですか?」

「いやあね、ちょっと考え事してたんスけど、昨今霧が濃くなっているんス。やっぱり術の精度上げた方がいいっスね」

「えっ」


 深刻そうな低い声を出した門馬は、式札を剥がし始める。


「効力はなんと……一・五倍! 増し増しっス! どうっすか?」

「それなら、お願いします……?」

「では早速服を脱ぐっス」

「おい!!」


 嫌な予感が的中した。俺がすかさず間に割って入ると、影斗はなぜか唸って悩んでいる。


「し、仕方がないのかな……風牙はどう思う?」

「増し増しとか、んなわけねえだろ。こいつはただの変態だ」

「あ、脱ぐ時はちゃんとパンツも脱いで欲しいっス」


「「ふざけんな」」


「ぎゃふん」


 俺と影斗は門馬を突き飛ばして、距離を取る。門馬は情けない声を出し、おろおろとへたり込むと、悲し気に俯いた。

 いや、悲しむ要素はこれっぽちもないぞ。当たり前だろ。

 俺たちはさっさと車の後部座席に乗り込む。


「んだよ……あいつ、変態じゃねえか……」

「準一級って聞いたから、すごい人なのかと思ったのに」

「おほん。では気を取り直して」

「どう気を取り直すんだよ」


 何事もなかったかのように運転席に座った門馬は、ノリノリでシートベルトつけると、元気よく宣言する。


「それでは八下田(やかた)町に向けて出発っス!」

「すごい……そのメンタル見習いたいな」

「いや、やめとけ……」



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