表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】生贄にされた王女は竜の城でお茶をたしなむ  作者: なんかあったかくてふわふわしたやつ
第一章 眠れる森のドラゴン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/41

4

 明朝、エリスはフェリシーダ城から馬車に乗せられ、ドルミーレの森へと送られた。


 まるで婚礼こんれい衣装いしょうだわ……と、身につけた真っ白なドレスを見て、エリスは皮肉った。

 ハーデュスは、自分をドラゴンにとつがせる気なのだろうか。まるで振られたことへの当てつけのようだ……

 ……いや、当てつけそのものなのだろう。

 きっと、ドラゴンに食べられやすいように、こんな格好をさせたに違いないとエリスは思った。あとで、動きやすいようにすそをビリビリに破ってやろうかと思う。



 エリスが向かう、ドルミーレの森。

 そこは千年前、たくさんの人々が暮らすみやこだったという。


 エルマギアがまだその名で呼ばれていなかったころ、この場所を守っていた魔女がいた。

 それがエリスのご先祖様、”始まりの魔女”である。


 始まりの魔女は、千年前のいくさの後、攻め入ってきたイストリアの王子に求婚され、現王都アモルにあるフェリシーダ城に女王として迎えられた。

 その際、魔女は使役しえきしていたドラゴンをこの森の中の古城に封印したという。

 その時から、この場所は、眠りの魔法がかかった深い森になったと言われている。



 森の中は草木が鬱蒼うっそうしげっていたが、ドラゴンが封印されている古城までの道だけが、不思議なことに誰かが手入れしているように整然せいぜんとしていた。

 恐らくこの道は、千年前の都に整備されていた太い街道かいどうだった部分なのだろう。

 そのため、エリスの願いとは裏腹うらはらに、馬車はすんなりと古城へたどり着いてしまった。

 ……一日も、かからなかった。


「どういうことなのよ…………早すぎじゃないの…………」


 古城にかかった橋の手前でエリスが嘆息たんそくして古城を見上げていると、従者じゅうしゃたちが悲愴ひそうな声をあげた。「なんでこんなに早くいちゃうんだよ、バカ!」と馬をしかりながら涙を浮かべてくれている者もいる。馬は悪くないわ、とエリスは彼をなだめた。

 従者の一人が、がつっと、悔しそうに馬車のとびらなぐりつける。


「くそっ。何で姫様がこんな目にあわなきゃいけないんだ!」

「本当だよ、いつもみんなのことを思っていてくださる姫様が、こんな……」

「出来るなら、俺が代わって差し上げたいです……!」


 エリスは、彼らの言葉に胸がいっぱいになった。

 従者たちとは、ここでお別れである。ドラゴンの背に乗って帰還きかんするようにと、元老院から言われているのだ。


「……みんな、送ってくれてありがとう。じゃあ、頑張がんばってくるわね」


 エリスは、城へと続く橋を一人でわたる。

 一歩一歩進むたびにくじけそうになる心を必死に叱咤しったする。


 そうして、エリスは何とか古城の門へとたどり着いた。

 代々、王家に伝わるかぎで門を開け、城の入り口まで進む。


 古城は、歴史を感じさせる姿で、ひっそりとそこに佇んでいた。

 だが、白い石のかべに青い屋根の尖塔せんとうなど、千年の月日が経った今でもその美しさがち果てることはなかったらしい。森の中で、ここだけが別の世界のようだ。

 そして、この小さな城の中に、ドラゴンがいるといううわさだった。


 大きな扉を押し開け、エリスは恐る恐る中へと入る。


「……あら?」


 中の様子に、エリスは不思議に思った。

 古城には千年の間、人が入ったことはないはずだった。それは門の鍵がかかったままだったことからも明らかで。厳重げんじゅうに管理されていたこの鍵も、使われたことがないという記録だった。

 だというのに、古城の中は、誰かが手入れしていたように整然せいぜんとしていた。

 蜘蛛くもの巣も張っていなければほこりも落ちていないし、フェリシーダ城にある古い塔の中のような、かびくさいにおいもしない。


「これも、魔女の魔法のせいなのかしら……」

「そうですよ」


 背後で扉の閉まる音。

 それと共に声がして、エリスは慌てて振り向いた。


 見れば、扉の前には古の騎士がまとっていたであろう古い全身(よろい)があった。表面がかがみのようにエリスを映す。

 今まで、なかったはずなのに……?

 エリスが疑問に思った時だった。


 鎧が、かぶっていた帽子ぼうしでもとるようにかぶとをすぽっと外した。

 首がない……だけじゃなかった。

 一礼した鎧の中身が見えたが、中には何もない。誰も入っていない。カラだ。


「ようこそお越しくださいました。わたくし鎧のメイルと申します。以後お見知りおきを――」


「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!????」


 エリスは叫んだ。

 誰も入っていない鎧が、ひとりでにしゃべっている!?

 鎧は悲鳴ひめいおどろいて、兜を元の位置に戻す。


「落ち着いてください、大丈夫です、怖くないですって! ほら、剣、剣も置いてきましたし! 危ないものなど持っておりませんゆえ! ね?」


 がっしょんと音をさせてメイルと名乗った鎧が前進する。

 怖くないわけがなかった。エリスは護身ごしん用にとふところに忍ばせておいた短剣を引き抜き、メイルにきつける。


「ああああなた、それ以上近づいたら溶鉱ようこうにたたき込むわよ!?」

「ぇえっ!? それはご勘弁かんべんです……ね、これ以上近づきませんから、落ち着いてください」

 万歳ばんざいをしたまま、メイルが足を止める。

 エリスはばっくばっく鳴っている自分の心臓を落ち着けるように深呼吸した。


「……だ、だだ、大丈夫よ、落ち着いた、落ち着きましたから」

「本当ですか……?」

「え、ええ、本当に…………そ、それで、あなたは何なの?」

「ご覧の通り、鎧です。ただ、魔女セイリーン様がこの城にかけた魔法によって、どういうわけかわたくしという人格が生まれてしまった鎧なのですが」


 まるで他人事のような説明だった。

 だが、悪い鎧ではなさそうだ。

 エリスは、メイルに向けた短剣を下ろした。


「……わたしは、そのセイリーンの末裔まつえいよ。セイリーンから数えて二十六代目。名前は、エリスティーナ・セミリヤ・エル・マギア」

「ほお、あなた様がエリスティーナ様でしたか」

「あなた、わたしを知っているの?」

「はい。あなた様がこの城へといらっしゃることは、決まっていたようなものですから」

「どういう意味……?」

「説明するとなると難しいのですが……。いやあ、それにしてもセイリーン様とよく似ていらっしゃいます」


 話を逸らしたメイルに、どれほど魔女と似ているものかとエリスは鼻を鳴らした。


 黒髪に青い瞳は、代々魔女の血筋の者ならば持っていたものだ。

 イルダも、エリスと同じ髪と瞳の色をしていたし、エリスは母の若い頃にそっくりだとよく言われていた。セイリーンの肖像しょうぞう画は残っていないので知るよしもないが、彼女も同じような姿だったのだろうか。


「メイル、会ったばかりで申し訳ないのだけれど、この城でドラゴンが目覚めたと聞いてわたしはやって来たの。本当かしら?」

「ええ、本当です。あなたが来ることが決まっていたからこそ、目覚めたと言っても過言ではないのですが……」


 意味深な台詞せりふをメイルは放った。

 エリスが眉根まゆねせていると、表情の見えない鎧は、しかし楽しそうな声音で城の奥手へと手を差し向けた。


「ドラゴンに会いたいのでしょう? ご案内しますよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ