07S.変わりゆく世界
ツリーマンの新しき代表者と、成った「ジャイガ」が、驚いた顔をして、シロの元を尋ねました。「シロ様、シロ様、何が起きて居るのでしょうか。世界が、この世界が、急激に変化しております。私は恐ろしいです。」と、彼女が訴えました。シロは、諭すように、ジャイガに言いました。「ジャイガよ、大丈夫よ。この世界の方向性が決まったので、急激に環境が、変化して居るのです。」
「ここに居れば、この変化に巻き込まれずに済むわ。ここは世界の中心で有り、要に成って居るの。私達に都合が良いように、変化して居るから。」と、シロが答えました。ツリーマンの代表者の「ジャイガ」は、名前こそ怪獣のような呼び名ですが、彼女はシロと同じ「女型」でした。
彼女は、肌色の白い細身の美女で、同族で同じ歳のバラゴよりも、大人びて居ました。彼女の髪は、栗毛色の直毛で有り、バラゴよりも背が高くて、品位が有りました。最近のシロは、いつもノエルと一緒に、居ました。シロの傍には、いつもノエルが、控えて居ました。シロもノエルも、いつも笑顔でした。
その笑顔を見ると、ツリーマンのジャイガも、安心したように「麓の者達には、不安が無いことを、報告しに戻ります。」と、言いました。麓のツリーマン達は、この世界の管理者で有る「蓮沼シロ」が、女型で有るので、そのシロに対する対応者を、厳選して、同じ女型の「ジャイガとバラゴ」に、決めました。当初はバイラスと言う、年長者の美女が、仕切って居ましたが、彼女の寿命が、尽きたので、今ではジャイガ達が、次の代表者に、成りました。
遠くの方で、不安げに何匹かの魔獣達の遠吠えが、聞こえました。鳥系は、皆で大きな木に止まり、固唾を飲んで、大地の変化を見守りました。「妖精アイリス」も静かに、その様子を、見ました。アイリスが、小さな声で呟きました。「いよいよ、この世界の最終段階が、来ました。シロちゃんとノエル君の〝アンバランスの解消″を、始めるときが、来たようです。」
何処からともなく、シロ達の元を離れていた4魔獣達が、久し振りに彼女の元に、帰って来ました。彼らは、シロとノエルのことを忘れずに、最後のときの為に、挨拶に来たのでした。ネコ科のマーベルが、大事そうに何かの宝石のような「白銀に輝く石」を、口に咥えて、シロに差し出しました。シロに「これを受け取れ」と、言って居るようでした。シロは、マーベルに「有難う」と、感謝の言葉を述べると、その宝石を受け取り、部屋の中に置きました。
それから数日が経つと今度は昔、流行り病で亡くなった、養子のロイドに、良く似た子供のツリーマンが、シロの家を尋ねて来ました。彼は強風で、飛ばされてしまい、道に迷ったようで「一晩泊めて欲しい。」と、言いました。「シロとノエル」は、彼がロイドに、良く似て居たので、許可して一泊させました。
その子は、嬉しそうに、何でも良く食べて、良く寝て、シロ達と話しをしながら、満足して、帰りました。シロ達は、そのときに亡くなった「養子のロイド」が、帰って来たようで、嬉しく成りました。シロ達は「彼も多分、ここに挨拶しに来たのだろう。」と、話しました。
蓮沼シロには、最近「ホムクロンのロザリー」の記憶が、頻繁に蘇って来ました。彼女の寿命は短く、生まれてから25年の生涯でした。ノエルと再会して共に暮らすように成ったのは、僅か3年程でした。彼女は、狂った帝国が造り出した「人工授精体」でした。その目的は、男の欲望を満たす為に造られた「スレイパー(性奴隷)」でした。
彼女は誕生するまで、保育器の中で育てられ、生まれると研究所の中で、育ちました。そして、そこで教育を受けました。それから15歳に成ると、本格的な性技の手解きを、受けました。彼女は何も知らずに、その手解きを覚えました。そして18歳に成ると、本格的な客の相手を、させられました。来る日も来る日も、客の相手をする日々を、送りました。
彼女は、美しかったので「店の看板娘」に、成りました。「卑猥なポーズ」を取らされ、股間をむき出しにして、客を取り込むアイテムに、成りました。しかし彼女は、そのことが、悪いことで有ることを、知りませんでした。そこは「右側神の世界」で有り、店の指導による彼女の行為は、違法では有りませんでした。また彼女達ホムクロンの寿命は、短く彼女達は、消耗品でした。その為より過酷で、卑猥な行為の連続でした。
そんなときに、彼女の居た研究所の助手で有ったのが「ノエル・バスター」でした。彼は、当時のロザリーを知って居ましたが、それ程強い印象は、持ちませんでした。彼は、彼女達が何処の店で、自分の身体を、売って居たのかを、知って居ました。
そんなときに、暗い売店の広告塔に「彼女の卑猥な姿」をしたブロマイドを、見付けました。彼は、その姿を見て釘付けに、成りました。その写真のモデルは、彼が知る娘でした。その彼女の姿は、筋金入りの「バイター(風俗嬢)」に、成って居ました。
そして彼は、彼女の居る風俗店へ行き、彼女の常連客に、成りました。そしてノエルは、自分勝手に彼女のことが、好きに成り、ロザリーを口説いて「彼のもの」としました。彼は、ホムクロン研究所の元助手と言う身分から、彼女の所属する風俗店から信用されました。
彼女こと、ホムクロンとの同棲生活のデーターを、研究所に定期的に報告することを条件として、ロザリーと「ツガイ」に成ることを、認められました。彼等には、研究所所有の、定められた最新マンションのワンフロアを、与えられ、そこで新婚生活を、送ることに、成りました。
ロザリーは「男型の性欲」を、満たすだけの「バイター」としての生活しか、知らなかったので「ノエルとの新婚生活」は、目から鱗の連続でした。彼女は、彼との生活によって初めて、普通の魔人類達の生活を、経験することが、出来ました。ロザリーは、彼に連れられて、色々な店に行きました。保養地にも、たくさん連れて行って、貰えました。
ノエルの世界は、ロザリーの知らない世界ばかりでした。そして彼女は、3年後に、亡くなりました。25歳でした。それが「ホムクロンの寿命」でした。またロザリーは「人工授精体ホムクロン」の中では、幸せな生涯を、終えた存在でした。彼女の人生は「良い方の部類」に、入りました。彼女の死に顔は、とても穏やかなものでした。
ロザリーを失うとノエルは、深い悲しみを味わいました。彼は、彼女のことを、愛して居ました。彼は28歳で彼女を失うと、85歳まで生きました。彼女が死んでから50年以上も、彼は生きたのです。彼女を失ってもノエルは、再婚することも無く、いつも彼女を思って、生きました。そして何回もノエルは、思い続けました。
「自分は、長命のようだ。自分の寿命を、短命な彼女に分け与えて、共にもっと長く生きたかった。なるたけ長く、彼女と一緒に暮らしたかった。生まれ変わりが有るならば、今度彼女と出会ったならば、自分は絶対そうするだろう。」
ノエルのことを1柱の神が、見て居ました。その神の名前を「中央神アラル」と、言いました。この神は、ロザリーがお気に入りでした。彼女が死ぬと、彼女のアニマスは、中央神の元に届けられました。ノエルは、ついでに見られた存在でした。しかし彼は、いつまでもロザリーのことを、思って暮らしました。来る日も来る日も、望んで居ました。「中央神」は、彼の揺るぎない心を知ると、彼にも興味を、持ちました。
丁度良い「神界のアンバランス」を、解消させる方法が、有りました。自分の化身に、ロザリーの「ペルソナ(人格)」を、加えて「蓮沼シロ」を、新たに創りました。そこに「ツリーマン」と成った「ノエル」を、向かわせました。「神界のアンバランス」を、ノエルが、解消させる為でした。