表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/18

作戦失敗


「くそっ……」


 先ほど受けたダメージが全身に響き、火傷を負ったようにじりじりと痛む。

 油断した、というよりは予想外だった。八尺様の傀異に、まさか傀朧を打ち出すような攻撃があるとは思っていなかった。

 傀異は概念に忠実だ。逆に言うと、概念を逸脱したような動きはできない。

 それなのに、あのような攻撃をするなんて――――――。


「大丈夫か?」

「……なんとか」


 灰狼の呼びかけで、俺は我に返る。


「そうだ……何であんたたち、タイミングよく来てくれたんだ?」

「偶然だ。電話で話した件に進展があってなァ」

「影斗が追われてる。本当に犯人は想術師なのか?」


 俺の言葉に、灰狼は窓から腕を出して遠くを見つめる。


「どうやらそのようだなァ。化け物はいる。でも、状況証拠は人様の犯行と言ってる。ならこの矛盾をどう解消するか……」


 灰狼はタバコに火をつけ、窓の外に向けて勢いよく吐き出す。白い霧と煙が同化してすぐに見えなくなる。


「傀異を祓えりゃ、誘拐も止まるんじゃねえか?」

「なあ風牙。想術師(せんもんか)の視点から見て、被害者のガキ共はどうなったと思う?」


 唐突な質問に、俺は言葉を詰まらせる。

 傀異は、概念に逸脱した行動を取ることはない。必ず核となった概念に従った行動パターンを見せる。なら、〈八尺様の怪談〉にある魅入られた者(・・・・・・)はどうなってしまうのだろうか。取り殺されるという話もあり、生きたままどこかに連れていかれるという話もある。つまり、はっきりしていないのだ。

 ならば、あの八尺様の傀異は、影斗をどこへ連れて行こうとしているのだろうか。

 取り殺すのか。それともどこかへ連れて行くのか。

 ――――――どちらもしっくりこなかった。


「……悪ぃ。わかんねえ」

「わかんねえよな。それがわかりゃ苦労はしねえ。だって科学的に証明できねえ化け物(・・・)だからな」


 傀異は人間ではない。想像から生み出された存在なのだ。

 人間の想像―――想い(・・)に従って行動する――――――。


「……想い」


 俺の頭に、何かが引っ掛かる。先ほど戦った白い女の傀異は、何か妙なことを言っていたような気がした。

 ――――――マモル。まもる。守る?


「功刀君。あれを」


 運転席の七楽が俺を呼ぶ。身を乗り出して前を見ると、林道の傍で、軽バンが煙を上げて停車していた。


「あれは!」


 影斗を乗せた車で間違いない。俺は急いで車から降り、状況を確認する。

 軽バンの傍で、木の幹に背中を付け、頭から血を流した門馬がぐったりとしていた。どうやら軽バンは勢いよく木に激突してしまったらしい。


「大丈夫か!?」

「ああ……風牙君ですか。申し訳ない」


 車の傍にいた刈谷が、俺に気づいて寄って来る。


「逃げる途中、八尺様に襲われましてね。門馬が避けようとハンドルを切ったら、こうなってしまって」


 俺は門馬の様子を確認する。


「あはは……拙者のせいっス……ほんと、どう責任取ったらいいか……」

「今から影斗を取り戻せばいいだけだ。あんたのせいじゃねえよ」


 俺は刈谷に傀朧検知器があるかを確認する。刈谷は軽バンのトランクから検知器を引っ張り出し、俺に手渡してくれた。


「八尺様の傀異は、傀朧の分析も終わってるし、これで追えるだろ。あんたは門馬を病院に連れて行ってやってくれ」

「ですが君一人では……」

「俺なら大丈夫だ」


 傀朧検知器を起動させ、表示されたレーダーで八尺様の傀異を探す。その合間に、刈谷が小さく耳打ちしてきた。


「彼らは?」

「ああ。警察だって言ってたぜ」

「警察? 警察がなぜここに」


 刈谷は低く呟くと、警戒心を露わにして灰狼たちに詰め寄っていく。


「どういうことです? 捜査権は移譲していただいたはずですが?」


 刈谷はメガネをクイッと上げ、灰狼を睨みつける。


「ええ。そうなんですがね、ちょいと別件の殺人事件に、想術師が関わっていまして」

「殺人事件?」

「この辺りの傀朧を管理している〈傀朧管理局〉所属の三級想術師、奥谷真子(おくたにまこ)さん七十四歳が、自宅で白骨化遺体で発見されましてね。その件で、お二人にお話を伺おうと来たんですよ」

「……奥谷さんが」


 刈谷は一瞬、驚いたように見えた。それでもすぐに、灰狼に向かって淡々と告げる。


「申し訳ありませんが、その件も本部に確認を取ります。我々の管轄となる可能性が高い案件です。確認を取り次第、捜査権を移譲していただく形となるでしょう。ですから、お引き取りを」

「……管轄ねェ」


 灰狼はまじまじと刈谷を見つめる。刈谷の圧に対し、しばらく沈黙したのち、灰狼は笑って肩を竦めた。


「それなら仕方がないですなァ」

「ではお引き取りを」


 刈谷は灰狼に背を向け、俺の近くに戻って来る。その時、傀朧検知の結果が出る。


「……これって」


 俺は言葉を失った。

 八尺様の傀異が向かった先を示していたのは――――――先日影斗と行った〈野上家〉だった。


「刈谷さん。俺、行くよ。あんたたちは一旦病院に……」


 俺がそう言うと、門馬がよろよろと立ち上がる。


「いや、功刀さん。拙者も行きます」

「無理すんなって」

「私も反対だ。どこか打ったかもしれない。病院に行った方がいい」


 俺と刈谷は説得を試みるが、門馬は苦笑して車に戻ろうとする。


「大丈夫っス。それに、これ以上迷惑をかけたくないから」


 門馬は車のトランクから大きな木の棒を取り出した。先端に白いお札が大量にぶら下がっている。よく神社などで見かけるお祓いの道具のようだった。


「今夜ならギリギリ間に合う。拙者に任せて欲しいっス。必ず影斗さんを取り戻しましょう」


 門馬は力強く宣言し、俺の目を見る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ