03S.ツリーマンの死と再生
「蓮沼シロ」の友人と成った「ツリーマンのバイラス」は、その日彼女に、挨拶に来ました。彼女が言うには「死が近づいて居る」とのことでした。「最後の別れに、来ました。」と、言いました。シロは頷いて、彼女と最後のときを、過ごしました。自分の後は、同じ従者のジャイガに、決まりました。バラゴとジャイガも、傍に控えました。
バイラスは、シロの家を出ると、自分を生んでくれた「魔人樹」の傍に来ました。その木の回りには、たくさんの盛り土が出来て居ました。彼女は、自分の場所を見付けると、横たわり静かに、目を閉じました。すると呼吸が止まり、彼女は死にました。この状態で、その日の内に彼女は、土に変わりました。それが、ツリーマンの最後でした。
彼らは順番に、その木から生まれて、その木の近くで死にました。魔人樹から生まれたツリーマンは、30年の生涯でしたが魔人樹は、数百年を生きることが、出来ました。魔人樹は、15年ごとにツリーマン達を、実らせました。
魔人樹は、木のような姿でしたが、動物に近い存在でした。彼等は根を張ると、その地に繁りました。「中央神の世界の光」と「大地の養分」を、吸って生きました。そして、この世界の魔人類を生みました。それがこの樹の「デュデス(役割)」でした。
第2世代のツリーマン達が死滅すると、第3世代のツリーマン達が、トップに成りました。彼等は、先代の言いつけを良く守り、生きることを決めました。そして第4世代の子供達を、育てました。「蓮沼シロとノエル」も、ツリーマンの子供を育てました。シロは意外と子育てが好きでした。ノエルも子供が好きでした。シロ達は、少しずつ年老いて行きました。
シロは、第4世代の「男型の子供」が、お気に入りでした。彼女は、その子に「ロイド」と名付けて、可愛がりました。ロイドは、彼女達に可愛がられたので、シロとノエルに、懐きました。彼は「バイラスとバラゴ」が生まれた、同じ魔人樹のツリーマンでした。
シロは、代表者の1人に成ったバラゴに言うと、彼を養子に迎えました。ロイドには「妖精アイリス」が、見えませんでした。ツリーマンの子供は、誕生すると人間の子供と良く似て居ました。ツリーマンのモデルは、明らかに人間で有り、彼等と良く似た習性を、持ちました。
シロとノエルは、ロイドを自分達の養子に迎えると、彼等は「疑似親子の関係」に、成りました。魔人樹の根の一部が、肥大化して、そこに胎児が宿りました。彼等は、人間の赤ん坊位の大きさに成ると、地中から頭部を出しました。そして先に誕生した先輩のツリーマン達に、今では根の被膜部分を破って貰い、宿った胎児を、取り出すように、成りました。
このようにしてツリーマンの子供達は、この世に生まれました。彼等は誕生のおりに、人間のような産声を上げました。また彼等は、生まれたばかりの頃は、魔人樹の根から分泌される、樹液を飲んで、大きく成りました。そしてそれが終わると、食物採取に、変わりました。
シロとノエルの養子ロイドは、既に幼児と成ったので、彼等と同じものを食べました。彼らの排泄穴は、2つ有りました。1つ目の穴で排尿しました。食べたものは便として、2つ目の穴から排出されました。その排泄の仕組みは、人間のものと同じでした。
ロイドが、シロの家の子に成ると、妖精アイリスが「この子は、シロ達に子育ての訓練を、させる為に、与えられた子供です。」と、言いました。また「離別し易い子供です。」とも、言いました。ノエルは、人間世界の武道のような、それと良く似た格闘術が、出来ました。それは誰に教わった訳でも無く、彼の「アニマス(根源)」に、生まれ付き、備わったものでした。
この世界は、まだ出来たばかりの世界のようで「何も無い世界」でした。そこは荒涼とした大地が、広がって居ました。生物の種類も少なく、シロ達が居る場所が、全てのような世界でした。また危険な生物も居ませんでした。この世界は、長い年月を掛けて、自然環境が整った形跡が無く、粗削りに造られた自然環境下で、シロ達が創られて、その場所で生きて居ました。
生物の種類が少なく、この世界のものは一部、突然現れて、この世界に定住しました。まだ危険生物が居ませんが、外敵が出現したときに、その敵に対応する為か、ノエルには、外敵に対処する為の「未知なる格闘術」を、授けられました。それは、この世界の住人で有る「ツリーマン達の格闘術」でも、有りました。
こちらの世界では、それは「秘拳バクラチオン」と、呼ばれるように、成りました。そして驚くべきことに、未来ではノエルが、この秘拳の「始祖」と呼ばれ、称えられる存在に、成りました。元々ノエルの前世は「研究所の助手」と言う、肩書でしたが、彼がここに新しく転生したことにより、自分の身を守る為に、特別な護身術を、授けられたようでした。
「秘拳バクラチオン」とは、相手の腕を取り、押したり引いたりしながら、敵の態勢を、崩してから、投げたり押さえつけたりする格闘術でした。基本の技には、右とか左とか、表と裏の連続技が有りました。技が結構、難しいので最初の頃は、覚えるのが大変でした。その秘拳をノエルは、ロイドに教えました。彼は真面目な子供でしたので、ノエルの教えを良く聞きながら、技の習得に励みました。
彼等親子は、暇が有れば良く、シロの家周辺で、稽古をしました。しかしロイドは、この家に来てから10年位で、流行り病に掛かり、短い生涯を終えました。そのとき、シロとノエルは、深い悲しみを味わいました。
ツリーマンの子供を含めた個体は、最長で30年位、生きることが出来ました。その前に、何かの原因が有れば、亡くなる者も居ました。それは、人間世界でも同じことでした。シロは、ロイドのことも有り、親しかったバイラスとバラゴも同じ魔人樹から生まれたことも有り、その樹から生まれた者達を、優遇するように、成りました。
彼女達を生んだ「魔人樹」は、特別に「バイラ・ツリー」とも、呼ばれるように、成りました。その樹から生まれたツリーマン達は、特にシロの家や、エリア周辺の警備等をする「親衛隊」のような存在に、成りました。他にツリーマンの新しい代表者と成った「ジャイガ」の系統も、優遇されました。
それから暫く経つと、魔人樹が繁って居るエリアから、少し離れた場所に、全く違う種類の「魔人樹」が、現れるように、成りました。その樹は、見てくれも違う、別種の魔人樹でした。ここで、その樹を敢えて言うならば「魔獣樹」とでも呼べそうな「別種の樹」でした。この樹は、魔人では無く、魔獣を生み出す、樹でした。
その魔獣樹からは、犬や猫と良く似た獣や、鳥や鱗を持った蜥蜴のような獣達が、生まれました。その獣達には、雌雄の区別が無く、性器も有りませんでした。その獣達も、生まれ出ると皆、穏やかな性格でした。「人に懐き易い」良きペットの様相を、秘めて居ました。「中央神アラル」の世界の生物達は、基本的には、そのような過程を経て、生み出され増えていく世界でした。